もやし料理のレパートリーが20種類を超えた記録

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もやし料理のレパートリーが20種類を超えた記録

一袋30円の相棒

もやし。一袋30円。スーパーで最も安い野菜。いや、野菜どころか、スーパーで最も安い食品のひとつだ。卵と並んで、貧困層の食卓を支える二大巨頭。

私のもやし歴は20年を超える。就職に失敗して一人暮らしを始めた22歳のとき、初めて自分でもやしを買った。それ以来、もやしは常に冷蔵庫にある。冷蔵庫の中で唯一、切らしたことがないのがもやしだ。米すら切らしたことがあるが、もやしはない。

20年間もやしを買い続け、調理し続けた結果、レパートリーが20種類を超えた。正確に数えると23種類。一つの食材で23通りの料理。これはもう「もやし道」と呼んでいい。もやし道の達人。段位をつけるなら五段くらいはあると自負している。

このエッセイでは、23種類のうち代表的なものを紹介しつつ、もやしと生きてきた20年間を振り返る。レシピ紹介ではなく、人生紹介だ。

初級編(1〜5種類目):20代前半

もやし道の初級編。20代前半。料理の経験はほぼゼロ。包丁の使い方もおぼつかない状態で、もやしと向き合った。

1種類目。もやし炒め。フライパンにサラダ油を引いて、もやしを入れて炒める。塩コショウで味付け。以上。料理と呼べるかどうかも怪しい。だがこれが出発点だ。もやし炒めを食べて、「まあ、食べられる」と思った。それが全ての始まり。

2種類目。もやしのナムル。茹でたもやしに、ごま油と醤油と塩を混ぜる。ネットで見たレシピだった。もやし炒めより、少しだけ「料理」っぽい。冷蔵庫で冷やすと、さらにうまい。作り置きもできる。

3種類目。もやしの味噌汁。味噌汁の具がもやしだけ。わかめすら入れない。もやしだけの味噌汁。だしは顆粒だし。手抜きの極致だが、温かい汁物があるだけで食事の満足度が上がる。

4種類目。もやしラーメン。インスタントラーメンにもやしを入れる。インスタントラーメンだけだと罪悪感があるが、もやしを入れると「野菜も摂っている」という免罪符になる。栄養的にはほぼ気休めだが、精神的には効果がある。

5種類目。もやしの卵とじ。溶き卵にもやしを混ぜて焼く。醤油をかけて食べる。卵のタンパク質ともやしのシャキシャキ感が合う。ご飯のおかずになる。この頃から「もやしは万能食材かもしれない」という仮説が芽生え始めた。

中級編(6〜12種類目):20代後半〜30代前半

もやし道の中級編。料理の腕が少し上がった。調味料のバリエーションが増え、もやし料理の幅が広がった。

6種類目。もやしのオイスターソース炒め。オイスターソースという調味料の存在を知ったのは27歳のときだ。もやし炒めにオイスターソースを加えるだけで、「中華料理店の味」に近づく。100円の調味料が、30円のもやしを300円の料理に変える。レバレッジが効いている。

7種類目。もやしとニラの炒め物。ニラを加えることで、もやし単品では出せないスタミナ感が生まれる。ニラは一束100円程度。もやし30円+ニラ100円=130円。二人前はある。一食65円のおかず。

8種類目。もやしのカレー炒め。カレー粉をまぶしてもやしを炒める。カレー味はどんな食材も「それなりにうまい」に変換する魔法の味だ。もやしも例外ではない。ビールに合う。

9種類目。もやしの酢の物。茹でたもやしを酢と砂糖と醤油で和える。さっぱりして夏向き。箸休めにちょうどいい。冷蔵庫で半日寝かせると味が染みる。

10種類目。もやしのチヂミ。小麦粉と卵ともやしを混ぜて焼く。もやしのチヂミは、「もやしが主役」のれっきとした料理だ。ポン酢で食べる。居酒屋メニューの体裁が整う。

11種類目。もやしの味噌炒め。味噌とみりんともやしを炒める。ご飯が進む。味噌の塩分でもやしの水分が引き出され、独特のしんなりとした食感になる。

12種類目。もやしの中華スープ。鶏ガラスープの素で作る簡単な中華スープに、もやしを投入。溶き卵を回し入れれば、立派な中華風卵スープ。もやし30円+卵20円+鶏ガラスープの素5円=55円。55円の中華スープ。

上級編(13〜20種類目):30代後半〜40代

もやし道の上級編。もやしに対する理解が深まり、「もやしの限界を攻める」段階に入った。

13種類目。もやしのペペロンチーノ風。パスタの代わりにもやしを使う。にんにく、鷹の爪、オリーブオイルでもやしを炒める。「低糖質ペペロンチーノ」と名づけた。パスタより歯応えがないが、にんにくの風味でそれなりに食べられる。

14種類目。もやしのお好み焼き風。小麦粉、卵、もやし、かつお節、マヨネーズ、ソース。これだけで、なんとなくお好み焼きっぽいものが完成する。キャベツの代わりにもやし。かさ増しの王道。

15種類目。もやしの塩昆布和え。茹でたもやしに塩昆布を混ぜるだけ。塩昆布の旨味がもやしに移って、驚くほどうまい。調理時間3分。これが一番よく作るメニューかもしれない。

16種類目。もやしの豚バラ巻き。安い日に買った豚バラ薄切りで、もやしを巻く。フライパンで焼いて、醤油とみりんで照り焼き風に。見た目が良い。「自炊、ちゃんとしてるな」という気分になれる。

17種類目。もやしのあんかけ。片栗粉でとろみをつけた中華餡を、もやしにかける。餡にはきのこや鶏ひき肉を加えると本格的になるが、もやしだけでも餡があれば満足感がある。ご飯にかけて丼にもなる。

18種類目。もやしのキムチ和え。茹でたもやしにキムチを混ぜる。それだけ。キムチの辛味と旨味がもやしに絡んで、箸が止まらない。発泡酒のアテに最高。

19種類目。もやしの焼きそば風。麺の代わりにもやしを使った焼きそば。ソース味のもやし炒め。見た目は焼きそばっぽいが、麺がない。もやしだけ。炭水化物なしの焼きそば。健康的なのか不健康なのかわからない。

20種類目。もやしの天ぷら。衣をつけたもやしを揚げる。かき揚げの要領で、もやしを束にして揚げる。揚げたてはサクサクで、もやしとは思えない満足感がある。油を使うので滅多に作らないが、たまの贅沢として。

番外編(21〜23種類目):実験作

21種類目。もやしのスムージー。一度だけ試した。もやしとバナナと牛乳をミキサーにかけた。味は、まあ、飲めなくはない。だが「飲めなくはない」を超えることはなかった。二度と作らなかった。

22種類目。もやしのサラダ。生のもやしにドレッシングをかけた。シャキシャキして悪くないが、生もやしの青臭さが気になる。レタスの代替にはならなかった。

23種類目。もやしの味噌マヨ和え。茹でたもやしに、味噌とマヨネーズを混ぜたソースを和える。意外とうまい。居酒屋の突き出しで出されても違和感がない。これは定番入りした。

もやしが教えてくれたこと

20年間、もやしと向き合って気づいたことがある。

ひとつは、「制約が創造性を生む」ということ。食費が限られているから、安い食材で工夫する。工夫するから、レパートリーが増える。レパートリーが増えると、料理が少し楽しくなる。制約がなければ、もやし料理を23種類も開発しなかっただろう。潤沢な食費があれば、もやしなんて買わない。制約があるから、もやしと真剣に向き合った。

もうひとつは、「同じ食材でも、調味料ひとつで味が変わる」ということ。もやし自体は淡白だ。ほぼ水分だ。だが塩コショウ、醤油、味噌、オイスターソース、カレー粉、酢、ごま油、キムチ。調味料を変えるだけで、全く違う料理になる。もやしは白いキャンバスであり、調味料が絵の具だ。キャンバスが安くても、絵の具次第で良い絵が描ける。

そしてもうひとつ。「もやしを馬鹿にする人は、もやしの可能性を知らない」ということ。「もやし料理」と聞くと、「貧乏くさい」と思う人がいるかもしれない。だが23種類のバリエーションを持つもやし使いに、「貧乏くさい」とは言ってほしくない。これは技術だ。20年かけて磨いた技術。この技術があるから、月の食費3万円で生き延びている。

もやしの限界

もやしへの愛を語ってきたが、もやしの限界も正直に書いておく。

栄養価は低い。もやしの約95%は水分だ。ビタミンCや食物繊維は含まれているが、タンパク質はほぼない。脂質もない。炭水化物もない。エネルギー源としては頼りない。もやしだけで生きるのは、栄養学的に不可能だ。

日持ちしない。買って2、3日で傷み始める。茶色くなり、水が出て、匂いが変わる。まとめ買いに向かない。こまめに買いに行く必要がある。

満足感に限界がある。もやしはかさがあるので、食べた直後は腹が膨れる。だが消化が早いため、すぐに空腹になる。もやしだけの食事では、2時間後にはまた腹が減る。

これらの限界があるため、もやしは「主食」にはならない。「副菜」として、他の食材を補助する役割。主役ではなく、名脇役。もやしの身の程を、もやし自身が知っている。

24種類目を求めて

23種類で止まっている。24種類目が思いつかない。

20年間で23種類。平均すると、1年に1種類強のペースで新メニューを開発してきた。だが最近は、新しいアイデアが浮かばない。もやしという食材の可能性を、かなりの範囲で掘り尽くした感がある。

24種類目が見つかったとき、このエッセイに追記したい。見つからなくても、23種類で十分だ。23種類のもやし料理で、あと何年生きられるだろう。もやしが一袋30円でスーパーに並んでいる限り、私の食卓は維持される。もやしの価格が上がったら、その日が私の食生活の終わりかもしれない。もやしの価格は、私の生存のバロメーターだ。

30円。この30円が、私の命綱であり、創造の源であり、20年来の相棒だ。ありがとう、もやし。明日もよろしく。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。もやし料理のレパートリーに自信がある人は、きっと少なくないはずです。

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