45歳独身が「人間ドック」を初めて受けた日——全項目の結果と衝撃と教訓
はじめに——「人間ドック」は贅沢品か
「人間ドック」という言葉は知っていた。知っていたが、自分には関係のないものだと思っていた。人間ドックは3万〜5万円かかる。手取り16万円の人間にとって、月収の2〜3割。「贅沢品」だと思っていた。年に1回の会社の健康診断で十分だろう、と。
だが45歳になり、体のあちこちに不調が出始めた。慢性疲労、腰痛、目のかすみ、歯の痛み。健康診断では「要再検査」の項目が増えた。「そろそろちゃんと調べたほうがいいのではないか」。この不安が、ついに人間ドックの予約ボタンを押させた。
結論から書くと、人間ドックを受けてよかった。健康診断では見つからなかった問題が見つかった。見つかったからこそ、早期に対処できた。「3万円の贅沢」ではなく「3万円の生存投資」だった。
人間ドックの費用を抑える方法
人間ドックは通常3〜5万円だが、費用を抑える方法がある。
方法1は「自治体の助成制度を利用する」こと。多くの自治体が、40歳以上の住民に対して人間ドックの費用を一部助成している。助成額は5000〜20000円。自治体によって異なるので、居住地の自治体のウェブサイトで確認する。「○○市 人間ドック 助成」で検索。助成を使えば、自己負担は1〜3万円に下がる。
方法2は「健康保険の補助を利用する」こと。協会けんぽは、35歳以上の被保険者に「生活習慣病予防健診」を提供している。費用は約7000円(自己負担額)。人間ドックほど項目は多くないが、通常の健康診断より充実している。派遣社員でも協会けんぽに加入していれば利用可能。派遣元に「生活習慣病予防健診を受けたい」と伝える。
方法3は「平日の空いている日に受ける」こと。人間ドックは土曜日が混雑するため、平日に受けると料金が安くなる医療機関がある。有給休暇を使って平日に受ける。
人間ドック当日——朝から緊張
人間ドックの前日。21時以降は食事禁止。水のみ可。「夜食にもやし炒めを食べられない」。小さなストレス。前日の夕食を早めに済ませ、21時以降は水を飲んで過ごす。
当日朝。朝食抜き。水のみ。空腹のまま病院に向かう。受付を済ませ、検査着に着替える。検査着は薄い。寒い。待合室には同年代の男女が並んでいる。みんな検査着。みんな不安そうな顔。仲間意識が芽生える(話しかけないが)。
検査は流れ作業だ。身長・体重・腹囲の計測→血圧→視力・聴力→血液採取→尿検査→心電図→胸部X線→腹部超音波→胃カメラ(またはバリウム)→便潜血→肺機能検査。約2〜3時間ですべて終わる。
最も辛かったのは胃カメラだ。初めての胃カメラ。喉に麻酔スプレーを吹きかけられ、口からカメラを挿入される。「おえっ」。涙が出る。「力を抜いてください」と言われるが、力を抜ける状態ではない。5分間の「おえっ」が永遠に感じられた。終わったとき、「もう二度とやりたくない」と思った。だが胃がんの早期発見には胃カメラが最も有効だ。「やりたくない」が「やるべき」に負ける。2年後にまた受けるだろう。
結果——「Aランク」は一つもなかった
2週間後、結果が届いた。封筒を開ける。ドキドキする。
結果は項目ごとにA〜Eのランクで評価される。A(異常なし)、B(軽度の異常あり・経過観察)、C(要経過観察・生活習慣の改善を)、D(要精密検査・要治療)、E(治療中)。
自分の結果。体重・BMI:C(BMI 26.5。「肥満(1度)」。体重を5kg落としましょう)。血圧:B(上135。「正常高値」。塩分を控えましょう)。コレステロール:C(LDLコレステロール高め。「食事・運動による改善を」)。中性脂肪:C(基準値やや超え。「飲酒を控えましょう」)。肝機能(γ-GTP):C(基準値やや超え。「飲酒を控えましょう」)。血糖値(HbA1c):B(基準値内だが上限に近い。「食後高血糖に注意」)。腹部超音波:B(脂肪肝の所見あり。「生活習慣の改善を」)。胃カメラ:B(軽い慢性胃炎。「ピロリ菌検査を推奨」)。視力:B(裸眼視力低下。「老眼の進行あり」)。聴力:A(問題なし)。胸部X線:A(問題なし)。心電図:A(問題なし)。
A(異常なし)は12項目中3項目だけ。残りはすべてBかC。Dがなかったのは不幸中の幸い。だが「全身がうっすら黄色信号」という状態。45年間のツケが、数字になって突きつけられた。
結果から見える「生活習慣の影響」
結果を分析すると、ほぼすべての問題が「生活習慣」に起因している。
肥満→運動不足+炭水化物中心の食事。コレステロール・中性脂肪→食事の偏り+運動不足。肝機能→毎日の発泡酒。脂肪肝→肥満+飲酒。血糖値→炭水化物の取りすぎ。胃炎→ストレス+不規則な食事。
つまり「もやし炒め+発泡酒+運動不足」の20年間が、体の各所に蓄積されている。もやし炒め自体は悪くないが、もやし炒め「だけ」では栄養が偏る。発泡酒は「ささやかな幸せ」だが、毎日飲めば肝臓に負担がかかる。運動不足は氷河期世代に共通の問題だ。
すべての問題は「生活習慣の改善」で対処可能。薬は(今のところ)不要。改善すべきは「食事」「運動」「飲酒」の三つ。このシリーズの別の記事(健康02「慢性疲労」、健康08「肥満」、健康07「酒」)で書いた対策が、そのまま人間ドックの結果への対策になる。
人間ドックを受けて「変わったこと」
人間ドックの結果を見て、いくつかの行動を変えた。
変えたこと1は「発泡酒を週5日→週3日に減らした」こと。毎日飲んでいた発泡酒を、月・水・金の3日だけにした。火・木はノンアルコールビールか炭酸水。土日は自由(だが2日続けて飲まないようにする)。γ-GTPが下がることを期待している。
変えたこと2は「朝食にバナナを追加した」こと。食パン+コーヒーだけだった朝食に、バナナ1本(約20円)を追加。ビタミンB群とカリウムの補給。カリウムは塩分の排出を促し、血圧を下げる効果がある。
変えたこと3は「週に3回、30分の散歩を始めた」こと。散歩は0円。30分で約2000歩。消費カロリー約100kcal。運動不足の解消と体重管理に効果がある。
変えたこと4は「ピロリ菌検査を受けた」こと。人間ドックの結果で推奨されたので、かかりつけ医でピロリ菌の呼気検査を受けた。結果は陽性。除菌治療を受けた(1週間の薬の服用。保険適用で自己負担約5000円)。ピロリ菌の除菌は、胃がんのリスクを大幅に低下させる。人間ドックを受けていなければ、ピロリ菌の存在に気づかないまま、胃がんのリスクを抱え続けていた。
「3万円で命を延ばす」投資
人間ドックの費用は自己負担で約3万円だった(自治体の助成を使わなかった場合)。3万円で見つかったこと。肥満。高コレステロール。脂肪肝。ピロリ菌。これらはすべて「放置すれば将来的に深刻な病気に発展するリスク」だ。
ピロリ菌を放置すれば、胃がんのリスクが数倍に。胃がんの治療費は高額療養費適用後でも年間数十万円。手術・入院で数週間〜数ヶ月の休業。この「将来のコスト」を、3万円の人間ドックと5000円のピロリ菌除菌で「予防」した。合計35000円。胃がん治療の数十万円と比較すれば、圧倒的にコスパが良い。
人間ドックは「贅沢品」ではなく「生存投資」だ。35000円で将来の数十万円〜数百万円を防ぐ。NISAの年利5%よりもリターンが高い(かもしれない)投資。
「2年に1回」の人間ドックを目標にする
毎年の人間ドックは費用的に厳しい(年間3万円は手取り16万円の約2%)。現実的な目標は「2年に1回」。2年に1回なら、月に1250円の積立で費用が賄える。月1250円。発泡酒約3本分。発泡酒3本を我慢すれば、2年後に人間ドックが受けられる。発泡酒3本の「ささやかな幸せ」と、人間ドックの「生存確認」。どちらも大切だが、優先順位をつけるなら「生存確認」だ。
人間ドックを受けない年は、会社の健康診断+自治体の歯科健診+自費の血液検査(3000〜5000円程度)で代替する。「毎年何かしらの健康チェックを受ける」ルーティンを作る。
まとめ——「知らない」ほうが怖い
人間ドックの結果は「知りたくなかった」情報の宝庫だった。肥満。脂肪肝。ピロリ菌。どれも「知らなければ気にしないで済む」問題だ。だが「知らない」ことは「存在しない」ことではない。知らなくても、脂肪肝は進行する。ピロリ菌は胃を蝕む。知らないまま放置するのは、目を閉じて道を歩くのと同じだ。目を閉じていても、障害物は消えない。ぶつかるまでの時間が延びるだけで、ぶつかったときのダメージは大きくなる。
「知る」ことで、対処できる。対処できれば、ダメージを最小化できる。最小化できれば、人生が長くなる。長くなれば、もやし炒めをあと何百回も食べられる。発泡酒をあと何千本も飲める(週3本に減らしたが)。人間ドックは「あと何千本の発泡酒を飲めるか」を確認するための投資だ。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。
