はじめに
内藤征吾(ないとう せいご)氏は、日本の株式市場において「兜町では知る人ぞ知る」と評される著名な個人投資家です。資産形成・運用のカウンセリングを行う株式会社ノークリーの代表ファイナンシャルプランナー松澤健一郎氏によれば、内藤氏が大量に株を保有する企業は信頼できると評判になり、「内藤銘柄」として投資基準のひとつになっているといいます。
しかしその一方で、内藤氏本人については公式なプロフィールやインタビュー、書籍などがほぼ存在せず、その実像はベールに包まれています。公式なメディアやインタビューに登場したことがなく、プロフィールを直接確認することは困難な人物として知られ、上場企業の有価証券報告書や株主構成データから読み取れる「保有銘柄の動き」だけが、ほぼ唯一の手がかりとなっている人物でもあります。
本稿では、公開情報をもとに内藤征吾氏の輪郭をできる限り具体的に描き出していきます。
「多株主ランキング」首位の実績
内藤征吾氏の名前が広く知られる契機となったのは、複数のメディアが集計する「多株主ランキング」での圧倒的な存在感です。
マネーポストWEBが報じた個人別の株式保有企業数ランキングでは、保有企業数22社でトップになったのが内藤氏でした。プレミアム金融Labによれば、1位の内藤征吾氏は証券業界では有名な人物で、内藤氏が大量保有する銘柄は「内藤銘柄」とも呼ばれており、信頼できると評判が高く、銘柄選定基準の一つにもなっていると紹介されています。
2022年には22社に合計約33億円を投資し、個人投資家の多株主ランキングで第1位を獲得したとされています。投資単位として33億円という規模は、もはや小口の個人投資家ではなく、中規模ファンドに匹敵する水準であり、その存在感の大きさがうかがえます。
そして、その存在感は単発の年に留まりません。IRBANKが集計した「有価証券報告書への登場社数」の推移を見ると、長期にわたり保有企業数を一貫して拡大してきた経緯が読み取れます。具体的には2014年に2社、2015年に9社、2016年に10社、2017年に14社、2018年に13社、2019年に23社、2020年に20社、2021年に39社、2022年に38社、2023年に47社、2024年に56社、2025年には78社と、おおむね右肩上がりに増加しています。
なお、2026年には「2社」と急激に減少した数字が表示されていますが、これは年度初(1月、2月)時点で各社の有価証券報告書が出揃っていないためのタイムラグであり、実態としては前年度の保有を引き継いでいる可能性が高いと考えられます。バフェット・コードでは、内藤征吾氏は現在105銘柄を保有していると紹介されているデータもあり、実際の保有銘柄数は有価証券報告書の上位10株主に登場する企業数よりもさらに多いと推察されます。
「内藤銘柄」と呼ばれる理由
内藤氏の存在感を象徴するのが、彼の保有銘柄が「内藤銘柄」と呼ばれている事実です。この規模と実績から、内藤征吾氏は投資家に一目置かれる存在となっており、彼が保有する銘柄はSNSや掲示板で「内藤銘柄」と呼ばれているとされています。
特定の個人投資家の名前が冠される銘柄群は、日本市場では極めて少数です。同様の例としては、清原達郎氏や五味大輔氏、片山晃氏など限られた著名投資家のみであり、内藤氏がそうした列に並んでいるという事実そのものが、市場における信頼の厚さを物語っています。
「内藤銘柄」が市場で注目される理由はいくつかあります。
第一に、長期保有を前提とした腰の据わった投資スタイルです。短期の値ざや取りではなく、企業を選び抜いた上でじっくり寝かせる投資手法と見られているため、内藤氏が新規に大株主として登場した銘柄は「中長期で価値が見直される可能性のある銘柄」として、他の投資家の注目を集めやすくなります。
第二に、保有先が小型のバリュー株に偏っているという特徴があり、こうした銘柄群は機関投資家やアナリストが手薄な領域です。プロが見落としがちな割安銘柄を発掘する目利きとして、内藤氏は一目置かれています。
第三に、内藤氏は基本的に1社あたり3%前後の保有比率にとどめる傾向があり、特定の企業に経営介入することが目的ではなく、純粋な投資としてのスタンスを保っていると見られています。これにより、内藤氏が大株主に登場しても企業側との対立や乗っ取りを警戒される心配がなく、市場での「歓迎されるシグナル」として機能していると考えられます。
X(旧Twitter)上でも、「内藤さんは、私が投資を始めた頃からずっとウォッチしている個人投資家の1人です」とコメントする医師投資家「インヴェスドクター」氏のように、ベテランの個人投資家から長年フォローされ続けている存在であることがわかります。
投資スタイルの特徴
内藤征吾氏の投資スタイルには、いくつかの明確な特徴があります。
小型のバリュー株への分散投資
保有銘柄の多くは小型株であり、短期的な売買を繰り返すタイプの投資家ではないこと、そして投資界隈でも内藤征吾氏は、中長期で小型株をじっくりと育て、株価の成長や企業からのリターンを狙う投資スタイルで知られていることが、複数のメディアで指摘されています。
実際の保有銘柄の傾向を見ても、トヨタ自動車やソフトバンクグループといった大型株は皆無で、時価総額が数十億円から数百億円程度の小型株、しかも建設・住宅、リサイクル、専門商社、地方の老舗企業、エンタテインメント関連など、いわゆる「地味なバリュー株」が中心です。
なぜ小型株に集中するのかという点については、市場の構造的な理由が背景にあります。一般的に、トヨタ自動車のような時価総額が数十兆円級の企業は、国内外の数十名から数百名のアナリストが分析しており、企業の新材料はほぼ瞬時に株価に織り込まれます。一方、時価総額数十億円の小型株は専門のアナリストがほとんど存在せず、企業価値と株価の乖離が温存されやすい環境にあります。「プロが手を出せない領域で、個人ならではの粘り強い分析力を活かして勝つ」というのは、日本の個人投資家の中堅・上級層に共通する戦略であり、内藤氏はその代表格といえる存在です。
1社あたり概ね3%程度の保有比率
IRBANKが公開している有価証券報告書ベースのデータを見ると、内藤氏の保有比率は概ね2.9%〜3.4%のレンジに集中しています。2025年時点で確認できる主な保有銘柄を見ると、9674 花月園観光が4.92%(86,000株)、9478 SE HD・アンド・インキュベーションズが4.03%(64万株)、2778 パレモHDが3.85%(46万株)、9782 ディーエムエスが3.78%(21万株)、3639 ボルテージが3.71%(24万株)、3645 メディカルネットが3.67%(33万株)、8917 ファースト住建が3.64%(50万株)、6038 イードが3.62%(17万株)と続きます。
この保有比率の水準には合理性があります。日本では発行済み株式総数の5%超を保有すると「大量保有報告書」(5%ルール)の提出義務が発生し、その後も1%以上の保有比率の変動があるたびに「変更報告書」を提出する必要があります。3%前後にとどめておけば、こうした開示義務の頻度を抑えながらも、有価証券報告書の上位10名の大株主には登場するため、ある程度の存在感を示すことができます。内藤氏は意図的にこの「目立たないが大株主」の位置を選んでいる可能性があります。
多銘柄分散
ピーク時には78社、バフェット・コードのデータでは105銘柄を保有していると推定されており、極めて広範な分散投資を行っています。これは、ひとつの銘柄に巨額を投じる「集中投資」スタイルとは対極にあるアプローチです。
参考までに、しばしば内藤氏と並び称される個人投資家・五味大輔氏は、「分散投資」ではなく狙いの銘柄に大量の資金を一気に投入する「集中投資」がスタイルであると報じられており、内藤氏とは正反対の流儀をとっています。同じ「兜町の有名個人投資家」というカテゴリーの中でも、戦略的志向は大きく異なるのです。
内藤氏のように100銘柄前後に分散しつつ、各銘柄で大株主上位に食い込めるということは、それぞれの保有規模が相当に大きいことを意味します。例えば3%の保有比率を100社に展開するためには、各社で時価数千万〜数億円の投資が必要となり、ポートフォリオ全体では数十億円〜数百億円規模に達すると推計されます。
主な保有銘柄の具体例
公開されているデータをもとに、内藤氏が大株主として登場している代表的な銘柄を業種ごとに整理してみます。
建設・住宅関連
1718 美樹工業、1739 メルディアDC、1758 太洋基礎工業、1770 藤田エンジニアリング、1798 守谷商会、1807 佐藤渡辺、1960 サンテック、1999 サイタHD、5921 川岸工業、5923 高田機工、7808 シー・エス・ランバー、8917 ファースト住建など、地方の中堅ゼネコンや住宅会社、基礎工事会社が多数を占めます。これらは伝統的に低PBR・低PERで放置されがちなセクターで、配当利回りが比較的高いものも多く、典型的なバリュー株投資の対象といえます。
不動産・住宅関連
3248 アールエイジ、5280 ヨシコンなど、地域に根ざした不動産・住宅会社にも投資しています。
専門商社・流通
7509 アイエーグループ(中古車)、7521 ムサシ(事務機器)、7619 田中商事、9845 パーカーコーポレーション、2788 アップルインターナショナル(中古車輸出)、2778 パレモHD(衣料品)など、ニッチな専門商社や流通系の中小企業にも幅広く投資しています。
サービス・エンタテインメント
3639 ボルテージ(恋愛シミュレーションゲーム)、4644 イマジニア(ゲーム)、4295 フェイス、4287 ジャストプランニング、6038 イード、3138 富士山マガジンサービス、2411 ゲンダイエージェンシー(パチンコ広告)、9674 花月園観光、6060 こころネット(葬儀)、6074 ジェイエスエス(スイミングスクール)、9791 ビケンテクノ(清掃管理)、3645 メディカルネット(歯科向けポータル)など、サービス業も多数保有しています。
製造・部品
5283 高見澤、6943 NKKスイッチズ、7841 遠藤製作所、7219 エッチ・ケー・エス、5699 イボキン、4624 イサム塗料、5921 川岸工業など、ニッチな製造業も多く含まれます。
IT・メディア
3375 ZOA(PC専門店)、9476 中央経済社HD(出版)、9478 SE HD・アンド・インキュベーションズ(出版)、9782 ディーエムエス(広告・DM)、3020 アプライド(PC量販)など、地味だが安定した業績の企業が多く見られます。
これらの銘柄に共通するのは、いずれも知名度や流動性が高くない代わりに、PBR1倍割れの状態で長く放置されていたり、自己資本比率が高く財務が堅実だったり、ROEは決して高くないものの安定したフリーキャッシュフローを生み出していたりと、典型的な「資産バリュー株」「ネットネット株」「内需安定株」といった性格を備えている点です。
なぜプロフィールが謎なのか
内藤征吾氏については、年齢、出身地、職業、投資を始めた経緯、運用資産総額など、基本的なプロフィール情報がほとんど公開されていません。
内藤征吾氏が株式投資に関する情報を発信するYouTubeチャンネルや投資ブログ、オンラインサロン、SNSなどは確認できず、同氏に関する情報源は、上場企業の有価証券報告書に記載された株主データのみに限られているとされています。
ファイナンシャルプランナーの松澤氏も、ランキング上位の人物について「経歴などは分からない」と語っており、市場への影響も大きく兜町も大物個人投資家の動向には注目しているものの、基本的に表舞台に出てこないため情報が少ないと説明しています。
このように内藤氏は、メディアへの露出を一切せず、SNSも運営しておらず、投資助言や勉強会・サロンといったビジネスにも関わっていないと見られています。日本では一部の著名個人投資家が書籍を出版したりYouTubeで発信したりすることが珍しくない中で、内藤氏は徹底して「沈黙の投資家」を貫いているのです。
なぜ表に出てこないのかは本人にしかわかりませんが、いくつかの推測は成り立ちます。第一に、注目を集めれば集めるほど他の投資家が同じ銘柄に殺到し、自分の投資戦略に支障が出ること。第二に、相続税・贈与税対策、あるいは個人としてのプライバシー保護の観点。第三に、純粋に「投資のみに集中したい」という個人的な選好。いずれにせよ、こうした姿勢は、ウォーレン・バフェット氏のように積極的に発信する投資家とは対照的であり、日本の個人投資家文化における独自の存在感を高めています。
他の著名個人投資家との比較
内藤氏はしばしば、他の有名個人投資家と比較されます。
兜町で「カリスマ投資家」として名を馳せる五味大輔氏は、本業を持ちながら投資活動を行う兼業投資家であることをメディアで明かしており、中学生で株を始め、2010年代に「ミクシィ」や創薬バイオベンチャー「そーせいグループ」の筆頭大株主になったことで一躍有名になったとされています。五味氏はそーせいグループの筆頭株主になっており、新興市場の株を現物で買って長期保有するのが投資のスタイルと紹介されています。
五味氏が新興市場のグロース株を集中投資で大量保有するスタイルなのに対し、内藤氏は東証スタンダード〜プライムの伝統的バリュー株を100銘柄前後に分散保有するスタイルで、両者は対照的なアプローチをとっています。
また、元タワー投資顧問の運用者として有名な清原達郎氏もしばしば比較対象となります。X上では「清原達郎さんいないかな?って探してたらちょくちょく内藤征吾さんという方が大株主として出てくる。内藤さん凄くない?!清原達郎さんより大株主率高いよ」といったコメントも見られ、保有銘柄数の多さで内藤氏が際立っていることがうかがえます。
「内藤銘柄」がシグナルとして機能する理由
個人投資家の中には、内藤氏が新たに大株主として登場した銘柄を、自分の投資判断の一つの参考にする人がいます。実際、2025年6月にX上で投稿されたある個人投資家は、田中商事を買い増した理由について、「ここまで安く放置されている理由はよく分かりませんが、配当もらいつつ待っていれば報われる銘柄に思えるのでPFの10%弱まで増やしました。内藤征吾さんが25/3末から新たに大株主として登場しているところもポイント高いかなと」と述べている例があります。
このように、内藤氏の「お墨付き」を後追いする投資家が一定数いるという事実は、彼の銘柄選定眼に対する市場の信頼を裏付けています。
ただし、こうした追随投資にはリスクもあります。第一に、有価証券報告書に名前が載った時点で、内藤氏の保有はすでに数か月前のスナップショットであり、本人がすでに売却している可能性もあります。第二に、内藤氏が買っているからといって、その銘柄が必ず上昇するわけではありません。彼は分散投資をしているため、個別銘柄の勝率は決して100%ではないはずです。第三に、内藤氏は中長期スタンスのため、追随投資した個人が短期で利益を出すのは難しい可能性があります。
「内藤銘柄」の名を悪用した詐欺への注意
内藤氏のような匿名性の高い著名個人投資家の名前は、しばしば投資詐欺に悪用される傾向にあります。
「内藤氏の推薦銘柄」「内藤氏とつながれる」などと称する情報や勧誘には注意が必要とされています。本人が一切情報発信をしていないにもかかわらず、SNSや有料情報配信サービス、LINEグループなどで「内藤征吾と提携」「内藤征吾の推奨銘柄」を謳う業者が現れる可能性があるのです。
繰り返しますが、内藤征吾氏は公的に投資助言サービスを提供しておらず、SNS、YouTubeチャンネル、ブログ、オンラインサロンも一切運営していないと考えられています。彼の名前を冠した情報サービスや投資勧誘は、ほぼすべて第三者による無断利用と疑うのが妥当です。
内藤征吾氏から学べる投資の示唆
最後に、公開情報から見える内藤氏の投資スタンスから、一般の個人投資家が学べる教訓を整理しておきます。
第一に、プロが手薄な領域を選ぶこと。大型株はアナリストカバレッジが厚く、情報の非対称性で個人が勝つのは困難ですが、小型のバリュー株は機関投資家の射程外にあるため、丁寧な企業分析で優位性を築ける余地があります。
第二に、長期保有を前提とした腰の据わった投資であること。内藤氏は同じ銘柄を年単位で保有しており、株価の短期変動に一喜一憂しない姿勢が重要であることを示しています。
第三に、幅広い分散による下振れリスクの抑制。100銘柄前後に分散することで、個別銘柄の業績悪化や不祥事による損失を全体で吸収できる構造になっています。
第四に、派手さよりも堅実さ。建設、専門商社、地方の老舗企業など、世間の話題になりにくい銘柄群を粘り強く保有する姿勢は、「派手なテーマ株を追わない」というバリュー投資の王道を体現しています。
第五に、情報発信に依存しない自立した判断。内藤氏自身は他人の意見に左右されず、自分の調査と判断で銘柄を選んでいる様子がうかがえます。SNSで他人の予想を追いかけるのではなく、自ら有価証券報告書や決算短信を読み込む姿勢こそが、長期的な勝者の条件であることを示唆しています。
まとめ
内藤征吾氏は、表舞台に一切出ることなく、有価証券報告書の大株主欄にだけ静かに名前を残し続ける、極めて独特な存在感をもつ日本の個人投資家です。大株主が企業の経営や株価に大きな影響を及ぼす権利を持つ中で、「内藤銘柄」は信頼できると評判が高く、銘柄選定基準の一つにもなっていると評されるなど、その投資眼は市場関係者から一目置かれています。
100銘柄前後の小型バリュー株を、各社およそ3%前後の保有比率で長期にわたり保有し続けるそのスタイルは、派手さこそないものの、日本の中小型株市場における優れた銘柄発掘者としての評価を確固たるものにしています。本人がメディアに登場することは今後もおそらくないでしょうが、有価証券報告書に新たに「内藤征吾」の名前が現れるたびに、市場が小さく反応する状況は当面続くと思われます。
ただし、彼の名を騙る投資詐欺や、追随投資のリスクには十分に注意する必要があり、最終的な投資判断はあくまで投資家自身の責任と分析によるべきであることを忘れてはなりません。
参考までに、本稿は2026年5月時点で公開されている情報(マネーポストWEB、IRBANK、バフェット・コード、各種投資情報サイト等)に基づいて作成しています。内藤氏自身が情報発信を行っていないため、人物像については推測を含む部分があり、保有銘柄も時期によって変動する点にご留意ください。

