独身中年の「料理が上手くなりたい」——もやし炒めの先にある世界への旅

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はじめに——「もやし炒め」しか作れない自分に飽きた

もやし炒め。このシリーズで何百回書いた言葉だろうか。もやし炒めは氷河期世代のサバイバルフードであり、節約の象徴であり、「最低限の自炊」の代名詞だ。もやし30円。豚こま100円。醤油をかけて炒める。5分で完成。安い。早い。腹は膨れる。だが——美味くはない。正確には「美味い」のだが「感動」はない。3000回目のもやし炒めに感動する人間はいない。

「料理が上手くなりたい」。この願望を持つ45歳独身男性は、実は多い。だが「上手くなる方法」がわからない。「料理教室に通う?高い。恥ずかしい」「レシピ本を買う?読んでも作れない」「YouTubeを見る?見ても再現できない」。この「わからないからやらない」のループが、もやし炒め以外のレパートリーを増やすことを阻んでいる。

このエッセイでは、「もやし炒めしか作れない45歳男性」が「10品のレパートリーを持つ料理好きの中年」に変身するための、段階的なステップを示す。料理教室には行かない。レシピ本も買わない。YouTube(無料)とスーパーの食材だけで、「料理が上手い自分」を手に入れる。

レベル1:「もやし炒め」のアレンジで「3品」に増やす

いきなり新しい料理に挑戦するのはハードルが高い。まずは「すでに作れるもやし炒め」をアレンジして、バリエーションを増やす。

アレンジ1は「味付けを変える」。いつもの醤油味を、焼肉のタレ味に変える。焼肉のタレ(100均で110円)をフライパンに回しかけるだけ。同じもやし+豚こまが「焼肉風もやし炒め」に変身する。醤油味に飽きた夜に。

アレンジ2は「卵を加える」。もやし炒めの最後に溶き卵を回し入れる。半熟のうちに火を止めて混ぜる。「もやしと卵のふんわり炒め」。卵のたんぱく質が加わって栄養バランスも向上。追加コスト20円。

アレンジ3は「麺を加える」。もやし炒めに焼きそば麺(1玉30円)を加える。ソースをかけて炒める。「もやし焼きそば」。もやし炒めが「主食+おかず」の一品完結メニューに進化。ご飯を炊く手間も省ける。

「アレンジ」と言っても、やっていることは「調味料を変える」「食材を1つ足す」だけ。新しい調理技術は一切不要。もやし炒めが作れるなら、この3品は「今日から」作れる。レパートリーがいきなり4品(もやし炒め+3アレンジ)に。

レベル2:「炒める以外」の調理法を1つだけ覚える——「煮る」

もやし炒めは「炒める」調理法だ。次のステップは「炒める以外の調理法」を1つ覚える。おすすめは「煮る」。なぜなら「煮る」は失敗しにくいからだ。炒め物は火加減を間違えると焦げる。煮物は水分があるから焦げにくい。時間をかければかけるほど味が染みて美味くなる(限度はあるが)。

最も簡単な煮物は「肉じゃが」——ではない。肉じゃがは意外と難しい(じゃがいもが煮崩れる問題がある)。最も簡単な煮物は「豚バラ大根」だ。

豚バラ大根のレシピ。材料:豚バラ肉200g(200円)、大根1/3本(60円)、醤油大さじ3、みりん大さじ3、砂糖大さじ1、水300ml。作り方。大根を1cm厚の半月切りにする。豚バラを3cm幅に切る。鍋に油をひいて豚バラを炒める。大根を加えてさっと炒める。水、醤油、みりん、砂糖を入れる。蓋をして弱火で20分煮る。完成。

20分煮るだけ。その間は何もしなくていい。テレビを見ていてもスマートフォンを見ていてもいい。20分後に蓋を開ければ、大根に味が染みた「豚バラ大根」が完成している。「自分で煮物を作った」達成感。もやし炒めとは次元の違う「料理をした実感」が得られる。

レベル3:「味の基本公式」を覚える——醤油:みりん:砂糖=3:3:1

和食の味付けは「醤油:みりん:砂糖=3:3:1」の黄金比がある。この比率を覚えておけば、何を煮ても何を炒めてもそれなりの味になる。肉じゃがも、生姜焼きも、照り焼きも、煮魚も。すべてこの比率の応用だ。

この黄金比をベースに「足す」ことでバリエーションが広がる。生姜を足せば「生姜焼き」。にんにくを足せば「ガーリック炒め」。豆板醤を足せば「ピリ辛炒め」。カレー粉を足せば「カレー味」。黄金比+1つの調味料。このシンプルな組み合わせで、レパートリーが無限に広がる。

「レシピを覚えられない」という人は、この黄金比だけ覚えてほしい。「醤油3、みりん3、砂糖1」。冷蔵庫に貼っておく。料理するたびに見る。3回作れば暗記する。暗記したら、何の料理を作るときも「とりあえず醤油3みりん3砂糖1で味付けすれば大外れはない」という安心感が得られる。

レベル4:「パスタ」を覚える——世界が広がる瞬間

パスタは「料理の入門」として最適だ。理由は3つ。安い(500g150円。1食30〜40円)。早い(茹で時間7〜10分)。バリエーションが無限(ペペロンチーノ、ナポリタン、カルボナーラ、ミートソース、ツナパスタ、たらこパスタ……)。

最初に覚えるべきパスタは「ペペロンチーノ」。材料はパスタ、にんにく、唐辛子、オリーブオイル、塩。以上。シンプルすぎて「これだけ?」と思うが、シンプルだからこそ「素材の味」が際立つ。にんにくの香り、唐辛子のピリッとした辛さ、オリーブオイルのコク。300円以下で、レストランの前菜に負けない味が出せる。

次に覚えるべきは「ナポリタン」。パスタ、玉ねぎ、ピーマン、ウインナー、ケチャップ。日本独自のパスタであり、「正解がない」自由な料理だ。ケチャップを多めにしてもいいし、少なめでもいい。ウインナーの代わりにベーコンでもツナでもいい。「自分好みにカスタマイズする楽しさ」が味わえる。

パスタを2〜3種類覚えると、「週の献立」の組み方が変わる。月曜もやし炒め、火曜豚バラ大根、水曜ペペロンチーノ、木曜もやし焼きそば、金曜ナポリタン。5日間、毎日違うメニュー。「毎日もやし炒め」の世界から「5種類のローテーション」の世界へ。世界が広がった瞬間だ。

レベル5:「カレー」を極める——男の料理の最終兵器

カレーは「男の料理の最終兵器」だ。失敗しにくい。大量に作れる。冷凍できる。リクエストされたら誰にでも出せる。「料理が趣味」と言える最低ラインが「カレーが作れる」ことだ。

市販のカレールーを使えば、誰でもカレーは作れる。だが「ちょっと美味いカレー」を作るコツがある。コツ1は「玉ねぎをしっかり炒める」。飴色になるまで15〜20分。焦げ茶色になるまで炒めた玉ねぎは「甘み」と「コク」を生む。コツ2は「2種類のルーを混ぜる」。「バーモントカレー(甘口)」と「ジャワカレー(辛口)」を半分ずつ。ブレンドすることで「市販品を超えた深み」が出る。コツ3は「一晩寝かせる」。作った翌日に食べると、味が馴染んで格段に美味い。

カレーを4〜6食分作り、2食分はその日と翌日に食べ、残り2〜4食分は1食分ずつ冷凍する。冷凍カレーは「疲れて何も作りたくない夜」の救世主だ。レンジで3分。熱々のカレーがご飯の上に。3分で「ちゃんとした夕食」が完成する。コンビニ弁当に手を伸ばす必要がなくなる。

「料理を楽しむ」ための3つのマインドセット

マインドセット1は「完璧を求めない」。最初から「美味いもの」を作ろうとしない。「食べられるもの」が作れれば十分。味が薄ければ醤油を足す。濃ければ水を足す。焦げたら焦げた部分を除ける。「失敗しても、食べられればOK」。この寛容さが、料理を「苦行」から「遊び」に変える。

マインドセット2は「他人の評価を気にしない」。一人暮らしの料理は「自分だけが食べる」。見た目が悪くても、盛り付けが雑でも、誰にも見られない。Instagram に投稿する必要もない。「自分が美味いと思えばそれでいい」。この自由が、一人暮らしの料理の最大の魅力。

マインドセット3は「『失敗した料理』も思い出になる」。塩を入れすぎて激辛になったパスタ。砂糖と塩を間違えた味噌汁。水を入れすぎてシャバシャバのカレー。これらの「失敗」は、後から振り返ると「面白い思い出」になる。「あのときのパスタ、しょっぱすぎて笑ったな」。失敗の記憶は「料理を楽しんでいた証拠」だ。

「料理が上手くなった自分」がもたらすもの

料理が上手くなると、人生の複数の側面が変わる。変わること1は「食費が下がる」。レパートリーが増えれば、外食やコンビニ弁当への依存が減る。月5000〜10000円の食費削減。変わること2は「健康が改善する」。自炊すれば、塩分・脂質・カロリーをコントロールできる。外食やコンビニ弁当より健康的な食事が実現する。変わること3は「自己効力感が上がる」。「自分で美味い料理が作れる」という事実が、自信を生む。変わること4は「人に振る舞える」。親が遊びに来たとき、友人(いれば)が来たとき。「カレー作ったんだけど食べる?」と言える。「料理を振る舞う」行為は「もてなし」であり「つながり」だ。

まとめ——「もやし炒めの先」には「豊かな食卓」がある

もやし炒めは偉大だ。30円で腹を満たす最強のサバイバルフード。だがもやし炒め「だけ」の食卓は、正直に言って「寂しい」。もやし炒めの先には、豚バラ大根があり、ペペロンチーノがあり、カレーがある。焼きそばがあり、ナポリタンがあり、卵そぼろがある。これらすべてが「もやし炒めと同じくらい安く」「もやし炒めより感動がある」料理だ。

今夜、もやし炒めを作るついでに、にんにくを1片刻んでみてほしい。もやしを炒める前に、にんにくをオリーブオイルで炒める。香りが立ったらもやしと豚こまを投入。醤油の代わりに塩と黒こしょう。「ガーリックもやし炒め」。いつものもやし炒めが「別の料理」に変わる。この「変わった瞬間の驚き」が、料理の第一歩。第一歩を踏み出せば、第二歩は自然についてくる。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

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