独身中年が「風呂なし物件」に住むのはアリか——究極の家賃節約の是非を徹底検証
はじめに——家賃を「極限まで」下げたい衝動
家賃5万円。手取り16万円の31%。生活費の中で最大の固定費。この固定費を下げれば、NISAの積立額を増やせる。食費に余裕ができる。生活防衛資金の積み上げが加速する。家賃を下げたい。極限まで下げたい。
家賃を極限まで下げる方法の一つが「風呂なし物件」に住むことだ。風呂なし物件は、都市部でも月2〜3万円で見つかる。現在の家賃5万円との差は月2〜3万円。年間24〜36万円。NISAの年間積立を2倍以上に増やせる。
だが「風呂なし」は快適か。衛生面は大丈夫か。社会的な偏見はないか。銭湯通いのコストを含めると本当に安いのか。このエッセイでは、風呂なし物件のメリット・デメリット・コスト計算を徹底検証し、「アリかナシか」を判定する。
風呂なし物件の「コスト計算」
風呂なし物件の家賃を月2.5万円とする。現在の家賃5万円との差額は月2.5万円。だが風呂なしなら銭湯に通う必要がある。
銭湯の料金。東京都の銭湯料金は520円(2024年現在)。毎日通うと520円×30日=15600円。月15600円。家賃の差額2.5万円−銭湯代1.56万円=月9400円の節約。年間112800円。
だが毎日銭湯に行くのは時間的に負担。往復の移動時間(片道10分として往復20分)×30日=600分=10時間。月に10時間が「銭湯への移動」に消える。この10時間を時給1200円で計算すると12000円。時間コストを含めると、月の節約額は9400−12000=−2600円。マイナス。時間コストを含めると「損」だ。
銭湯を毎日ではなく週3〜4回に減らし、残りの日はシャワーで済ませる——が、風呂なし物件にはシャワーもない。「体を拭くだけ」で済ませる日を作る。タオルを湿らせて全身を拭く。清潔感は多少犠牲になる。
もう一つの選択肢は「ジムのシャワーを使う」。月額3000〜5000円のジムに入会し、シャワーだけ使う。月5000円なら、家賃の差額2.5万円−ジム代5000円=月2万円の節約。年間24万円。ジムのシャワーなら毎日使えるし、運動もできる。ジム経由なら「アリ」かもしれない。
風呂なし物件のメリット
メリット1は「家賃が圧倒的に安い」こと。月2〜3万円。都心部でもこの家賃帯で見つかる。家賃が安ければ、手取りに占める住居費の割合が下がり、他の項目に回せるお金が増える。
メリット2は「掃除が楽」こと。浴室がないから、浴室の掃除が不要。カビ掃除、排水溝の掃除、タイルの目地の掃除。これらが全部なくなる。浴室の掃除は面倒な家事の上位だ。なくなるだけで、家事の負担が減る。
メリット3は「銭湯文化を楽しめる」こと。銭湯は「入浴する場所」であると同時に「リラクゼーションの場」でもある。広い湯船にゆったり浸かる。サウナに入る。水風呂に入る。6畳ワンルームの狭いユニットバスとは比較にならない快適さ。銭湯通いが「趣味」になる人もいる。
風呂なし物件のデメリット
デメリット1は「衛生面のリスク」。毎日入浴できない日がある(銭湯の定休日、体調不良、疲労で行く気力がない日)。入浴できなければ、体臭が気になる。清潔感が損なわれる。職場で「臭い」と思われるリスク。独身中年男性の清潔感は、社会生活における最低限のマナー(独身04で解説した通り)。このマナーが損なわれるのは深刻だ。
デメリット2は「時間の消費」。銭湯への往復+入浴時間で、毎日1時間前後が消える。月に30時間。この30時間を散歩、読書、NISA の勉強に使ったほうが、人生は豊かになるかもしれない。
デメリット3は「冬場の辛さ」。冬の夜、銭湯に行くために外に出るのが辛い。湯冷めして帰宅し、暖房のない部屋(風呂なし物件は暖房設備も乏しいことが多い)で寒さに震える。健康リスクが高い。特にヒートショック(急激な温度変化による循環器系への負担)は、中年以降にリスクが高まる。
デメリット4は「社会的な偏見」。「風呂なし物件に住んでいる」と言えば、周囲から「そこまで困っているのか」と同情される(または引かれる)。会社の書類に住所を書くとき、風呂なし物件だとわかる場合がある(築年数の古い建物名で推測される)。気にしなければいいが、気にする人もいる。
デメリット5は「物件の質」。風呂なし物件は築40〜60年の古い建物が多い。壁が薄い。隙間風が入る。虫が出やすい。設備が古く、故障しやすい。エアコンがない場合もある。「安い」には理由がある。
「風呂なし」の判定——アリかナシか
判定。「条件付きでアリ」。条件は以下の3つをすべて満たす場合。
条件1は「近くに毎日通える銭湯またはジムがある」こと。徒歩10分以内に銭湯があれば、時間コストが許容範囲に収まる。ジムのシャワーが使えれば、銭湯の定休日も問題ない。
条件2は「節約した家賃の差額を確実にNISAや貯蓄に回す」こと。風呂なし物件に引っ越して家賃を下げても、差額を無駄遣いしたら意味がない。差額を自動で先取り貯蓄する仕組みを作る。
条件3は「清潔感を維持する対策を講じる」こと。銭湯に行けない日のために、ボディシート(ドラッグストアで200〜400円。10〜30枚入り)を常備する。制汗スプレーを使う。最低限の清潔感を、銭湯に行かない日も維持する。
これらの条件を満たせない場合は「ナシ」。衛生面のリスクと社会的なデメリットが、家賃の節約を上回る。
結論として、多くの独身中年にとっては「ナシ」が現実的な判断だ。風呂なし物件で得られる月1〜2万円の節約は、衛生面・時間・健康のリスクに見合わない場合が多い。家賃を下げるなら、「風呂あり」で家賃4万円程度の物件を探すほうが、バランスが良い。郊外に移れば、風呂あり・エアコンありで月3.5〜4万円の物件は見つかる。
ただし「若い頃の一定期間だけ風呂なし物件に住んで、浮いた金を全額NISAに入れて資産形成を加速する」という戦略は、合理的と言える場面もある。45歳の体には厳しいが、「覚悟と対策」があるなら、選択肢としては存在する。
まとめ——「極限の節約」は「極限のリスク」とセット
風呂なし物件は「究極の家賃節約」だが、「究極のリスク」もセットだ。衛生面、健康面、社会面のリスク。これらのリスクを引き受ける覚悟があるなら、アリ。覚悟がなければ、ナシ。
節約は大切だが、節約のために「人間としての最低限の生活の質」を犠牲にすべきではない。入浴は最低限の生活の質の一つだ。風呂なし物件に住む前に、「格安SIMに変えたか」「サブスクを見直したか」「コンビニ弁当をやめたか」を確認する。これらの「ソフトな節約」で月2〜3万円は浮かせられる。ソフトな節約を全部やった上で、まだ足りないなら「風呂なし」を検討する。順序を間違えない。
このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。

