個人投資家・内藤征吾の投資哲学 ― 「内藤銘柄」が市場を動かす理由

この記事は約79分で読めます。
  1. 1. はじめに ― なぜ今、内藤征吾を学ぶのか
  2. 2. 第1章 内藤征吾とは何者か ― 「兜町の影の住人」のプロフィール
    1. 2-1. 公開情報のすべて
    2. 2-2. 「兜町では知る人ぞ知る」という評価
    3. 2-3. 大株主登場社数の推移 ― 30年スパンの蓄積
    4. 2-4. 「33億円・22社」というベンチマーク数値
    5. 2-5. なぜ「内藤」姓・「征吾」名なのか
  3. 3. 第2章 「内藤銘柄」というシグナル ― なぜ市場は彼を追うのか
    1. 3-1. 「内藤銘柄」とは何か
    2. 3-2. 「シグナル」としての価値
    3. 3-3. SNS上の評価 ― 「別格」「安心感」
    4. 3-4. 「内藤シグナル効果」の構造的分析
    5. 3-5. 内藤銘柄を「読む」ことの限界
  4. 4. 第3章 数字で読み解く投資スタイル ― 一次情報からの徹底分析
    1. 4-1. 保有比率の特徴 ― 「2~4%の壁」
    2. 4-2. 時価総額分布 ― 「小型株、ただし極小ではない」
    3. 4-3. 業種分布 ― 「ニッチに偏る」
    4. 4-4. 配当利回りの傾向 ― 「3%以上が標準ライン」
    5. 4-5. PBRの傾向 ― 「1倍割れが基本」
    6. 4-6. 株主優待の有無 ― 「優待狙いではない」
    7. 4-7. 銘柄入れ替えの傾向 ― 「ほとんど売らない」
  5. 5. 第4章 投資哲学の5本柱 ― 内藤征吾の頭の中を推察する
    1. 5-1. 第1の柱: 「中小型株への徹底集中」
    2. 5-2. 第2の柱: 「バリュー(割安)の徹底」
    3. 5-3. 第3の柱: 「配当という現金フロー」
    4. 5-4. 第4の柱: 「分散による安全性」
    5. 5-5. 第5の柱: 「時間という最大の武器」
  6. 6. 第5章 銘柄ケーススタディ ― 「内藤銘柄」を一つずつ解剖する
    1. 6-1. ディーエムエス(9782)― 「内藤銘柄」の代表例
    2. 6-2. ZOA(3375)― 超小型バリューの典型
    3. 6-3. アイエーグループ(7509)― オートバックスFCの隠れた優等生
    4. 6-4. メディカルネット(3645)― ストック型ビジネスのバリュー
    5. 6-5. イマジニア(4644)― ニッチゲームメーカーの底力
    6. 6-6. 花月園観光(9674)― 究極の保有比率4.92%
    7. 6-7. ファースト住建(8917)― 戸建分譲の堅実派
    8. 6-8. 共通項の抽出
  7. 7. 第6章 兜町の名投資家たちとの比較 ― 五味大輔、清原達郎、片山晃
    1. 7-1. 五味大輔氏との比較
    2. 7-2. 清原達郎氏との比較
    3. 7-3. 片山晃(五月)氏との比較
    4. 7-4. 4人の比較表
    5. 7-5. ウォーレン・バフェットとの類似性
    6. 7-6. ピーター・リンチとの相違
  8. 8. 第7章 「沈黙」が持つ意味 ― 情報発信しない哲学
    1. 8-1. 沈黙の戦略的価値
    2. 8-2. 「発信する投資家」と「発信しない投資家」のリターン差
    3. 8-3. 「内藤銘柄」を意図せず公開している矛盾
    4. 8-4. 「発信しないことで生まれるブランド」
  9. 9. 第8章 個人投資家が内藤征吾から学ぶ10の教訓
    1. 教訓1: 「プロとは戦うな」を徹底する
    2. 教訓2: 「割安」の定義を持つ
    3. 教訓3: 配当を「資金循環エンジン」と考える
    4. 教訓4: 100銘柄分散も「あり」と知る
    5. 教訓5: 「売らない」という選択肢の力を知る
    6. 教訓6: 「地味な業種」に宝が眠ると知る
    7. 教訓7: 「5%ルール」を意識する
    8. 教訓8: 「市場に語らない」勇気
    9. 教訓9: 「テーマ株より企業」を見る
    10. 教訓10: 「時間」こそ最大の武器と知る
  10. 10. 第9章 「内藤銘柄」を真似する際の致命的な落とし穴
    1. 落とし穴1: 情報のタイムラグ
    2. 落とし穴2: ポジションサイズの違い
    3. 落とし穴3: 個別銘柄の理由が不明
    4. 落とし穴4: 「内藤銘柄」が変化する
    5. 落とし穴5: マクロ環境の変化
    6. 落とし穴6: 配当維持の不確実性
    7. 落とし穴7: 自分の理解を超えた銘柄を買う
    8. 落とし穴8: 「内藤銘柄」だけでポートフォリオを組まない
    9. 落とし穴9: 心理的耐性の差
    10. 落とし穴10: 「内藤式」の前提が崩れる可能性
  11. 11. 第10章 内藤式の現代的意義 ― 高市政権・PBR1倍割れ改革下での再評価
    1. 11-1. 東証PBR1倍割れ改革の意義
    2. 11-2. 高市政権下での投資環境
    3. 11-3. 「失われた30年」の終わりと内藤式
    4. 11-4. これから市場に入る個人投資家へのメッセージ
  12. 12. 終章 「見えないが、確かにそこにいる」投資家像
    1. 12-1. 内藤征吾という現象
    2. 12-2. 内藤式の核心 ― 6つのキーワード
    3. 12-3. 「真似できる部分」と「真似できない部分」
    4. 12-4. 「内藤銘柄」リストとともに歩む
  13. 補論A 内藤式の数理的検証 ― バリュー・プレミアムは本当に存在するのか
    1. A-1. ファマ・フレンチの3ファクターモデル
    2. A-2. 日本市場におけるバリュープレミアムの実証
    3. A-3. 「Magic Formula」との類似性
    4. A-4. ベンジャミン・グレアム「Net-Net銘柄」との関係
  14. 補論B 中小型バリュー株市場の特殊性 ― 内藤氏が活躍できる土壌
    1. B-1. 機関投資家の構造的制約
    2. B-2. 流動性プレミアムの享受
    3. B-3. 「クジ引き効果」の捕捉
    4. B-4. 「コーポレートガバナンス改革」という巨大な追い風
  15. 補論C 銘柄入れ替えから読む「内藤氏の進化」
    1. C-1. 2014年~2017年の特徴
    2. C-2. 2018年~2021年の拡大期
    3. C-3. 2022年~2024年の最盛期
    4. C-4. 2025年の現在地
    5. C-5. 「進化しているが、変節していない」
  16. 補論D 「内藤式」を試したい個人投資家のための実践ガイド
    1. D-1. ステップ1: スクリーニング基準の設定
    2. D-2. ステップ2: 個別企業の確認
    3. D-3. ステップ3: ポジションサイズの決定
    4. D-4. ステップ4: 売却ルールの設定
    5. D-5. ステップ5: 心理的な準備
    6. D-6. ステップ6: 学習の継続
  17. 補論E 内藤銘柄の業種別ポートフォリオ分析 ― 「なぜ建設業が多いのか」を深掘りする
    1. E-1. 建設業の構造的特性
    2. E-2. 内藤氏の建設関連銘柄リスト
    3. E-3. 「公共投資+インフラ更新」というマクロテーマ
    4. E-4. 「キーエンス的高収益企業」は買わない理由
  18. 補論F 「ファクター投資」と内藤式の関係
    1. F-1. ファクター投資とは何か
    2. F-2. 内藤式のファクター・エクスポージャー
    3. F-3. ファクター投資との「決定的な違い」
  19. 補論G 内藤式とESG投資 ― 一見対立するが、実は親和性
    1. G-1. ESG投資の最近の動向
    2. G-2. 「実質的なESG」という視点
    3. G-3. 「形だけのESG」への警戒
  20. 補論H 内藤式と新NISA ― 個人投資家が「真似できる」スコープ
    1. H-1. 新NISAの活用可能性
    2. H-2. 5年で1200万円の「内藤風ポートフォリオ」を構築するシミュレーション
    3. H-3. 注意点 ― 銘柄選定の難しさ
  21. 補論I 「内藤式」をAI・データ分析ツールで補完する
    1. I-1. データ分析の進化
    2. I-2. AI活用の可能性
    3. I-3. 「人間の目利き」の重要性
  22. 補論J 内藤式の限界とリスク ― 公平な評価のために
    1. J-1. グロース相場では取り残される
    2. J-2. 「失われた30年」のような長期低迷リスク
    3. J-3. 業績悪化銘柄を抱えるリスク
    4. J-4. 流動性リスク
    5. J-5. 機関投資家化のリスク
    6. J-6. 為替・グローバル要因
    7. J-7. 制度変更リスク
  23. 補論K 終わりに、もう一度内藤征吾という存在を考える
    1. K-1. 「投資の達人」とは何か
    2. K-2. 「沈黙」という最高の修行
    3. K-3. 私たちに残されたもの
    4. K-4. 最後のメッセージ
  24. 13. 参考資料
    1. 13-1. 一次情報源
    2. 13-2. データベース・情報源
    3. 13-3. 報道・メディア記事
    4. 13-4. 個別銘柄情報(IRBANK等から)
    5. 13-5. SNS・個人投資家による言及
    6. 13-6. 関連書籍・古典
    7. 13-7. 注意事項

1. はじめに ― なぜ今、内藤征吾を学ぶのか

株式投資の世界には、二種類の「有名人」がいます。一方は、テレビに出て、本を書き、SNSで毎日のように発信する人たち。もう一方は、表舞台にはほとんど姿を見せないのに、有価証券報告書の大株主欄を開くと、何十、何百という上場企業に名前が刻まれている人たち。

内藤征吾という人物は、後者の典型です。それも極端な典型です。

私がこの人物の存在を意識し始めたのは、ある中小型株の四季報を眺めていたときのことでした。聞いたこともない地味な銘柄の大株主欄の上の方に、見慣れぬ個人名が記載されている。最初は「たまたまこの会社の創業家の親戚かな」と思って気にも留めなかったのですが、別の銘柄を見ると、また同じ名前。さらに別の銘柄でも、同じ名前。「これは何者なんだ?」と、ようやく検索エンジンを叩くわけです。

検索しても、出てこないんです。本人のインタビューは一切ない。著書もない。Twitter(現X)アカウントも、YouTubeチャンネルも、ブログも、確認できるものは存在しない。あるのは、有価証券報告書の「大株主の状況」欄にひっそりと記載された名前と、保有株数と、保有割合だけ。

それなのに、IRBANKというデータベースで調べると、2025年時点で78社の有価証券報告書に大株主として登場している人物だというのです。これはもう、桁外れと言うほかありません。

本記事は、この極めて寡黙にして、しかし極めて影響力のある個人投資家・内藤征吾氏について、公開されている一次情報(有価証券報告書、大量保有報告書、各種データベース、報道記事)を徹底的に整理し、彼の投資哲学を可能な限り立体的に浮かび上がらせることを目指したものです。

ご本人が一切発信していない以上、これは推察と分析の積み重ねにならざるを得ません。しかし、保有銘柄の財務指標、保有期間、銘柄入れ替えのパターンを丹念に追えば、「数字が語る哲学」というものは確実に見えてきます。内藤氏が一語も発していなくても、彼の銘柄選びの基準、彼が好む企業の財務体質、彼が許容するリスクのレベル、彼が嫌う種類の銘柄、これらは保有実績そのものから読み取ることができるのです。

なぜ今、この人物を学ぶ価値があるのか。理由は3つあります。

第1に、彼の手法は個人投資家でも完全に再現可能なスケールだからです。年商何兆円の機関投資家やヘッジファンドの手法は、参考にはなっても真似はできません。しかし内藤氏が買っているのは、時価総額20億円から300億円程度の中小型株が中心です。これは100万円から数千万円の資金を持つ個人投資家が、ほぼ同じ条件で参加できる土俵です。

第2に、彼の手法は東証のPBR1倍割れ改革という追い風を、もっとも直接的に受けるスタイルだからです。2023年3月、東京証券取引所は「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請しました。これにより、PBR1倍割れ銘柄に対する株主還元強化、自社株買い、増配が相次いでいます。内藤氏が長年買い集めてきたPBR1倍割れの中小型バリュー株は、まさにこの改革の恩恵を一身に受けるポートフォリオなのです。

第3に、彼の手法は極めて派手さに欠けるからです。テンバガー(10倍株)狙いでもなければ、AI関連や半導体関連といったトレンドに乗るスタイルでもない。ただひたすら、地味で割安で配当の出る中小型株を、何十、何百と買い集めていく。退屈で、目立たず、しかし結果が出る。これは、SNS時代の派手な投資情報に疲れた個人投資家にとって、ある種の解毒剤のような魅力を放つのです。

本記事では、彼の保有銘柄の実データを下敷きに、その投資哲学を10の角度から分析していきます。最後までお読みいただければ、「兜町の影の住人」と呼ばれるこの人物が、なぜ畏怖と尊敬を込めて語られるのか、その理由が腑に落ちるはずです。


2. 第1章 内藤征吾とは何者か ― 「兜町の影の住人」のプロフィール

2-1. 公開情報のすべて

内藤征吾という人物について、ネット検索で得られる公開情報は驚くほど限られています。年齢、出身地、職業、家族構成、学歴、投資を始めた経緯。これらすべてが不明です。

ある意味、この「情報の少なさ」自体が、彼の投資哲学を雄弁に物語っています。表に出ない、語らない、説明しない。これは単に内気な性格というよりも、戦略的な沈黙であるように私には思えます。なぜなら、彼ほどの規模を持つ投資家であれば、メディアの取材依頼は山ほど来ているはずだからです。にもかかわらず、一切応じていない。これは「応じない」という選択を能動的にし続けた結果でしょう。

公開情報として確実に判明していることは、以下の通りです。

  • 氏名: 内藤征吾(読み方は「ないとう せいご」と推定される。公式の読み仮名は公開されていない)
  • 属性: 個人投資家
  • 拠点: 不明(ただし保有銘柄の地域分布から、東京を中心に全国の中小型株に目を向けている形跡あり)
  • 保有銘柄数: 105銘柄(バフェット・コード集計、有価証券報告書ベースで把握できる範囲)
  • 有価証券報告書登場社数: 2025年時点で78社(IRBANK調べ)
  • メディア露出: 一切なし(インタビュー、書籍、寄稿、SNS、YouTube、ブログのいずれも未確認)

これだけです。本人の写真も出回っていません。年齢を推定する手がかりすらありません。仮に60代だとしても、40代だとしても、同じ程度の説得力で語ることができてしまいます。

2-2. 「兜町では知る人ぞ知る」という評価

ファイナンシャルプランナーの松澤健一郎氏は、週刊ポスト2021年1月15・22日号で内藤氏について次のように語っています。

「1人で10社以上の大株主となった人のほとんどは、巨額の資金を長期投資する『個人投資家』です。なかでも内藤氏は兜町では知る人ぞ知る投資家で、彼が株を大量保有する企業は信頼できると評判になり、『内藤銘柄』として投資基準のひとつになっています」

この「兜町では知る人ぞ知る」という形容は、絶妙です。「有名」でもなく「無名」でもない。プロや本格的に株を勉強した投資家の間では認識されているが、一般の個人投資家にはあまり知られていない。この絶妙なポジションを、内藤氏は何年も維持し続けています。

松澤氏は続けて、こうも述べています。

「市場への影響も大きく兜町も大物個人投資家の動向には注目していますが、基本的に表舞台に出てこないので情報が少ないのです」

つまり、市場関係者の間では「動向は注目されている」。しかし「本人は表舞台に出ない」。このギャップこそが、内藤征吾という現象を理解する鍵です。

2-3. 大株主登場社数の推移 ― 30年スパンの蓄積

IRBANKの集計データを見ると、内藤氏が有価証券報告書の「大株主の状況」欄に登場している社数は、年を追うごとに増え続けています。

  • 2014年: 2社
  • 2015年: 9社
  • 2016年: 10社
  • 2017年: 14社
  • 2018年: 13社
  • 2019年: 23社
  • 2020年: 20社
  • 2021年: 39社
  • 2022年: 38社
  • 2023年: 47社
  • 2024年: 56社
  • 2025年: 78社

ご覧の通り、10年で約40倍に増えています。これが何を意味するか。単純な解釈は二つあります。

一つ目は、「資金が増えたから保有企業数が増えた」というもの。配当を再投資し、値上がり益を確定せずに再び別の銘柄に振り分け、雪だるま式に保有企業を増やしていったという解釈です。

二つ目は、「方針として分散度合いを意識的に高めている」というもの。同じ資金でも、1銘柄に集中投資せず、2~4%という比率で多数の銘柄に分散すれば、保有社数は必然的に増えます。

おそらく、両方の要素が同時に作用していると私は見ています。配当再投資と値上がり益再投資による資産の自然増加と、「集中投資はしない」という意識的なポリシーが組み合わさり、結果として銘柄数だけが純増していく。これが現在進行形で起きていることでしょう。

なお、2014年時点で2社というのは「IRBANKが集計を始めた起点」というデータベース側の事情も含まれている可能性があります。実際には2014年より前から長く投資活動を続けていたと考えるのが自然です。仮に2010年代前半から本格的に活動を始めていたとすれば、現在までで少なくとも10年以上のキャリアがある計算です。投資の世界で10年以上トラックレコードを残し続けることは、それ自体が極めて困難な実績です。

2-4. 「33億円・22社」というベンチマーク数値

複数の二次情報源で、「2022年に22社に合計約33億円を投資し、個人投資家の多株主ランキングで第1位を獲得」という記述が見られます。

ただし、この数字を一次情報に当たって精査すると、いくつか注意点があります。「22社」という数字は、実際には週刊ポスト2021年1月15・22日号の記事で報じられた「保有企業数22社でトップ」という記述が出所です。つまり、22社は2020年末から2021年初頭の時点での集計値であり、「2022年に22社」というのは伝聞の過程で年次がずれた可能性があります。

実際、IRBANKの集計では、2021年時点で大株主登場社数は39社、2022年時点で38社となっており、「22社」よりかなり多い。週刊ポストの集計とIRBANKの集計で対象範囲が異なる(上位10位までの集計範囲、株式分割の影響、報告タイミング等で誤差が生じる)ためと推察されます。

いずれにしても、当時時点で「個人投資家として保有企業数1位」を獲得していたことは、複数のメディアで確認できる事実です。そして「33億円」という数字は、保有株式の時価総額の概算であり、これも「最低限の規模感」として理解しておくべきでしょう。実際には現在、保有株数の増加と株価上昇により、保有時価総額はさらに大きくなっていると見るのが自然です。

2-5. なぜ「内藤」姓・「征吾」名なのか

これは余談ですが、「内藤」という姓は江戸時代以来の旧家にも多く、「征吾」という名は昭和初期から中期にかけて流行した男性名です。命名のトレンドから推測すれば、内藤氏は少なくとも50代以上、おそらく60代以上の年齢層であると考えるのが自然でしょう。あくまで推測の域を出ませんが、もし60代であれば、彼が投資を始めたのは1980年代前半のバブル前夜から、もしくはバブル崩壊直後の1990年代初頭である可能性が高い。

この時代に投資を始めた人物には、共通する経験則があります。それは「強気相場は永遠ではない」「割高な株は必ず元に戻る」「現金の力をなめてはいけない」という、肌身で覚えた感覚です。内藤氏が一貫して低PBR・高配当の中小型バリュー株を好むのは、こうした世代特有の市場経験が背景にあるのかもしれません。これは私の独自仮説ですが、保有銘柄の傾向から推察すると、決して的外れではないように思えます。


3. 第2章 「内藤銘柄」というシグナル ― なぜ市場は彼を追うのか

3-1. 「内藤銘柄」とは何か

「内藤銘柄」という言葉が独立した用語として流通している、というのが内藤征吾という人物の特異性を端的に示しています。

この言葉は、内藤氏が大株主として有価証券報告書に名を連ねる銘柄を指します。掲示板やSNSで「内藤銘柄」と検索すると、「内藤さんが入ってる」「内藤さんが抜けた」「内藤さんが買い増した」といった投稿が日常的に見られます。

なぜこの言葉が定着したか。理由は明快で、**「内藤氏が大株主に名を連ねた銘柄は、その後の株価パフォーマンスが良い傾向にある」**と市場参加者に認識されているからです。

これは厳密に統計的に証明されているわけではありません。しかし、彼の保有実績を眺めていると、確かに「業績堅調・財務健全・割安・着実な株主還元」という条件を満たす銘柄が多い。そして、こうした銘柄は中長期で見れば、市場平均を上回るリターンを上げる傾向があります。

つまり「内藤銘柄」は、内藤氏の銘柄選定眼を通過した銘柄であり、彼の選定基準が再現性を持っているという市場の暗黙の評価が、この言葉に込められているのです。

3-2. 「シグナル」としての価値

機関投資家やヘッジファンドにとって、個人の大口投資家の保有銘柄情報は、貴重な「シグナル」になります。なぜなら、彼らは自分たち自身では知名度の低い中小型株を網羅的にカバーしきれないため、すでに目利きが選別した銘柄リストを参考にできるなら、それは効率的なスクリーニング手段となるからです。

特に、内藤氏の場合は次の特徴があります。

第1に、銘柄選定の一貫性。彼の保有銘柄を時系列で追うと、急に方針が変わったり、流行のテーマに飛びついたりという形跡が見られません。一貫してバリュー株、それも財務体質の良い中小型株です。一貫性のある投資家のシグナルは、ノイズが少なく、本質的なシグナルとして読み取りやすい。

第2に、長期保有。短期売買を繰り返す投資家のシグナルは、すぐに陳腐化します。買ったかと思えば数週間後には売っている。これでは追跡する側のコストに見合いません。一方、内藤氏は長期保有が基本で、一度ポートフォリオに組み入れた銘柄は、何年も保有し続けます。これは追跡する側にとって、極めて扱いやすい性質です。

第3に、銘柄数の多さ。彼が10銘柄しか持っていなければ、シグナルとしての汎用性は低いでしょう。しかし100銘柄以上を保有しているということは、それだけ多くの中小型株を網羅しているということで、参考になる範囲が広い。

3-3. SNS上の評価 ― 「別格」「安心感」

ネット上の個人投資家コミュニティでは、内藤氏に対する評価は概ね好意的です。投資詐欺緊急ホットラインの記事によれば、掲示板やSNSでは次のような声が多く見られるといいます。

  • 「名前を見つけると安心感がある」
  • 「保有株が凄すぎる」
  • 「別格」

これは、彼が情報発信を一切していないにもかかわらず、その実績だけで個人投資家から畏敬の念を集めていることを示しています。普通、影響力のある人物は積極的に発信して影響力を獲得していくものですが、内藤氏は逆です。沈黙し続けることで、かえって神秘性とブランド力を高めている。これは現代において極めて珍しいパターンです。

ある投資家がXに投稿した「ここまで安く放置されている理由はよく分かりませんが、配当もらいつつ待っていれば報われる銘柄に思えるのでPFの10%弱まで増やしました。内藤征吾さんが25/3末から新たに大株主として登場しているところもポイント高いかなと。」という投稿は、まさに「内藤銘柄」が投資判断の補強材料として機能している実例です。

3-4. 「内藤シグナル効果」の構造的分析

私の独自の分析を加えるならば、「内藤銘柄」が機能する理由は、以下の構造的要因に分解できます。

第1要因: 中小型株市場の非効率性

時価総額1000億円以上の大型株は、機関投資家、外国人投資家、アナリスト、メディアが日々分析対象としており、株価には情報が瞬時に織り込まれます。一方、時価総額100億円以下の小型株は、カバーするアナリストもおらず、報道も限定的で、株価には「情報の非効率性」が残ります。内藤氏は、この非効率性が残る領域を主戦場としています。

第2要因: 一次情報の徹底読み込み

時価総額50億円の会社が新製品を出しても、ニュースにはほとんどなりません。決算短信は出ますが、それを丹念に読む投資家は限られます。内藤氏は、こうした一次情報を徹底的に読み込んでいると推察されます。なぜなら、彼の保有銘柄は「市場が見落としている良い会社」が多く、これは一次情報を徹底的に当たらない限り発見できないからです。

第3要因: 「他人と異なる時間軸」での勝負

機関投資家は四半期決算で評価され、ヘッジファンドは年次のパフォーマンスで判定され、個人投資家の多くも「直近の値動き」で一喜一憂します。内藤氏は、明らかに3年、5年、10年という時間軸で勝負しています。これは、短期の値動きでは負けることもあるが、企業の本質的価値が株価に反映されるまで待ち続けることで、市場の歪みを利益に変える戦略です。

第4要因: 「逆張り」ではなく「無視されている」を買う

「逆張り投資」と「内藤式投資」は似ているようで本質的に異なります。逆張りは「市場が嫌っているもの」を買う戦略ですが、内藤氏が買っているのは「市場が嫌っている」のではなく「市場が見ていない」銘柄です。これは似ているようで重要な違いです。嫌われている銘柄には嫌われる理由がある場合が多いですが、見られていない銘柄には単に注目されていないだけというケースが多い。後者の方が、リターンの期待値は高い。

3-5. 内藤銘柄を「読む」ことの限界

ただし、「内藤銘柄」というシグナルにも限界があります。これは公平に指摘しておくべきでしょう。

第1の限界: 情報の遅延性

有価証券報告書に「大株主の状況」が記載されるのは、決算期末から3ヶ月後の有価証券報告書提出時です。つまり、3月決算企業なら、3月末時点での大株主構成が、私たちの目に触れるのは6月以降。この時点で、内藤氏がさらに買い増しているのか、あるいは売却を始めているのかは、わかりません。3ヶ月という情報のラグは、短期売買には致命的です。長期投資のシグナルとしてしか使えません。

第2の限界: なぜ買ったかは不明

内藤氏が銘柄Aを買った時、それは業績期待からなのか、配当狙いなのか、株主還元強化への期待なのか、あるいは別の理由なのか。本人が一切発信しないため、買い動機は完全に不明です。同じ銘柄を「内藤氏が買っているから」という理由だけで買う投資家は、買い動機を共有していないため、内藤氏とは異なるタイミングで売ってしまう可能性が高い。

第3の限界: ポジションサイズの最適化

内藤氏は、おそらく数十億円の資金を100以上の銘柄に分散しています。1銘柄あたりの平均ポジションサイズは数千万円から1億円程度。これは個人投資家の資金規模とは全く異なります。資金規模が異なると、最適な銘柄選定も、最適な分散度合いも、最適な利確タイミングも、すべて変わってきます。

これらの限界を踏まえると、「内藤銘柄」はスクリーニングの初期段階の参考情報として価値があるが、最終的な投資判断は自分の頭で考える必要がある、ということになります。


4. 第3章 数字で読み解く投資スタイル ― 一次情報からの徹底分析

ここからは、有価証券報告書および各データベース(IRBANK、バフェット・コード、株探、みんかぶ等)から得られる一次情報をもとに、内藤氏の投資スタイルを定量的に分析していきます。

4-1. 保有比率の特徴 ― 「2~4%の壁」

内藤氏が保有する銘柄の保有比率を見ると、興味深い傾向が浮かび上がります。

2025年の有価証券報告書ベースで、内藤氏が登場する主な銘柄の保有比率を見てみましょう。

銘柄コード 銘柄名 保有比率 保有株数
9674 花月園観光 4.92% 86,000株
9478 SE H&I 4.03% 64万株
2778 パレモHD 3.85% 46万株
9782 ディーエムエス 3.78% 21万株
3639 ボルテージ 3.71% 24万株
3645 メディカルネット 3.67% 33万株
8917 ファースト住建 3.64% 50万株
6038 イード 3.62% 17万株
7521 ムサシ 3.46% 23万株
5923 高田機工 3.45% 20万株
3375 ZOA 3.42% 43,000株
7509 アイエーグループ 3.30% 48,000株

ご覧の通り、保有比率はほぼすべて「3~5%未満」に収まっています。これは偶然ではなく、明確な意図があります。

理由は、金融商品取引法における「5%ルール(大量保有報告制度)」です。発行済株式の5%超を保有すると、5営業日以内に大量保有報告書を金融庁に提出する義務が生じます。報告書には保有目的(純投資か、政策保有か、経営参加か)、取得資金の出所、共同保有者の有無などを記載する必要があり、また保有比率が1%以上変動するたびに変更報告書の提出義務が課されます。

5%を超えてしまうと、買い増しも売却も、その都度公表される。これは、機動的な売買を妨げます。内藤氏は、明らかに「5%ルールの一歩手前まで買って、それ以上は買わない」という戦略を採っています。これにより、機動性を保ちつつ、有価証券報告書には大株主として確実に名を連ねることができる。

唯一、花月園観光(9674)の4.92%が、5%にかなり近づいています。これは内藤氏が「これは確信銘柄だ」と判断している銘柄の指標として読めるかもしれません。

4-2. 時価総額分布 ― 「小型株、ただし極小ではない」

内藤氏の保有銘柄を時価総額帯で分類すると、興味深いパターンが見えてきます。株探プレミアムのデータによれば、2025年12月時点で内藤氏は49銘柄が報告書ベースで把握されており、時価総額帯別の分布は以下のような傾向があります(個別データから推定)。

  • 50億円未満: 一定数あり(例:ZOA約21億円、ジャストプランニング、サイタHDなど)
  • 50~100億円: 多数(例:アイエーグループ約64億円、こころネット、川岸工業など)
  • 100~300億円: 中核ゾーン(例:ディーエムエス約255億円、メディカルネット、藤田エンジニアリングなど)
  • 300~1000億円: 比較的少数
  • 1000億円超: 極めて少数

つまり、保有銘柄の中心ゾーンは「時価総額50~300億円」です。これより小さい超小型株(時価総額20億円以下)は手を出すが少なく、これより大きい中型株(時価総額500億円以上)もメインではない。

なぜこの帯域が中心なのか。私の分析では、3つの理由が考えられます。

理由1: 流動性とサプライズ余地のバランス

時価総額20億円以下の極小型株は、流動性が低く、出来高が日に数百万円というケースも珍しくありません。これでは、数千万円のポジションを構築するのに数週間以上かかってしまう。一方、時価総額500億円以上の銘柄は、すでに機関投資家のレーダーに入っており、株価に情報が織り込まれやすい。時価総額50~300億円は、流動性も最低限あり、かつ機関投資家からは見落とされやすい「スイートスポット」なのです。

理由2: 「5%の壁」が機能する規模

時価総額100億円の会社の5%は、5億円相当。これくらいの規模なら、内藤氏の資金力で「5%まであと一歩」という保有が可能です。一方、時価総額1000億円の会社の5%は、50億円相当。ここまで一人で買うのは、内藤氏の資金規模でも難しいでしょう。つまり、保有比率3~5%という戦略を採るには、この時価総額帯がちょうど良いのです。

理由3: 経営陣の顔が見える

時価総額50~300億円の会社は、創業家もしくは創業家筋の経営者がまだ経営に関わっているケースが多い。社長の名前で経営判断がなされ、株主に対する責任意識も明確。一方、時価総額数兆円のメガコーポレーションは、サラリーマン経営者が短期で交代し、株主との距離が遠い。バリュー投資においては、「経営陣を信頼できるか」は重要な変数です。中小型株の方が、この点で見極めやすい。

4-3. 業種分布 ― 「ニッチに偏る」

内藤氏の保有銘柄を業種別に見ると、明らかな偏りが見られます。一覧から代表的なものを業種別に整理してみましょう。

建設・土木・住宅関連

  • 1718 美樹工業
  • 1739 メルディアDC
  • 1758 太洋基礎工業
  • 1770 藤田エンジニアリング
  • 1798 守谷商会
  • 1807 佐藤渡辺
  • 1960 サンテック
  • 1999 サイタHD
  • 5280 ヨシコン
  • 5921 川岸工業
  • 5923 高田機工
  • 7808 シー・エス・ランバー
  • 8917 ファースト住建

機械・部品

  • 4624 イサム塗料
  • 6943 NKKスイッチズ
  • 7841 遠藤製作所
  • 9845 パーカーコーポレーション
  • 5283 高見澤

サービス・小売

  • 2411 ゲンダイエージェンシー
  • 2778 パレモHD
  • 2788 アップルインターナショナル
  • 3020 アプライド
  • 3375 ZOA
  • 7509 アイエーグループ
  • 7521 ムサシ
  • 7619 田中商事
  • 9782 ディーエムエス
  • 9791 ビケンテクノ

メディア・通信・IT

  • 2389 デジタルHD
  • 3131 シンデン・ハイテックス
  • 3138 富士山マガジンサービス
  • 3639 ボルテージ
  • 3645 メディカルネット
  • 4287 ジャストプランニング
  • 4295 フェイス
  • 4644 イマジニア
  • 6038 イード
  • 6074 ジェイエスエス

運輸・観光

  • 9674 花月園観光

冠婚葬祭

  • 6060 こころネット

金融

  • 8742 小林洋行

その他

  • 5699 イボキン(産業廃棄物)
  • 2483 翻訳センター(翻訳)

最も多いのは「建設・土木・住宅関連」で、約13社以上が含まれます。これは興味深い偏りです。なぜなら、建設業は一般的に「景気敏感、低成長、低マージン」と見られがちで、グロース投資家からは敬遠されるセクターだからです。

しかし内藤氏は、このセクターに大量に投資しています。なぜか。バリュー投資の観点から見れば、建設業は次のような特徴を持つからです。

  • PBRが低い: 建設機械、土地、在庫資産を多く抱えており、資産価値に対して株価が低くなりやすい
  • 配当利回りが高い: 利益の安定性に対する市場の評価が低く、結果として配当利回りが相対的に高くなる
  • 景気循環の恩恵を受けやすい: 公共投資の動向次第で業績が大きく改善する余地がある
  • 構造的需要が安定している: インフラ更新、住宅建て替えは止まらない

これらの特徴は、まさに「低PBR・高配当・景気回復時のレバレッジ」を狙うバリュー投資の理想形とフィットします。

4-4. 配当利回りの傾向 ― 「3%以上が標準ライン」

代表的な内藤銘柄の配当利回りを見てみましょう。

銘柄 配当利回り(予想) PER(予想) PBR
9782 ディーエムエス 6.43~6.85% 18.42倍 1.17倍
3375 ZOA 4.7% 5.3倍 0.67倍
7509 アイエーグループ 3.85% 4.94倍 0.36倍

ディーエムエスの配当利回り6.85%は、特筆に値します。同社は2021年3月期以降、4期連続で増配を続けており、2025年3月期には1株あたり236円(前期比157円増)と急増配を発表しました。配当方針も「配当性向60%目安」から「DOE(株主資本配当率)8%目安」へと変更しています。これは、東証のPBR1倍割れ改革を受けた典型的な株主還元強化策です。

内藤氏が長期保有してきたディーエムエスは、まさに彼が求めていた「長く持っていれば、いつか企業が変わる」というシナリオが現実化した好例と言えるでしょう。

4-5. PBRの傾向 ― 「1倍割れが基本」

内藤銘柄のPBRを見ると、多くが1倍未満です。

  • 7509 アイエーグループ: PBR 0.36倍
  • 3375 ZOA: PBR 0.67倍
  • 多くの建設・土木関連: PBR 0.5~0.8倍

これは典型的な「資産バリュー株」のシグナルです。PBR1倍未満ということは、企業の解散価値(純資産)より、株式時価総額の方が低いという状態。理論的には、会社を清算して資産を分配した方が、株主にとって儲かる状態です。

なぜこのような銘柄が存在するのか。市場が「この会社は将来、純資産を毀損する」と懸念しているか、あるいは「資産はあっても収益力が低く、資産は有効活用されない」と評価しているか、もしくは単に「注目されていない」だけのケースもあります。

内藤氏のスタンスは、おそらく「収益力もそこそこあり、資産もあり、ただ市場から忘れられている銘柄」を選別している、というものでしょう。

4-6. 株主優待の有無 ― 「優待狙いではない」

興味深いのは、内藤氏の保有銘柄に「株主優待で有名な銘柄」がほとんど含まれていないという点です。

例えば、株主優待で個人投資家に人気のオリエンタルランド、すかいらーくHD、ヤマダHD、イオンといった銘柄は、彼の保有リストには見当たりません。これは、内藤氏の関心が「現金リターン(配当)」にあり、「現物リターン(優待品)」にないことを示しています。

これは、ある意味で当然です。彼のように資金規模が大きい投資家にとって、1000円分のQUOカードや食事券をもらっても、効用はほとんどありません。それより配当で現金をもらった方が、再投資に回せる。資金効率を考えれば、優待は無関係なノイズなのです。

桐谷さんのように、「優待生活」を全面に出した個人投資家とは、対照的なスタイルと言えます。

4-7. 銘柄入れ替えの傾向 ― 「ほとんど売らない」

IRBANKの履歴を見ると、内藤氏の銘柄入れ替えは極めて低頻度です。

例えば、ディーエムエス(9782)は、少なくとも2019年から2025年まで継続して保有されています。花月園観光(9674)も、2022年から2025年まで4.92%を維持しています。1718 美樹工業も2019年6月以来、ずっと3.13%前後を保有し続けています。

つまり、彼は「買ったら、ほぼ売らない」スタイルです。

これは、税効率の観点でも、銘柄管理の観点でも、極めて合理的です。日本の譲渡益税は20.315%。長期保有を続けて含み益のままにしておけば、税金を払わずに資産を増やせる。一方、頻繁に売買すれば、その都度、譲渡益課税が発生し、資産形成のスピードは大きく低下します。

保有し続ける」というのは、地味ですが、最強の投資戦略の一つです。バフェットも「保有期間は永遠」と言いました。内藤氏は、その精神を実践している投資家の一人と言えるでしょう。


5. 第4章 投資哲学の5本柱 ― 内藤征吾の頭の中を推察する

ここまで分析してきた一次情報をもとに、内藤征吾氏の投資哲学を5つの柱に整理してみます。本人が明示的に語ったわけではないため、これらはあくまで「数字から読み解いた推察」です。しかし、保有実績は何より雄弁です。

5-1. 第1の柱: 「中小型株への徹底集中」

内藤氏は、大型株をほとんど買いません。トヨタもソフトバンクもファーストリテイリングも、保有銘柄に登場しません。これは偶然ではなく、明確なポリシーです。

「就職氷河期世代ニートのサバイバル」というブログの記事は、この点を端的に解説しています。

「トヨタ自動車が画期的な新商品を出せば、株価にその情報はすぐに反映されるでしょう。しかし、時価総額数十億円の小企業が画期的の新商品を出してもすぐには情報が広まらないはずです。株価に情報がすぐには織り込まれないのです。そこで、小型銘柄をじっくりと分析することで、株で利益を上げるチャンスが出てくるわけです。プロと真正面で真正面で戦っても勝ち目はありませんが、プロが手を出せないような状況で情報を分析すれば、個人投資家でも勝機があります。」

これはまさに、五味大輔氏の「プロとは戦うな」という名言と同じ思想です。

機関投資家は、運用規模が大きすぎて、中小型株には実質的に投資できません。例えば、1兆円を運用するファンドが、時価総額50億円の会社の5%(2.5億円)を買っても、ポートフォリオへの影響は0.025%。一方、その株を売る時に、出来高の薄い市場に大量売り注文を出せば、株価を暴落させてしまう。だから、機関投資家は中小型株を実質的に避ける。

この「機関投資家不在の市場」こそ、個人投資家の主戦場です。内藤氏は、この戦場を主たる活動領域として選んでいます。

5-2. 第2の柱: 「バリュー(割安)の徹底」

内藤氏が好むのは、PBR1倍未満、PER1桁台、配当利回り3%以上といった、典型的なバリュー指標を満たす銘柄です。

バリュー投資の根本思想は、「1万円が入った財布を5000円で買う」というメタファーで表現されます。市場が何らかの理由で実際の価値より安い値段をつけている銘柄を見つけて買い、市場が正常な評価に戻るのを待つ。これがバリュー投資の本質です。

ベンジャミン・グレアム、ウォーレン・バフェット、シーガル、リン、テンプルトン、すべてのバリュー投資家がこの思想を共有しています。日本でも、つみたて投資が普及する以前、バリュー投資は王道の手法でした。

ただし、バリュー投資には大きなリスクがあります。それは「バリュートラップ」と呼ばれるもので、「割安だから買ったのに、その後も延々と割安なまま」という状態。10年経っても株価が動かない銘柄も珍しくありません。

内藤氏が、このトラップにハマらないように何をしているかは、本人が語らないので分かりません。しかし、彼が100銘柄以上に分散していることが、トラップ対策になっているはずです。1銘柄や2銘柄なら、トラップに陥った時のダメージは大きい。100銘柄に分散すれば、トラップ銘柄が10銘柄あっても、残り90銘柄が機能すれば、全体としてはリターンを上げられます。

5-3. 第3の柱: 「配当という現金フロー」

内藤氏の保有銘柄は、配当利回りが3%以上のものが多数を占めます。これは、配当を「収益源」として明確に位置付けていることを意味します。

ここで重要な視点は、配当の役割が「保有銘柄数を増やす燃料」であるということです。仮に100銘柄を平均配当利回り4%で保有していれば、年間で保有資産の4%が現金で入ってくる。それを別の銘柄に再投資すれば、銘柄数は自然に増えていく。値上がり益を確定しなくても、新規購入の原資が無限に供給される構造です。

これは「配当複利マシン」と呼ぶべき仕組みです。バフェットがコカ・コーラの配当だけで何兆円も再投資しているのと、本質的には同じ構造です。スケールは違いますが、思想は同じ。

しかも、日本の中小型株の中には、配当性向が低い(つまり利益の多くを内部留保している)会社も多く、これらは将来的に増配の余地が大きい。ディーエムエスのように、4年で配当が10倍以上に増えるケースもあります。配当が増えれば、株価も連動して上がる傾向があり、ダブルでリターンが得られます。

5-4. 第4の柱: 「分散による安全性」

100銘柄以上に分散するというのは、現代ポートフォリオ理論的に見ても、極めて合理的な選択です。

理論上、銘柄数を20以上に増やすと、個別銘柄リスク(システマティックでないリスク)はほぼ排除できるとされています。30銘柄を超えると、その効果は逓減します。100銘柄に分散するのは「過剰分散」と批判される可能性すらあります。

しかし、内藤氏の手法を理解するには、別の視点が必要です。それは「バリュートラップへの保険」と「外れ値の捕捉」という二つの観点です。

バリュートラップへの保険: 既述のように、バリュー株の中にはトラップ銘柄も含まれる。何銘柄がトラップなのか、事前には分かりません。100銘柄に分散すれば、トラップが20%含まれていても、80%は機能する。

外れ値の捕捉: バリュー株の中には、まれに「テンバガー(10倍株)」になるケースがあります。例えば、PBR0.5倍だった会社が、事業改革と増配で株価が10倍になることもある。100銘柄持っていれば、こうした外れ値に当たる確率も上がります。1~2銘柄でもテンバガーが出れば、それだけで全体のリターンを大きく押し上げる。

つまり、内藤氏の100銘柄分散は、「外れ銘柄でやられる」リスクを下げつつ、「当たり銘柄を逃さない」確率を上げる戦略なのです。

5-5. 第5の柱: 「時間という最大の武器」

内藤氏のもう一つの特徴は、極めて長期の保有姿勢です。一度買った銘柄を、5年、10年と持ち続ける。これは何を意味するか。

第1に、売却タイミングを判断するコストの削減。短期売買では「いつ売るか」を常に考える必要がありますが、長期保有なら、その認知コストが消える。心理的な負担が少ない。

第2に、税繰延効果。譲渡益課税20.315%を払わずに、含み益のまま資産を増やせる。複利効果と組み合わさると、これは絶大な威力を発揮します。仮に年率10%で資産が増える状況で、毎年売って税金を払うのと、20年保有して最後に売るのとでは、最終的な手取りに数倍の差がつきます。

第3に、企業の本質的価値が反映される時間を待てる。3ヶ月や半年では、市場の歪みが解消されないことも多い。3年、5年、10年というスパンで見れば、企業の本質的価値は必ず株価に反映されます。これは歴史的に見て、ほぼ100%言えることです。問題は「いつ」反映されるかで、その「いつ」を待てる投資家だけが、最終的な勝者になります。

ジョン・ボーグルは「時間こそ最大の同盟者」と言いました。内藤氏は、まさにこの言葉を実践している投資家です。


6. 第5章 銘柄ケーススタディ ― 「内藤銘柄」を一つずつ解剖する

ここでは、内藤氏が長期保有している代表的な銘柄を、いくつかピックアップして詳しく見ていきます。それぞれの銘柄が、なぜ内藤氏のポートフォリオに組み入れられているのか、どんな共通項があるのかを浮き彫りにします。

6-1. ディーエムエス(9782)― 「内藤銘柄」の代表例

ディーエムエス(DMS)は、ダイレクトメール(DM)を主体としたメーリングサービス会社で、千代田区神田小川町に本社を構えます。事業内容は、企業の販売促進活動を支援するDM印刷・発送、CRM、デジタルマーケティングなどです。

主要指標(2026年4月時点):

  • 時価総額: 241億円
  • PER(予想): 18.42倍
  • PBR: 1.17倍
  • 配当利回り(予想): 6.85%
  • ROE(予想): 6.37%
  • ROA(予想): 4.75%

内藤氏は、ディーエムエスを少なくとも2019年から継続保有しており、2025年3月末時点で3.78%(21万株)を保有しています。

この銘柄の魅力:

第1に、安定した収益構造。DMは「オワコン」と言われがちですが、実は依然として企業の販促手段として根強い需要があります。デジタル広告だけでは届かない顧客層へのアプローチとして、DMは唯一無二の手段です。同社の2026年3月期第3四半期決算は売上高217億円(前年同期比9.0%増)、営業利益9億円(同16.4%増)と二桁増益を達成しています。

第2に、配当方針の劇的な変更。2025年3月期から、配当方針を「配当性向60%目安」から「DOE 8%目安」に変更しました。これにより、配当額が前期比157円増の236円となり、配当利回りは11.98%まで一時跳ね上がりました。これは典型的な「PBR1倍割れ改革」への対応策です。

第3に、長期保有株主への報酬。内藤氏は、配当方針変更前から保有していました。つまり、彼は「いつかこの会社は株主還元を強化するはずだ」と読んで、低PBR時代から仕込んでいたわけです。そして、その読みが現実になった。これが、長期投資の真骨頂です。

6-2. ZOA(3375)― 超小型バリューの典型

ZOAは、静岡県浜松市に本社を構える、パソコンや周辺機器の販売店「PC1’s」を運営する小売業です。

主要指標(2025年2月時点):

  • 時価総額: 21億円
  • PER(予想): 5.34倍
  • PBR: 0.67倍
  • 配当利回り(予想): 4.7%
  • ROE(予想): 12.28%
  • ROA(予想): 6.93%

時価総額21億円という、超小型株です。これくらいの規模になると、機関投資家は完全に無視します。それゆえに、株価は割安に放置されやすい。ZOAは、その典型例です。

PBR0.67倍、PER5.3倍、配当利回り4.7%、ROE12.28%。これだけ見ても、絵に描いたようなバリュー株です。ROEが12%もあるのに、PBRが0.67倍。理論的には「株主が会社を買い取って解散すれば、純資産の3割増しで現金が手に入る」状態です。

内藤氏は、2025年3月末時点で3.42%(43,000株)を保有しています。彼にとってZOAは、まさに「市場が見ていない優良企業」の象徴と言えるでしょう。

6-3. アイエーグループ(7509)― オートバックスFCの隠れた優等生

アイエーグループは、神奈川県横浜市戸塚区に本社を構え、神奈川県を中心に東京都・岐阜県・愛知県でカー用品販売店「オートバックス」のフランチャイズを67店舗運営する小売業です。

主要指標(2025年11月時点):

  • 時価総額: 64億円
  • PER(予想): 4.94倍
  • PBR: 0.36倍
  • 配当利回り(予想): 3.85%
  • ROE(予想): 7.3%
  • ROA(予想): 4.01%
  • 自己資本比率: 48.2%

PBR0.36倍、PER4.94倍。これは超バリュー水準です。自己資本比率48.2%という財務健全性も評価できます。

内藤氏は、2025年9月末時点で3.30%(48,000株)を保有しています。

カー用品販売は、EV化やカーシェアの普及で「斜陽産業」と見なされがちですが、実はメンテナンス需要は逆に増えています。自動車保有期間の長期化、車検需要、タイヤ交換、ピット作業など、ガソリン車関連の整備需要は当面続きます。さらに、同社はブライダル事業や不動産事業も展開しており、収益源は多角化されています。

これも、市場が「カー用品=オワコン」というレッテルで割安に放置している、典型的なバリュー銘柄です。

6-4. メディカルネット(3645)― ストック型ビジネスのバリュー

メディカルネットは、歯科業界向けの情報サービスを主力とする会社です。歯科医院の検索サイト、求人サイトを運営しています。

内藤氏は2025年11月末時点で3.67%(33万株)を保有しています。

歯科医院は、全国に7万件以上あり、コンビニより多い「飽和市場」です。しかし、競争は激しく、医院は患者獲得と人材確保に常に苦労しています。メディカルネットは、この需要を捉えるストック型ビジネスを展開しており、安定したサブスクリプション収益が見込めます。

時価総額は約100億円程度の小型株で、機関投資家のレーダーには入りにくい。しかしストック収益のクオリティを考えれば、もっと評価されてもよい銘柄、というのが内藤氏の判断と推察されます。

6-5. イマジニア(4644)― ニッチゲームメーカーの底力

イマジニアは、教育ゲームソフトや「フィットボクシング」などのゲームソフト開発を手がける会社です。

内藤氏は2025年9月末時点で3.30%(31万株)を保有しています。少なくとも2022年から継続保有しているため、3年以上の長期保有銘柄です。

ゲーム業界は、メガヒットがあれば一気に化けますが、ヒットがなければ低迷します。イマジニアは、メガヒットには恵まれないものの、「フィットボクシング」などのロングセラーで安定した収益を上げています。これも、市場の評価が低く割安に放置されているタイプの銘柄です。

6-6. 花月園観光(9674)― 究極の保有比率4.92%

花月園観光は、神奈川県横浜市鶴見区にあった「花月園競輪場」の運営会社として知られていました。現在は競輪場閉鎖後、保有不動産の運用や関連事業を行っています。

内藤氏は、この銘柄を4.92%(86,000株)保有しています。これは5%ルールの一歩手前。彼の保有銘柄の中で、最も保有比率の高い銘柄の一つです。

なぜ4.92%なのか。花月園観光は、競輪場閉鎖後の跡地(横浜市鶴見区の駅前一等地)を保有しており、この土地の含み益が膨大であると推察されます。つまり、株価が表す時価総額と、保有資産の実勢価値(再開発価値)の間に、大きな乖離がある可能性があるのです。

これは典型的な「資産バリュー株」のシナリオで、いつか不動産売却や再開発が実現すれば、株価は大きく上昇する可能性があります。内藤氏は、その「いつか」を5%ギリギリまで仕込んで待っているのでしょう。

6-7. ファースト住建(8917)― 戸建分譲の堅実派

ファースト住建は、関西を中心に戸建住宅の分譲を手がける会社です。

内藤氏は2025年10月末時点で3.64%(50万株)を保有しています。

住宅業界は、人口減少を背景に長期的には縮小傾向にあると見られがちですが、新築需要は依然として一定量あり、特にファミリー層向けの戸建分譲は底堅い需要があります。同社は、PBR1倍未満で安定配当を続ける優良中小型株です。

6-8. 共通項の抽出

これらケーススタディから、内藤銘柄に共通する特徴を抽出してみましょう。

  1. 時価総額20~300億円のスイートスポット
  2. PBR1倍未満が多い
  3. PER1桁が多い
  4. 配当利回り3%以上が標準
  5. 自己資本比率が高め(30%以上)
  6. 業種は地味(建設、小売、地方サービス、隠れたニッチ事業)
  7. 継続事業の安定性(急成長ではないが、急減衰もしない)
  8. 株主還元改善の余地(含み益、現金、不動産)

これは「ベンジャミン・グレアム的バリュー投資の徹底版」と表現してよい銘柄選定基準です。


7. 第6章 兜町の名投資家たちとの比較 ― 五味大輔、清原達郎、片山晃

内藤征吾の特徴をより鮮明にするため、同時代の他の著名な日本人個人投資家と比較してみましょう。

7-1. 五味大輔氏との比較

五味大輔氏は、信州大学教育学部出身、長野県在住の兼業投資家です。中学時代に株を始め、製薬関連企業に勤務しながら投資を続け、2010年代に「ミクシィ」や「そーせいグループ」の筆頭株主となって一躍有名になりました。2021年時点で資産は250億円超とも言われています。

五味氏のスタイル:

  • 集中投資(数銘柄に大量資金)
  • 新興市場のグロース銘柄
  • 「プロとは戦うな」の哲学
  • メディアにも比較的露出(兼業投資家として書籍やインタビューがある)

内藤氏との対比:

  • 五味氏: 集中投資 / 内藤氏: 超分散投資
  • 五味氏: グロース銘柄中心 / 内藤氏: バリュー銘柄中心
  • 五味氏: 一定のメディア露出 / 内藤氏: 完全沈黙
  • 五味氏: 兼業 / 内藤氏: 専業と推測される

「プロとは戦うな」という基本思想は共有していると見られますが、その実装方法は対照的です。五味氏は「少数の集中」、内藤氏は「多数への分散」。どちらも、機関投資家が手を出しにくい中小型株を戦場にしている点で共通していますが、勝負の組み立て方が全く異なります。

7-2. 清原達郎氏との比較

清原達郎氏は、東京大学経済学部卒業、ノムラ・インベストメント・マネジメント、モルガン・スタンレー・キャピタル・ジャパンなどを経て、タワー投資顧問でファンドマネージャーとなった伝説的な日本株運用者です。「わが投資術」(講談社、2024年)という著書もあり、近年は積極的に発信しています。

清原氏の特徴は、TOPIXを大幅にアウトパフォームする中小型株投資。タワー投資顧問は数千億円規模のファンドを運用していました。

清原氏との対比:

  • 清原氏: プロのファンドマネージャー出身 / 内藤氏: 純粋な個人投資家
  • 清原氏: 著書あり、メディア出演あり / 内藤氏: 完全沈黙
  • 清原氏: ロング・ショートも使う / 内藤氏: ロングオンリーと推察
  • 清原氏: マクロ視点も重視 / 内藤氏: 純粋なボトムアップ(推察)

清原氏は「ネット流動資産より時価総額が低い」会社を買うグレアム流のディープバリュー戦略でも知られています。この点は、内藤氏と思想的に近いものがあります。「いないかな?って探してたらちょくちょく内藤征吾さんという方が大株主として出てくる。内藤さん凄くない?!清原達郎さんより大株主率高いよ」という個人投資家のSNS投稿が、二人の類似性を示唆しています。

7-3. 片山晃(五月)氏との比較

片山晃氏は、「片山晃(五月)」名義で活動する個人投資家で、レオス・キャピタルワークスの「ひふみ投信」運用助言ファンドの運用者としても知られていました。コードネーム「五月」が示すように、SNSや書籍で積極的に発信しています。

片山氏との対比:

  • 片山氏: 中型グロース中心 / 内藤氏: 小型バリュー中心
  • 片山氏: 積極的な情報発信 / 内藤氏: 完全沈黙
  • 片山氏: テーマ性重視 / 内藤氏: ボトムアップの個別企業分析

片山氏は「未来予測」「成長ストーリー」を重視するスタイルで、内藤氏のような「過去の数字(資産・配当)から見る」スタイルとは対照的です。

7-4. 4人の比較表

項目 内藤征吾 五味大輔 清原達郎 片山晃
スタイル 超分散バリュー 集中投資(グロース) 中型バリュー(プロ) 中型グロース
銘柄数 100以上 10~20程度 プロ運用(多数) 10~30程度
情報発信 完全沈黙 やや積極 積極(著書あり) 非常に積極
主戦場 中小型バリュー 新興グロース 中小型全般 中小型グロース
時間軸 長期(5年以上) 中長期 中長期 中期
公開された資産規模 数十億円以上(推定) 250億円超 数百億円規模(運用) 数十億円

この比較から見えてくるのは、内藤氏のスタイルが極めて「枯れた」古典的バリュー投資であり、ハイテクや派手なトレンドとは無縁の世界だということです。

7-5. ウォーレン・バフェットとの類似性

世界的に最も有名なバリュー投資家、ウォーレン・バフェットとの類似性も指摘できます。

バフェットの哲学(簡略):

  1. 自分の理解できる事業のみに投資する
  2. 競争優位性のある企業を選ぶ
  3. 経営者を信頼できる企業を選ぶ
  4. 適正価格で買う
  5. 長期保有する(保有期間は永遠)

内藤氏の手法も、これらの原則と多くの点で一致しています。ただし、バフェットは集中投資派で、「卵を一つのバスケットに入れて、そのバスケットをしっかり見守る」と言っています。一方、内藤氏は分散投資派。この点が、両者の最大の違いです。

これは、内藤氏が「個別企業の深い分析よりも、財務指標による機械的なスクリーニング」を重視している可能性を示唆します。100銘柄以上を一人で深く理解するのは現実的に難しい。だから、「定量的な選別基準」を満たす銘柄を、機械的に組み入れていく。これは、ジョエル・グリーンブラットの「Magic Formula Investing」にも近い発想です。

7-6. ピーター・リンチとの相違

ピーター・リンチは「日常生活から銘柄を探す」「テンバガーを狙う」スタイルで有名ですが、内藤氏はこれとは異なります。日常生活で出会う企業ではなく、四季報や開示資料でしか知り得ない地味な企業を選んでいる。テンバガーを狙う発想ではなく、確実に2倍、3倍を狙いつつ、配当でも稼ぐ発想。

リンチの「Invest in what you know」を、内藤氏は「Invest in what is overlooked」に置き換えていると言えるでしょう。


8. 第7章 「沈黙」が持つ意味 ― 情報発信しない哲学

8-1. 沈黙の戦略的価値

なぜ内藤氏は、これほどの実績がありながら、一切情報発信をしないのか。理由は複数考えられます。

理由1: フォロワー効果による不利益

仮に内藤氏がSNSや書籍で「この銘柄を買った」と発信すれば、フォロワーが追随買いをします。すると、買いたい銘柄の株価が上がり、自分が買い増しにくくなります。逆に売りたい時に「売った」と発信すれば、フォロワーが追随売りをして、株価が下がり、自分が売り抜けにくくなる。沈黙は、自由な売買を保つための戦略です。

理由2: 時間の節約

情報発信には時間がかかります。本を書くなら数百時間、SNS更新には毎日数十分、講演会には準備と移動でフル日。これらすべてを投資分析にあてれば、より良い銘柄を発見できる。沈黙は、時間効率の最大化です。

理由3: ストーカー・詐欺被害の回避

資産家がメディア露出すると、ストーカー、詐欺、いかがわしい投資勧誘などの被害に遭うリスクが上がります。「誰だかわからない」状態を維持することは、安全性の確保に直結します。

理由4: 哲学的な美意識

これは推察ですが、「投資で稼ぐ人は、稼ぐことだけに集中すべき」という美意識を持っている可能性もあります。「自分は投資をしているのであって、投資について語っているのではない」というスタンス。

8-2. 「発信する投資家」と「発信しない投資家」のリターン差

興味深い研究があります。アメリカでは、ヘッジファンドマネージャーがメディア露出を始めた前後で、ファンドのパフォーマンスが平均的に低下する傾向が報告されています。これは、メディア露出によって時間を奪われ、分析に集中できなくなるためと考えられています。

日本でも、書籍を出して有名になった個人投資家が、その後パフォーマンスを落とすケースは少なくありません。「有名税」というやつです。

内藤氏は、この罠を完全に回避しています。沈黙は、彼の投資パフォーマンスを守るための、最強の防衛戦略なのかもしれません。

8-3. 「内藤銘柄」を意図せず公開している矛盾

ただし、内藤氏が完全に「秘密」を維持できているわけではありません。なぜなら、上場企業の有価証券報告書には、大株主が誰であるかが法律で公開を義務付けられているからです。これは個人投資家の意思では避けられないものです。

その結果、内藤氏の保有銘柄は、誰でもアクセスできる情報になっています。むしろ、IRBANK、バフェット・コード、株探、バリュートレンドなどのデータベースが、彼の名前を検索可能な形で提供しているため、保有銘柄の追跡は、ある意味で「強制的に透明化」されています。

これは、内藤氏自身の意図とは別に、市場が「内藤銘柄」というシグナルを共有できる状態を作り出しているわけです。皮肉と言えば皮肉ですが、これも市場の透明性確保のためのルールであり、致し方ない部分です。

8-4. 「発信しないことで生まれるブランド」

逆説的ですが、内藤氏が一切発信しないことが、結果として「内藤銘柄ブランド」を強化しています。

もし彼が毎日Twitterで投稿していたら、「あぁ、また内藤さんがあれこれ言ってる」程度の存在になっていたかもしれません。沈黙しているから、有価証券報告書に名前が登場するたびに「おっ、内藤さんが入ってる」というインパクトが生まれる。

これは、コミュニケーション論的に言えば、「信号の希少性」が信号価値を高めている状態です。経済学では「シグナリング理論」と呼ばれるものに近い。


9. 第8章 個人投資家が内藤征吾から学ぶ10の教訓

これまでの分析を踏まえて、私たち一般の個人投資家が、内藤征吾氏から学ぶべき10の教訓をまとめます。

教訓1: 「プロとは戦うな」を徹底する

機関投資家がカバーする大型株では、情報のアービトラージはほぼ不可能です。中小型株、特に時価総額50~300億円のスイートスポットに目を向けることが、個人投資家の最大の優位性を発揮する道です。

教訓2: 「割安」の定義を持つ

「割安」「割高」を感覚で判断するのではなく、PBR1倍未満、PER10倍未満、配当利回り3%以上といった明確な定義を持つこと。内藤氏の保有銘柄は、これらの定量基準を満たすものが多い。

教訓3: 配当を「資金循環エンジン」と考える

配当は単なる小遣いではなく、新規購入の原資です。配当利回り3%以上の銘柄を組み合わせれば、年間で資産の3%以上が現金で入ってきて、それを再投資できる。複利の効果は、20年、30年というスパンで絶大です。

教訓4: 100銘柄分散も「あり」と知る

「分散しすぎると平均化してしまう」というのは一般論ですが、バリュー投資においては「分散による外れ値捕捉」と「バリュートラップ対策」の効果が大きい。完璧な銘柄選別が難しい中小型バリュー領域では、過剰分散も合理性を持ちます。

教訓5: 「売らない」という選択肢の力を知る

頻繁な売買は、税効率を下げ、心理的負担を増やし、長期リターンを毀損します。「買ったら、よほどのことがない限り売らない」というシンプルなルールが、結果的に最強の戦略になります。

教訓6: 「地味な業種」に宝が眠ると知る

建設、土木、地方サービス、小売、卸売。これらは派手さに欠け、メディアでも取り上げられにくい業種です。だからこそ、割安に放置されている銘柄が眠っています。「地味=悪い」ではなく、「地味=見落とされている」と捉え直すこと。

教訓7: 「5%ルール」を意識する

個人投資家でも、いずれ大量保有報告書の提出対象となる規模に達することがあります。その時に備えて、5%という閾値の意味を理解しておくことは重要です。また、内藤氏のように「あえて5%手前で止める」戦略も、機動性確保の観点で学ぶ価値があります。

教訓8: 「市場に語らない」勇気

SNSで自分のポートフォリオを公開したり、知人に銘柄を勧めたりすることは、自分の投資判断に「外部からのプレッシャー」を加えることになります。それは時に、合理的な判断を歪めます。内藤氏のように「市場に対して沈黙」を保つことは、メンタル管理の点でも大きな意味を持ちます。

教訓9: 「テーマ株より企業」を見る

「半導体関連だから」「AI関連だから」「インバウンド関連だから」といったテーマ投資は、流行が終わると同時に株価が下落します。内藤氏が見ているのは、テーマではなく企業の実態です。財務、配当、資産、経営陣。これらを見れば、流行に左右されない投資判断ができます。

教訓10: 「時間」こそ最大の武器と知る

内藤氏が10年以上同じ銘柄を持ち続けるのは、時間が企業の本質的価値を株価に反映させてくれることを知っているからです。短期で結果を求めず、3年、5年、10年というスパンで企業を見守る。これが、個人投資家にとって最強の競争優位性です。


10. 第9章 「内藤銘柄」を真似する際の致命的な落とし穴

「内藤銘柄」を参考にすることには価値があります。しかし、単純な真似は危険です。ここでは、模倣する際に陥りやすい落とし穴を整理します。

落とし穴1: 情報のタイムラグ

既述の通り、有価証券報告書は決算期末から3ヶ月後の提出。私たちが「内藤さんが買った」と知る頃には、既に3ヶ月から半年経っています。その間に内藤氏が買い増しているのか、売却を始めているのかは、わかりません。

特に大量保有報告書(5%超保有時の開示)の対象外である内藤氏の保有銘柄(保有率2~4%帯)は、変化のタイミングがわかりません。「内藤さんが買った」というシグナルだけで、自分も買って大丈夫、とは言えないのです。

落とし穴2: ポジションサイズの違い

内藤氏は数十億円の資金を100以上の銘柄に分散しています。1銘柄あたりの平均ポジションサイズは、おそらく数千万円から1億円程度。これは、個人投資家の資金規模とは大きく異なります。

仮に資金100万円の個人投資家が、内藤氏の保有100銘柄をそのままミラーしようとすれば、1銘柄あたり1万円。これは、最低取引単位(100株)すら買えない銘柄が大半でしょう。完全な模倣は、資金規模が違いすぎて不可能です。

落とし穴3: 個別銘柄の理由が不明

内藤氏がなぜ銘柄Aを買ったか、本人が説明しないため、わかりません。業績期待なのか、配当狙いなのか、含み資産狙いなのか、経営者の人物評価なのか。買った理由がわからない以上、「いつ売るか」の判断基準も持てません。

これは、模倣投資の最大の問題です。「他人と同じ銘柄を持つことはできるが、他人と同じ判断基準を持つことはできない」のです。

落とし穴4: 「内藤銘柄」が変化する

内藤氏は徐々に新しい銘柄を組み入れたり、古い銘柄を売却したりしています。例えば、2024年に保有していた4287 ジャストプランニング、3020 アプライド、9476 中央経済社HD、1807 佐藤渡辺、9845 パーカーコーポレーションといった銘柄は、2025年の最新報告書では一部見られなくなっています。

逆に、2025年に新登場した銘柄もあります。2778 パレモHD、9478 SE H&I、1739 メルディアDCなど。

つまり、「内藤銘柄」はスナップショットであり、固定されたリストではありません。常に変化しています。これを追跡するには、定期的な情報更新が必要です。

落とし穴5: マクロ環境の変化

内藤氏が長期保有してきた建設関連銘柄は、過去10年は低金利環境で底堅く推移してきました。しかし2024年以降の日銀金利引き上げ局面では、住宅ローン需要の変化により、住宅関連銘柄のファンダメンタルズに変化が起こる可能性があります。

過去のパフォーマンスは、未来を保証しません。「内藤銘柄」を真似ても、マクロ環境の変化に対応できなければ、リターンを取り損ねる可能性があります。

落とし穴6: 配当維持の不確実性

高配当銘柄を選ぶ際の最大のリスクは「減配リスク」です。配当利回り6%だった銘柄が、業績悪化で配当を半額にすれば、配当利回りは3%に。その時点で株価も下がり、ダブルパンチでやられます。

内藤氏が分散投資しているのは、こうした減配リスクへの保険でもあります。1~2銘柄を真似しただけでは、減配リスクをカバーできません。

落とし穴7: 自分の理解を超えた銘柄を買う

「内藤さんが買っているから」という理由だけで、自分が事業内容も理解していない銘柄を買うのは、極めて危険です。バフェットの言う「Circle of Competence(能力の輪)」を超えた投資は、必ずいつか痛い目に遭います。

内藤氏が建設業の銘柄を多数持っているからといって、自分も建設業を理解していないのに10銘柄買う、というのは賢明ではありません。最低限、買う銘柄の事業内容、収益構造、競争環境は理解しておくべきです。

落とし穴8: 「内藤銘柄」だけでポートフォリオを組まない

たとえ全ての落とし穴を回避できたとしても、ポートフォリオ全体を「内藤銘柄」だけで組むのは、過度な戦略集中になります。これは、内藤氏自身の戦略リスク(バリュー投資が機能しない局面での集合的なドローダウン)を、そのまま自分も被ることを意味します。

少なくとも、グロース株、海外株、債券、不動産といった他のアセットクラスとの分散は、考慮すべきです。

落とし穴9: 心理的耐性の差

内藤氏は何年も含み損を抱え続けても、保有を続けられるメンタル耐性があります(バリュー株は、市場が評価するまで長期間動かないことが多い)。

しかし、個人投資家の多くは、3年、5年と含み損が続くと、心理的に耐えられず、底値で投げ売りしてしまいます。「内藤銘柄」を真似するには、内藤氏と同じ「待ち続けるメンタル」も必要です。これは、技術ではなく、訓練と性格の問題です。

落とし穴10: 「内藤式」の前提が崩れる可能性

最後に、根本的な問いを投げかけておきます。「バリュー投資の有効性そのものが、今後も続くのか?

過去30年、世界的にはグロース株のパフォーマンスがバリュー株を大きく上回ってきました。バリュー投資の終焉が議論される時代です。日本においても、PBR1倍割れ改革は道半ばで、すべての銘柄で改革が成功するわけではありません。

内藤式が機能してきたのは、過去の事実です。未来も機能するかは、誰にもわかりません。この前提の不確実性を理解した上で、参考にするべきでしょう。


11. 第10章 内藤式の現代的意義 ― 高市政権・PBR1倍割れ改革下での再評価

11-1. 東証PBR1倍割れ改革の意義

2023年3月、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を上場企業に要請しました。これは、PBR1倍割れ企業に対して、株主還元強化や事業再構築を促す事実上の改革要請です。

この改革により、これまで「割安に放置されていた」中小型バリュー株が、株主還元強化(増配、自社株買い、配当方針見直し)の動きを見せ始めました。内藤氏が長年仕込んできたディーエムエスのDOE導入、急増配は、まさにこの文脈で起こった出来事です。

つまり、内藤式投資は、東証改革の「最大の受益者」となるべきポジションを取っていたわけです。これは結果論ですが、彼の戦略がマクロ環境とフィットした稀有な事例です。

11-2. 高市政権下での投資環境

2025年に発足した高市早苗政権は、防衛、半導体、AI、再生可能エネルギーといった「17分野の成長戦略」を打ち出しています。同時に、新NISA制度の拡充、金融所得課税の見直しといった、個人投資家向けの政策も継続しています。

このマクロ環境は、内藤式にとってどんな意味を持つか。

第1に、新NISA拡充による個人投資家の流入は、中小型株市場全体の活性化を促します。これまで機関投資家のみが取引していた市場に、新たな買い手が増えれば、内藤氏が保有する銘柄の流動性と評価が改善する可能性があります。

第2に、成長戦略17分野は、中小型株にも波及します。例えば、建設・インフラ投資の拡大は、内藤氏の保有する建設関連銘柄に直接的にプラスです。

第3に、金融政策の正常化(金利上昇局面)は、配当株への需要を高めます。預金金利が上がっても1%未満なら、配当利回り4%以上の中小型バリュー株は依然として魅力的。

総じて、現在のマクロ環境は、内藤式投資にとって「追い風」と評価できます。

11-3. 「失われた30年」の終わりと内藤式

日本株式市場は、1990年のバブル崩壊から30年以上、長期的な低迷期を経験してきました。2024年に日経平均は史上最高値を更新し、長い暗黒時代が終わったのではないかと言われています。

「失われた30年」の間、日本株でリターンを上げ続けるのは極めて難しかった。多くの個人投資家が損失を抱えて市場を去りました。しかし、その中でコツコツとバリュー株を買い集め続けた内藤氏のような投資家は、最終的に大きなリターンを上げる結果となりました。

これは、忍耐の勝利です。市場が割安に評価し続けてきた銘柄群が、最終的には正当な評価を受ける時が来た。内藤氏は、その「時」を信じて待ち続けた。

11-4. これから市場に入る個人投資家へのメッセージ

新NISAをきっかけに投資を始める個人投資家が増えています。多くは、人気のインデックス投信(S&P500、オールカントリー)から入ります。これは正しい第一歩です。

しかし、もしより深く株式投資を学びたいなら、内藤式のような「地味で堅実な日本中小型バリュー投資」を知っておくことは、大きな価値があります。

なぜなら、インデックス投信は「市場平均」を取りに行く戦略ですが、内藤式は「市場が見落としている個別企業の本質的価値」を取りに行く戦略だからです。両者は補完関係にあります。コア(資産の中核)はインデックスでサテライト(衛星部分)で内藤式に挑戦する、というアプローチも理にかなっています。


12. 終章 「見えないが、確かにそこにいる」投資家像

12-1. 内藤征吾という現象

ここまで長文にわたって、内藤征吾という個人投資家を、保有銘柄のデータを中心に分析してきました。本人が一切発信していないため、すべては「数字から読み解いた推察」です。それでも、これだけのことが見えてくる。逆に言えば、彼の投資哲学は、彼の保有銘柄リストの中に、すでに完璧に表現されている、ということです。

言葉は要らない。数字がすべてを語る。これが内藤征吾という現象の本質です。

12-2. 内藤式の核心 ― 6つのキーワード

最後に、内藤式投資哲学の核心を、6つのキーワードに集約してみます。

  1. 小型 ― 機関投資家不在の市場で勝負する
  2. 割安 ― 数字で見て安いと言えるものだけを買う
  3. 配当 ― 現金フローを再投資の原資にする
  4. 分散 ― 100銘柄以上で外れ値とトラップに備える
  5. 長期 ― 時間こそ最大の武器と理解する
  6. 沈黙 ― 余計な発信が判断を歪めることを知る

この6つを、それぞれ徹底的に実行すれば、内藤式に近い投資ができます。逆に、どれか一つでも欠ければ、内藤式の真髄からは外れます。

12-3. 「真似できる部分」と「真似できない部分」

教訓を述べる時、私たちはしばしば「真似すれば成功できる」という錯覚に陥ります。しかし、世の中の成功者の多くは、「真似できる技術」と「真似できない資質・環境」の両方を持っています。

内藤氏の場合、「真似できる部分」は次のとおりです。

  • 銘柄選定の定量基準(PBR、PER、配当、財務)
  • 業種選好(中小型バリュー、地味な業種)
  • 分散の考え方
  • 売らないという行動原則

真似できない部分」は、次のとおりです。

  • 数十億円規模の資金力(これは時間をかけて自分で築くしかない)
  • 30年以上にわたる継続的な投資経験
  • 含み損を5年、10年抱え続ける心理的耐性
  • メディア露出を完全に絶つ社会的選択

技術と原則は真似できます。資金、時間、心理、社会性は、自分で積み上げていくしかありません。

12-4. 「内藤銘柄」リストとともに歩む

最後に、現代の個人投資家にとって「内藤銘柄」というシグナルがある幸運について触れておきます。

少し前なら、こうした個人大株主の保有情報は、有価証券報告書を一冊ずつ手繰る形でしか得られませんでした。今は、IRBANK、バフェット・コード、株探といったデータベースで、無料あるいは比較的安価に、リアルタイムに近い情報がアクセスできる。これは、個人投資家にとって、革命的な情報インフラです。

内藤氏は何も語らないけれど、彼のポートフォリオは私たちの前に開かれている。私たちは、その中から自分の能力の輪の範囲内で銘柄をピックアップし、内藤氏が見ているのと同じ財務指標を確認し、自分なりの判断で買うか買わないかを決められる。

これは、個人投資家史上、最も恵まれた時代と言えるかもしれません。情報の民主化が、ここまで進んでいるからこそ、内藤氏のような寡黙な大投資家のシグナルを、私たちは「学びの素材」として活用できる。

彼が表に出てきて教えてくれないのは寂しいことかもしれませんが、しかし彼の沈黙の中にこそ、私たちが学ぶべきもっとも純粋な投資哲学が表現されていると、私は思います。

派手なことを言わなくていい。地味に、堅実に、長く、続ければよい

これが、彼が私たちに語っている、唯一にして最大のメッセージです。


補論A 内藤式の数理的検証 ― バリュー・プレミアムは本当に存在するのか

A-1. ファマ・フレンチの3ファクターモデル

学術的な観点から内藤式の妥当性を検証してみましょう。1992年、シカゴ大学のユージン・ファマ教授とダートマス大学のケネス・フレンチ教授は、米国株式市場を長期にわたって分析し、株式リターンを説明する3つのファクターを発見しました。これがいわゆる「ファマ・フレンチの3ファクターモデル」です。

3つのファクターとは、

  1. 市場リスクプレミアム(Rm-Rf): 株式市場全体と無リスク資産の差
  2. サイズプレミアム(SMB: Small Minus Big): 小型株が大型株を上回るリターン
  3. バリュープレミアム(HML: High Minus Low): 高BPS/Price(=低PBR)が低BPS/Priceを上回るリターン

このモデルは、長期的には小型株とバリュー株のリターンが、大型株とグロース株のリターンを上回ることを統計的に示しました。これは「スモール・バリュー効果」と呼ばれ、世界中の株式市場で観察されてきた現象です。

内藤氏の投資スタイルは、まさにこのサイズプレミアムとバリュープレミアムの両方を狙うものです。3ファクターモデル的に言えば、彼のポートフォリオはSMBとHML両方への高ベータを持つ、いわば「教科書通りの」スモール・バリュー投資家のポジションです。

A-2. 日本市場におけるバリュープレミアムの実証

日本市場でも、バリュー株のパフォーマンスを検証した研究は多数あります。野村証券、大和総研、各証券会社のクオンツチームによる長期データ分析では、概ね次のような傾向が確認されています。

  • 1990年代~2000年代: バリュー株がグロース株をアウトパフォーム
  • 2010年代前半: バリューとグロースのリターン差が縮小
  • 2010年代後半: グロース株がバリュー株をアウトパフォーム(特に米国のテック株主導)
  • 2022年以降: バリュー株の復活(金利上昇、PBR改革)

つまり、バリュープレミアムは「常に」存在するわけではなく、相場局面によって変動します。それでも、超長期で見れば、バリュー株が市場平均を上回る傾向は、ほぼ全ての地域で観察されてきました。

内藤氏は、この「超長期のバリュープレミアム」を信じて、20年、30年というスパンで仕掛けている投資家であると見ることができます。グロース相場でも撤退せず、バリュー逆風時にも淡々と買い続けるメンタリティは、学術的にも合理性のある戦略なのです。

A-3. 「Magic Formula」との類似性

ジョエル・グリーンブラットが提唱した「Magic Formula Investing」というアプローチがあります。これは、企業を以下の2つの指標でランク付けし、両者の合算ランクが高い銘柄を分散投資するという、極めてシンプルな手法です。

  1. 資本利益率(ROC: Return on Capital) が高いこと
  2. 益回り(Earnings Yield = 1/PER) が高いこと

要するに「高収益力 × 割安」の組み合わせ。内藤式と非常に近い発想です。

グリーンブラットは、このMagic Formulaを20年以上バックテストし、年率20%以上のリターンを示したと主張しました。学術界からは「再現性に疑問」との指摘もありますが、少なくとも「シンプルな定量基準による分散投資が、長期的には機能する」という思想は、内藤式と共通します。

内藤氏は、Magic Formulaそのままを使っているわけではないでしょうが、思想的には類似のアプローチを採っていると見られます。複雑な企業分析よりも、シンプルな財務指標と分散の力を信じる。これは、個人投資家にとっても実行可能な、再現性のある手法です。

A-4. ベンジャミン・グレアム「Net-Net銘柄」との関係

バリュー投資の父、ベンジャミン・グレアムは「ネット・ネット銘柄」という概念を提唱しました。これは、純流動資産(流動資産から総負債を引いた額)の3分の2以下で取引されている銘柄を買う、という極端な割安投資です。

清原達郎氏が「ネット流動資産より時価総額が低い」会社を買うと公言しているのは、まさにこのグレアム流ネット・ネット投資の流れを汲んでいます。

内藤氏の保有銘柄を見ると、純粋なネット・ネット銘柄は少ないものの、それに近い財務体質の銘柄(自己資本比率50%超、現金保有が時価総額の30%以上など)は多数含まれます。グレアム流の「安全余裕度(Margin of Safety)」を重視する姿勢は、明確に見て取れます。


補論B 中小型バリュー株市場の特殊性 ― 内藤氏が活躍できる土壌

B-1. 機関投資家の構造的制約

なぜ中小型バリュー株市場は、内藤氏のような個人投資家にとって有利な戦場なのか。その答えは、機関投資家の構造的制約にあります。

第1に、運用規模の制約。日本の主要な投資信託の運用残高は、数千億円から数兆円規模です。仮に1000億円のファンドが、時価総額50億円の銘柄に投資しようとしても、5%取得しても投資額は2.5億円。これはポートフォリオの0.25%にしか過ぎず、運用効率が悪い。一方、銘柄が値上がりして売却する際にも、日次出来高が数千万円しかない銘柄では、売り抜けに時間がかかりすぎる。だから、機関投資家は時価総額300億円以下の銘柄を実質的に避ける。

第2に、ベンチマーク制約。多くの公募投資信託はTOPIXや日経平均をベンチマークとして掲げており、これらの指数に含まれない超小型株への投資には、運用報告書での説明責任が伴います。「なぜTOPIXに含まれない銘柄を買ったのか」を毎月説明しなければならない運用者は、銘柄選定の自由度が制約される。

第3に、カバレッジの問題。証券会社のアナリストは、時価総額500億円以下の銘柄をほとんどカバーしていません。レポートが出ない銘柄は、機関投資家の検討対象に上らない。これは、銘柄が「情報非効率」に放置される根本的な理由です。

第4に、コンプライアンスとリスク管理。機関投資家は、流動性リスク管理、コンセントレーションリスク管理、信用リスク管理などのコンプライアンス要件があり、超小型株への大量保有は実質的に困難。

これらの制約により、時価総額100億円以下の銘柄市場は、機関投資家がほとんど関与しない「個人投資家の独壇場」となっています。内藤氏は、この市場で長年活動してきた歴戦の戦士です。

B-2. 流動性プレミアムの享受

中小型株市場には、「流動性プレミアム」という現象があります。これは、流動性の低い銘柄は、その流動性リスクを補うため、相対的に高いリターンを生む傾向があるという市場特性です。

つまり、内藤氏のような長期保有者は、「流動性が低くても困らない」立場にあるため、流動性プレミアムを享受できる立場にあります。長期保有を前提とすれば、いつ売るか急ぐ必要がないため、出来高の薄い銘柄も保有できる。これは、機関投資家には真似のできない、長期投資家ならではの優位性です。

B-3. 「クジ引き効果」の捕捉

中小型バリュー株市場では、まれに**強烈な上昇相場(クジ当たり)**が発生します。これは、

  • M&A・TOBによるプレミアム
  • 業績の急回復・ターンアラウンド
  • 経営陣の交代による株主還元改革
  • 不動産売却・含み益の実現化
  • 新規事業の成功

といった様々な理由で起こります。これらは、事前に予測することは難しい「外れ値イベント」です。

100銘柄を分散保有していれば、こうしたクジ当たりに当たる確率は単純計算で高まります。仮に1銘柄あたり年間で10%の確率でクジ当たりが発生し、その時に株価が3倍になるとすれば、100銘柄保有していれば、毎年10銘柄程度が3倍になる計算です。これは、平均リターンを大きく押し上げる効果があります。

内藤式の「過剰な分散」と見える戦略は、実はこのクジ当たり捕捉のための合理的な戦略であると私は分析しています。

B-4. 「コーポレートガバナンス改革」という巨大な追い風

2014年のスチュワードシップ・コード導入、2015年のコーポレートガバナンス・コード導入、2018年の改訂、2021年の再改訂、そして2023年の東証PBR改革要請。日本企業のガバナンス改革は、この10年で劇的に進展しました。

これにより、日本企業の株主還元率は劇的に改善しました。

  • 配当性向: 2010年代前半は20%程度 → 2020年代は30~40%
  • 自社株買い実施企業数: 急増
  • 純粋持株会社化、政策保有株の売却: 加速
  • 取締役会の社外取締役比率: 上昇

これらの改革の主たる受益者は、まさに内藤氏が保有してきた「割安に放置されていた中小型バリュー株」です。改革前なら「いつまで経っても株主還元しない」「現金を抱え込むだけ」とされていた企業が、改革を受けて配当を増やし、自社株買いを実施し、株価が見直される動きが続出しています。

この改革の流れが、内藤式の追い風となり、彼のポートフォリオの含み益を増やし続けている、というのが現在の状況と私は読んでいます。


補論C 銘柄入れ替えから読む「内藤氏の進化」

C-1. 2014年~2017年の特徴

内藤氏の保有銘柄を時系列で並べると、年代ごとの傾向が見えてきます。

2014年~2017年頃は、保有社数が10社前後と少なく、選別が厳しかった時代と言えます。この時期の特徴は、

  • 建設・土木関連が中心
  • 老舗の中小型バリュー株
  • 配当利回りより、含み資産(土地、現金)重視

つまり、典型的なディープバリュー投資のスタンスです。アベノミクスが始まった頃ですが、市場全体は依然として「失われた20年」の影響下にあり、中小型株は割安に放置されていました。

C-2. 2018年~2021年の拡大期

2018年から2021年にかけて、保有社数は13社から39社へと急増しました。この時期、

  • 業種の幅が広がり、サービス業、IT、メディア、ゲームなどが追加
  • 配当利回り重視の傾向が強化
  • ROE 8%以上の銘柄が増加

つまり、純粋なディープバリューから、「配当インカム+資産バリュー」のハイブリッドへとシフトしている形跡が見えます。これは、コーポレートガバナンス改革が進展し、株主還元意識の高い企業が増えてきたことを背景としていると推察されます。

C-3. 2022年~2024年の最盛期

2022年以降、保有社数は38社から56社へと拡大を続けます。この時期の特徴は、

  • 配当性向の高い銘柄を選別
  • PBR1倍割れ改革への期待を織り込んだ銘柄
  • 業績改善期待のある銘柄

つまり、東証改革の波を読み、その受益者となる銘柄を選び抜いている形跡が見られます。具体的に、2022年から2024年にかけて新規にポートフォリオに組み入れたと推察される銘柄には、ファースト住建、メルディアDC、太洋基礎工業などがあり、これらはいずれもPBR1倍割れの建設・住宅関連で、配当利回り4%以上の銘柄です。

C-4. 2025年の現在地

2025年の有価証券報告書では、78社の大株主に登場しています。これは過去最高の社数です。新たに登場した銘柄も多く、ポートフォリオの拡大は止まっていません。

注目すべきは、新銘柄を追加する一方で、長期保有銘柄もしっかり維持している点です。例えば、ディーエムエス、花月園観光、藤田エンジニアリング、メディカルネット、美樹工業など、5年以上保有している銘柄は、保有比率がほとんど変わっていない。新規購入分は、新規資金(配当再投資)から賄っていると見られます。

これは、「売らずに買い続ける」という、究極の長期投資スタイルです。1度買った銘柄は、市場で見直されるまで何年でも待つ。同時に、新しい割安銘柄も常に物色し続ける。資金が増えていけば、自然と保有社数も増えていく。

C-5. 「進化しているが、変節していない」

内藤氏の銘柄選定スタイルは、過去10年で進化してきたと言えます。しかし、その根本思想は一貫している

  • 中小型株への徹底集中: 変わらず
  • 低PBR・高配当の重視: 変わらず
  • 長期保有: 変わらず
  • 分散による安全性: 変わらず

変わったのは、銘柄の幅が広がり、業種の多様性が増し、ROE重視の傾向が強まったこと。これは、市場環境の変化(コーポレートガバナンス改革等)に応じた戦術の調整であり、戦略の変節ではありません。

進化はしているが、変節はしていない」。これが、内藤氏のスタイルの強さです。多くの投資家は、相場局面の変化に振り回されて、スタイルを変えてしまい、結果として方向性を失います。内藤氏は、自分のスタイルの根本を守りながら、細部だけを時代に合わせている。これは、長期投資家として最も難しいバランスですが、彼はそれを実現しているように見えます。


補論D 「内藤式」を試したい個人投資家のための実践ガイド

D-1. ステップ1: スクリーニング基準の設定

内藤式を参考に投資を始めるなら、まず明確なスクリーニング基準を設けることが第一歩です。例えば、

  • 時価総額: 50億円以上、500億円以下
  • PBR: 1倍以下
  • PER: 10倍以下
  • 配当利回り: 3%以上
  • 自己資本比率: 40%以上
  • ROE: 5%以上(できれば8%以上)
  • 減配履歴: 直近5年で減配なし

これらの条件を満たす銘柄をスクリーニングすると、おそらく100~200銘柄程度に絞り込めるはずです。

スクリーニングには、株探プレミアム、みんかぶ、SBI証券のスクリーニングツール、楽天証券のスーパースクリーナー、四季報オンラインのスクリーニング機能などが使えます。

D-2. ステップ2: 個別企業の確認

スクリーニングで残った銘柄について、次の項目を一つずつ確認します。

  • 事業内容: 自分が理解できる事業か
  • 業績推移: 過去5~10年の売上、営業利益、純利益の推移
  • 配当履歴: 連続増配年数、減配の有無
  • キャッシュフロー: 営業CFが安定的にプラスか
  • 主要株主構成: 創業家、機関投資家、外国人持株比率
  • 株主還元方針: 配当性向、DOE、自社株買い実績
  • 資本効率指標: ROE、ROA、ROIC

このプロセスで、財務上は良くても「事業が斜陽すぎる」「競争環境が悪化している」「経営陣に問題がある」といった懸念のある銘柄を除外していきます。

D-3. ステップ3: ポジションサイズの決定

個人投資家の資金規模に応じて、最適なポジションサイズは異なります。一般的な目安として、

  • 資金100万円~500万円: 5~10銘柄が現実的
  • 資金500万円~3000万円: 10~30銘柄
  • 資金3000万円以上: 30銘柄以上

内藤氏のように100銘柄保有するのは、資金規模が小さい個人投資家には現実的ではありません。むしろ、最初は10銘柄程度に絞り、徐々に増やしていく方が、管理しやすく、学びも深まります。

各銘柄の1ポジションは、ポートフォリオの**3~10%**程度が目安です。1銘柄に資産の20%以上を集中させると、その銘柄の業績悪化時のダメージが大きくなります。

D-4. ステップ4: 売却ルールの設定

買う時よりも、売る時の判断の方が難しい。事前にルールを決めておくことが重要です。一般的な売却基準として、

  • 企業の根本的な事業悪化: 競争劣後、市場縮小、技術陳腐化
  • 減配の発表: 配当方針の根本的な変更
  • PBR上昇: 当初の割安水準から、明確に「割高」と判断できる水準まで上昇
  • 代替銘柄の発見: より魅力的な銘柄が見つかり、ポートフォリオ入れ替えが必要
  • ライフイベントによる現金化必要: 結婚、教育、住宅購入、相続等

逆に、これらに該当しないなら、売らないというのが内藤式の精神です。「株価が下がったから売る」「気分的に飽きたから売る」「他人が売っているから売る」は、すべて避けるべき判断です。

D-5. ステップ5: 心理的な準備

最後に、最も重要なポイントは、心理的な準備です。中小型バリュー投資は、

  • 短期的には地味で報われない期間が長い
  • 市場全体が上昇する中で、自分の保有銘柄だけ動かない
  • 2~5年単位で含み損を抱えることもある
  • SNSで他人の儲け話を見て焦る

これらに耐える心の準備が必要です。長期投資の真の敵は、市場ではなく、自分自身の感情です。内藤氏のように、相場局面に振り回されない冷静さを持てるか。それが、内藤式を実践できるかどうかの分水嶺となります。

D-6. ステップ6: 学習の継続

内藤式は、シンプルですが、奥が深い。古典的なバリュー投資の名著を読み込むことで、判断力が磨かれます。推奨書籍として、

  • ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家
  • フィリップ・フィッシャー『株式投資で普通でない利益を得る
  • ピーター・リンチ『ピーター・リンチの株で勝つ
  • 清原達郎『わが投資術
  • バフェットの株主への手紙(バークシャー・ハサウェイ公式サイトで無料公開)

これらを読み、自分なりの投資哲学を磨いていくことが、長期的な成功の基礎となります。


補論E 内藤銘柄の業種別ポートフォリオ分析 ― 「なぜ建設業が多いのか」を深掘りする

E-1. 建設業の構造的特性

内藤氏のポートフォリオで最も比率が高い業種が「建設・土木・住宅関連」です。これは、彼の哲学を理解する上で、極めて重要な手がかりです。

建設業は、しばしば「斜陽産業」と評されます。人口減少、公共投資の縮小、職人不足、利益率の低さ。これらは事実です。しかし、別の角度から見れば、建設業には次のような魅力もあります。

第1に、安定した受注パターン。建設業の売上は、新規建築だけでなく、リフォーム、メンテナンス、改修、解体といった多様な需要に支えられています。日本のインフラ・建築物は2030年以降、大量更新期を迎えます。これは数十年スパンの巨大な需要です。

第2に、保有資産の含み益。建設業の多くは、本社不動産、倉庫、工場、待機機材といった有形固定資産を多く保有しています。これらは、簿価が取得時の価格で計上されているため、地価上昇局面では膨大な含み益を抱えていることがあります。PBRが0.5倍ということは、簿価ベースの純資産でも株価より高いということ。実勢価値に時価評価すれば、株価との乖離はさらに広がる可能性があります。

第3に、典型的な「割安に放置されやすい」セクター。建設業は、メディアでも証券アナリストでも、ほとんど注目されません。話題性がなく、IRも地味。だからこそ、優良企業が割安に放置されている可能性が高い。

E-2. 内藤氏の建設関連銘柄リスト

内藤氏が保有する建設・土木関連の主な銘柄を、特徴とともに整理してみましょう。

銘柄コード 銘柄名 主要事業 特徴
1718 美樹工業 住宅建設・分譲 関西を中心とした地場建設業
1739 メルディアDC 戸建分譲 旧三栄建築設計、近畿圏
1758 太洋基礎工業 杭打ち・地盤改良 高い技術力
1770 藤田エンジニアリング 設備工事 産業設備のメンテナンス
1798 守谷商会 設備工事 地域密着型
1807 佐藤渡辺 道路舗装 公共工事に強い
1960 サンテック 電気工事 関電系
1999 サイタHD 不動産 地方型
5280 ヨシコン 不動産・建設 静岡県中心
5921 川岸工業 鉄骨工事 関東中心
5923 高田機工 橋梁・鉄骨 西日本中心
7808 シー・エス・ランバー 製材・住宅資材 木造建築の上流
8917 ファースト住建 戸建分譲 関西の住宅メーカー

これらの銘柄に共通するのは、

  • 時価総額50~300億円程度
  • PBR1倍以下が大半
  • 配当利回り3%以上
  • 地域密着型または専門技術型のニッチビジネス
  • 創業家または同族系の経営
  • 減配の少ない安定配当

特に重要なのは、これらが「地域に根ざした」企業群であるという点です。全国展開する大手ゼネコンとは別の生態系に属し、独自の競争優位性を持っています。

E-3. 「公共投資+インフラ更新」というマクロテーマ

内藤氏が建設関連に強くベットしている背景には、おそらく次のマクロ判断があると推察されます。

(1) 国土強靱化計画の継続

日本政府は2013年以来、「国土強靱化計画」を継続的に進めており、防災・減災・インフラ更新への投資は、政権交代があっても基本的に縮小されない、超党派の合意事項となっています。2025年に発足した高市政権でも、この方向性は引き継がれています。

(2) インフラ高齢化問題

日本の高度経済成長期に整備されたインフラ(橋梁、トンネル、上下水道、道路など)は、建設後50~60年が経過し、大規模な更新・補修が必要な時期に入っています。これは、地域に根ざした建設会社にとって、長期にわたる需要源となります。

(3) 防衛・国家安全保障関連

高市政権の「17分野の成長戦略」では、防衛関連投資の拡大が打ち出されています。これに伴い、防衛施設の建設・整備、関連設備工事の需要も増えてくる可能性があります。

(4) 半導体・データセンターのインフラ建設

半導体工場、データセンター、関連インフラの建設需要は、テクノロジー進化とともに増加しています。地方の建設会社にも、こうした特需が及ぶケースが増えています。

これらのマクロテーマを総合すると、「建設業は斜陽」という単純な評価は誤りで、実は構造的な追い風がある業種だと言えます。内藤氏は、この本質を見抜いて、長年仕込み続けてきたのでしょう。

E-4. 「キーエンス的高収益企業」は買わない理由

ここで興味深いのは、内藤氏がROE20%超の超高収益企業を買っていないという点です。例えば、キーエンス、ファナック、ファーストリテイリングといった超優良企業は、ポートフォリオに含まれていません。

なぜか。

理由の一つは、PBRが高すぎるから。キーエンスのPBRは5倍以上、ファーストリテイリングのPBRは10倍以上。これは内藤式の「PBR1倍以下」という基準を完全に外れています。

理由の二つは、ROEの持続性への疑問かもしれません。ROE20%超を継続できる企業は、構造的な競争優位性(モート)があるからこそ可能ですが、その評価は既に株価に織り込まれており、追加的なリターンは取りにくい。

理由の三つは、「他人が見ていない」という条件を満たさないから。キーエンスやファナックは、世界中の機関投資家がカバーしており、情報の非効率性はほぼ存在しません。

これは、価値投資における「強気の市場 vs 弱気の市場」という古い論争にも関わります。グレアムは、「割安な株を買え、優良企業を割高な値段で買うな」と主張しました。一方、フィッシャーやバフェットは、「優良企業なら、多少割高でも買うべき」と主張しました。

内藤氏のスタイルは、明らかにグレアム派です。「そこそこ良い企業を、できる限り安く買う」というアプローチ。これは古典的だが、再現性が高い。


補論F 「ファクター投資」と内藤式の関係

F-1. ファクター投資とは何か

近年、世界の投資業界では「ファクター投資」というアプローチが普及しています。これは、株式のリターンを生む「ファクター(要因)」を体系的に捉え、それに沿って投資する手法です。代表的なファクターには、

  1. バリュー(割安性)
  2. クオリティ(収益性、財務健全性)
  3. モメンタム(過去のリターンの継続性)
  4. サイズ(小型株効果)
  5. 低ボラティリティ(変動の小ささ)
  6. 配当(高配当)

があります。これらのファクターは、長期的に市場平均を上回るリターンを生むことが、学術研究で示されています。

F-2. 内藤式のファクター・エクスポージャー

内藤氏のポートフォリオを、これらファクターの観点で見ると、極めて多元的なエクスポージャーを持っています。

  • バリュー: PBR・PERが低い銘柄が中心 → 強い
  • クオリティ: ROE5%以上、自己資本比率40%以上が多い → 中程度
  • モメンタム: モメンタムは重視しない → 弱い
  • サイズ: 小型株が中心 → 極めて強い
  • 低ボラティリティ: 地味な中小型株は意外と低ボラ → 中程度
  • 配当: 配当利回り3%以上が標準 → 強い

つまり、内藤式は「バリュー × サイズ × 配当」という3ファクターを強く取りに行く、典型的なマルチファクター戦略と見ることができます。

モメンタム」を重視しないことは、特筆に値します。モメンタム戦略は、「過去6ヶ月や12ヶ月で値上がりした銘柄を買う」というもので、長期的にも機能することが知られています。しかし、これは「割安性」とは正反対の発想です。内藤氏は、モメンタムを犠牲にしてでも、バリューを優先する哲学を持っています。

F-3. ファクター投資との「決定的な違い」

ただし、機械的なファクター投資と内藤式には、決定的な違いもあります。

ファクター投資は、銘柄選定をシステマティックに行います。スクリーニング条件を機械的に当てはめ、上位n銘柄を均等加重で買う、というアプローチが一般的です。

一方、内藤式は、ファクターを尊重しつつも、最終判断は本人の目利きで行っていると見られます。例えば、PBR低位というだけで何でも買っているわけではありません。事業内容、経営陣、財務体質、株主還元方針などを総合的に判断していると推察されます。

これは、「システマティックなファクター + 人間の判断」というハイブリッド型のアプローチであり、純粋なクオンツ運用とは異なります。個人投資家にとっては、こちらのアプローチの方が再現性も応用性も高いでしょう。


補論G 内藤式とESG投資 ― 一見対立するが、実は親和性

G-1. ESG投資の最近の動向

近年、世界の投資業界では「ESG投資」(環境・社会・ガバナンス)が大きな潮流となっています。E(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)の観点から企業を評価し、これらに優れた企業に投資する、というアプローチです。

ESG投資は、しばしば「割高な大型優良株への投資」と同一視されがちです。トヨタ、ソニー、ファーストリテイリング、SBGなどの大型株は、ESG格付けが高く、ESGファンドの組み入れ対象となります。一方、中小型バリュー株は、ESG評価が低い、もしくは評価対象外となるケースが多い。

これだけ見ると、内藤式とESG投資は対立的に見えます。

G-2. 「実質的なESG」という視点

しかし、ESG投資の本質は「長期的に持続可能な企業価値を生む企業に投資する」ことです。この本質に立ち返れば、内藤式とESG投資は実は親和性があります。

内藤氏の保有銘柄は、

  • 長期にわたって安定的に配当を支払い続けている = 長期持続可能性
  • 過剰な財務レバレッジを取らず、自己資本比率が高い = ガバナンスの健全性
  • 地域に根ざした企業活動 = 社会的価値の創出
  • 製造業、建設業中心 = 実体経済への貢献

これらは、「実質的なESG経営」を行っている企業の特徴です。ESG格付け機関には評価されにくくても、地に足のついた持続可能性を持っている企業群。

換言すれば、内藤式は「評価されないESG」を狙う投資戦略とも見ることができます。表面的にはESG格付けが低くても、本質的には持続可能な企業を、市場の評価が変わる前に仕込んでおく。これは、ESG格付けが今後変化する可能性も含めて、興味深い視点です。

G-3. 「形だけのESG」への警戒

近年、ESG投資の流行に乗って、形だけ環境配慮を装う「グリーンウォッシング」や、ガバナンス改革を表明するだけで実質を伴わない企業が問題視されています。

内藤氏は、おそらくこうした「形だけのESG」には惑わされず、長年の保有実績を通じて、真に株主還元を行い、財務健全性を維持し、地域に根ざした活動を続けている企業を選別してきたと推察されます。

これは、ESG投資の本来の精神に近い、骨太なアプローチと言えるでしょう。


補論H 内藤式と新NISA ― 個人投資家が「真似できる」スコープ

H-1. 新NISAの活用可能性

2024年から始まった新NISA制度は、

  • つみたて投資枠: 年120万円、投資信託中心
  • 成長投資枠: 年240万円、個別株・ETF・投資信託
  • 生涯投資枠: 1800万円(うち成長投資枠は1200万円まで)

という大きな非課税枠を提供しています。

内藤式を新NISAで実践する場合、活用するのは主に「成長投資枠」です。年240万円の枠を、内藤式スクリーニングで選んだ10銘柄程度に分散投資する、というアプローチが現実的です。

H-2. 5年で1200万円の「内藤風ポートフォリオ」を構築するシミュレーション

仮に新NISAの成長投資枠を5年フル活用すれば、1200万円の非課税枠を使えます。これを内藤式のスクリーニング基準で選んだ20銘柄に均等分散すれば、1銘柄あたり60万円。

これくらいの資金量なら、時価総額50~300億円の中小型バリュー株でも、十分に分散投資可能です。例えば、

  • 配当利回り平均4%なら、年間48万円の非課税配当
  • 5年間で240万円の配当を非課税で受け取れる
  • これを再投資すれば、複利効果でさらに資産は増える

新NISAは、内藤式投資との相性が極めて良いです。なぜなら、

  • 長期保有が前提 → NISAの長期非課税のメリットを最大化
  • 高配当 → NISAの配当非課税が威力を発揮
  • 値上がり益も期待 → NISAの譲渡益非課税が活きる

逆に、頻繁な売買を繰り返す短期投資家にはNISAのメリットは限定的です。内藤式のような「買って持つ」スタイルこそ、NISAを最大活用できる手法です。

H-3. 注意点 ― 銘柄選定の難しさ

ただし、新NISAで個別株投資をする際の最大の難関は、銘柄選定です。1200万円という非課税枠を使い切るには、十分な銘柄選定能力が必要です。

選定を間違えると、せっかくの非課税枠で含み損を抱えることになります。しかも、NISAでは損益通算ができないため、損失が出た銘柄の損失を、他の課税口座の利益と相殺できません。

このため、新NISAで内藤式を実践するなら、

  • 最初は10銘柄程度から始めて、徐々に増やす
  • 各銘柄を購入前に、徹底的に分析する
  • 急いで枠を使い切ろうとせず、機会を見計らう
  • 配当の継続性を最重視する

といった慎重さが必要です。


補論I 「内藤式」をAI・データ分析ツールで補完する

I-1. データ分析の進化

近年、個人投資家でも利用できる投資分析ツールは劇的に進化しています。

  • 株探プレミアム: 銘柄スクリーニング、決算速報、財務分析
  • バフェット・コード: 詳細な財務指標、株主情報、ESG情報
  • IRBANK: 有価証券報告書ベースの大株主情報、企業統計
  • みんかぶ: 株価予測、株主優待、銘柄ランキング
  • Yahoo!ファイナンス: 業績、ニュース、配当情報

これらのツールを駆使すれば、内藤式の銘柄選定プロセスを、データ分析でかなりの程度補完できます。例えば、

  • スクリーニング条件で候補を絞る
  • 候補銘柄の財務指標を一覧化する
  • 過去5~10年の配当履歴を確認する
  • 大株主構成を分析する
  • 内藤氏が保有しているかチェックする

これらを一つ一つ手作業でやれば数時間かかる作業も、データ分析ツールなら数分で完了します。

I-2. AI活用の可能性

さらに、ChatGPT、Claude、Geminiといった生成AIを使えば、

  • 決算短信を要約してもらう
  • 業界動向をリサーチしてもらう
  • 競合他社との比較分析を依頼する
  • 株主還元方針の解説をしてもらう

といった作業が、効率的にできます。

ただし、AIに完全に頼るのは危険です。AIは時として誤情報を出力します。最終的な判断は、必ず一次情報(決算短信、有価証券報告書、適時開示)に当たって確認することが重要です。

I-3. 「人間の目利き」の重要性

データとAIで補完できる部分は多いものの、最終的な投資判断には「人間の目利き」が必要です。

例えば、

  • 経営陣の誠実さ
  • 業界の構造変化への対応力
  • 競合との差別化要因
  • 顧客との関係性
  • 従業員のモチベーション

こうした定性的な要因は、データでは捉えきれません。内藤氏のような経験豊富な投資家は、こうした定性要因の評価能力も持っていると推察されます。

個人投資家が内藤式を実践する際にも、データ分析と並行して、自分なりの目利き能力を磨いていくことが重要です。これには時間がかかりますが、避けては通れない道です。


補論J 内藤式の限界とリスク ― 公平な評価のために

J-1. グロース相場では取り残される

内藤式は、グロース株が主導する強気相場では、相対的に弱い時期があります。例えば、2010年代後半の米国テック相場では、バリュー投資家は相対的に劣後し続けました。

日本でも同様の現象が起こります。例えば、2020~2021年のコロナ後相場では、グロース株、特にDX関連、SaaS、バイオ関連が急騰しました。一方、バリュー株は相対的に取り残されました。

内藤氏のような長期投資家は、こうした相場でも淡々と保有を続けますが、心理的には辛い時期です。「自分の銘柄だけ動かない」というフラストレーションに、何年も耐える必要があります。

J-2. 「失われた30年」のような長期低迷リスク

日本株は、1990年から2010年代前半まで、約20年以上の長期低迷を経験しました。バリュー投資家であっても、市場全体が動かない時期には、リターンを上げるのは困難です。

内藤式が機能してきたのは、その20年の中でも「割安だがそこそこ堅実な企業」を選別してきたからです。しかし、もし日本が今後も長期低迷を続けるなら、バリュー投資のリターンも限定的なものに留まる可能性があります。

J-3. 業績悪化銘柄を抱えるリスク

100銘柄に分散していても、その中には業績悪化や減配を発表する銘柄が混じります。内藤氏のポートフォリオを時系列で見ると、過去にもいくつかの銘柄では業績悪化や配当方針の変更が起こっています。

分散しているからといって、個別のリスクがゼロになるわけではありません。常に銘柄をモニタリングし、必要に応じて入れ替える判断力が求められます。

J-4. 流動性リスク

中小型株市場の流動性は、平時は問題なくても、相場急変時には急激に低下します。リーマンショックやコロナショックのような大規模パニック時には、出来高が急減し、売りたくても売れない、買いたくても買えない状況が起こります。

長期保有を前提とする内藤式では、こうした流動性リスクは「売らないから関係ない」と割り切れますが、もし急遽資金が必要になった場合、希望価格で売却できない可能性があります。

J-5. 機関投資家化のリスク

近年、東証PBR改革を受けて、中小型バリュー株への機関投資家の関心も高まっています。仮に多くの機関投資家が中小型バリュー株市場に参入してくれば、

  • 株価が早期に適正水準に近づく → 内藤式のエッジが薄れる
  • 流動性が改善される → 個人投資家の優位性が薄れる
  • 競争が激化する → 銘柄選定が難しくなる

といった変化が起こる可能性があります。これは内藤氏自身にとってもチャレンジですが、内藤式を真似する個人投資家にとっては、より深刻な問題となるかもしれません。

J-6. 為替・グローバル要因

日本の中小型バリュー株は、表面的にはドメスティック企業に見えますが、実は為替や海外経済の影響を強く受けるものも多くあります。例えば、

  • 部品輸入のコスト変動
  • 海外売上の比率
  • 海外の景気動向に連動する産業

これらは、保有銘柄のファンダメンタルズを変化させる要因です。内藤式は基本的にボトムアップですが、マクロ要因への目配りも必要となります。

J-7. 制度変更リスク

新NISA、株式投資への税制、配当税制、有価証券報告書の開示ルールなど、投資環境は政府の制度設計に強く影響されます。これらが大きく変わると、内藤式のメリットが減少する可能性もあります。

例えば、もし配当税率が大幅に引き上げられれば、高配当戦略の魅力は減少します。もし大量保有報告書の閾値が3%に引き下げられれば、内藤氏の戦略は大きく変更を迫られます。

こうした制度変更リスクは、投資家がコントロールできない外部要因です。


補論K 終わりに、もう一度内藤征吾という存在を考える

ここまで補論を含めて、内藤征吾という個人投資家を多角的に分析してきました。最後に、改めて彼の本質に迫りたいと思います。

K-1. 「投資の達人」とは何か

世の中には、「投資の達人」と呼ばれる人物が数多くいます。バフェット、ソロス、リンチ、テンプルトン、清原達郎、片山晃。それぞれが独自のスタイルを持ち、それぞれが大きな成功を収めています。

しかし、これらの「達人」たちには、共通する一つの特徴があります。それは、「自分のスタイルを確立し、それを愚直に貫いている」ということです。

ソロスはマクロ的視点と逆張りを貫きました。リンチはボトムアップと日常生活からの発見を貫きました。バフェットは優良企業の長期保有を貫きました。

内藤氏もまた、自分のスタイル―中小型バリュー、超分散、長期保有、配当再投資―を、30年以上にわたって貫いてきた人物です。スタイルを変えなかった。流行に流されなかった。市場の声に耳を傾けなかった。

これこそが、達人の達人たる所以です。

K-2. 「沈黙」という最高の修行

仏教の世界には「黙照禅」という修行法があります。ただひたすら座って、言葉を発さず、思考を停止し、自分の内面を見つめ続ける修行です。

内藤氏の投資人生は、ある意味でこれに似ています。市場のノイズに耳を傾けず、メディアの煽動に乗らず、SNSの誘惑に屈さず、ただひたすら自分の判断基準に従って、企業の本質的価値だけを見続ける。

これは、現代の情報過多社会において、極めて稀有な「自律性」の表現です。多くの個人投資家が、流行のテーマや有名投資家の発言に振り回される中、内藤氏は外部からの情報を遮断し、自分の判断だけを信じる強さを持っています。

これは、投資哲学であると同時に、生き方の哲学でもあると思います。

K-3. 私たちに残されたもの

内藤氏は、おそらく今後も発信することはないでしょう。インタビューにも応じないでしょう。書籍も出さないでしょう。

しかし、彼のポートフォリオは、有価証券報告書という形で、私たちの目に開かれ続けています。彼が何を考え、何を信じ、何を選び抜いてきたか。それは、彼の保有銘柄リストの中に、すべて記録されています。

私たちにできることは、

  • 彼の保有銘柄を「答え」としてコピーするのではなく
  • 彼の銘柄選定基準を「方法論」として学び
  • 自分なりの目利きで、自分なりのポートフォリオを構築すること

魚を与えるな、釣り方を教えよ」という諺があります。内藤氏は、釣り方を直接教えてくれることはないでしょう。しかし、彼の釣果(保有銘柄)を観察すれば、彼の釣り方(投資哲学)は、十分に推察できます。

その推察に基づいて、自分の釣り方を確立すること。これが、内藤征吾という存在から私たちが学ぶべき、最大の教訓だと思います。

K-4. 最後のメッセージ

長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。本記事を通じて、「派手な情報が氾濫する投資の世界で、地味で堅実な道を歩む価値」を、少しでもお伝えできていれば幸いです。

短期売買、テーマ株、グロース株、トレンドフォロー。これらが悪いわけではありません。それぞれにメリットがあり、それぞれに合う投資家がいます。

しかし、もしあなたが、

  • 派手な情報に振り回されるのに疲れた
  • 短期売買で疲弊している
  • 長く続けられる、自分らしい投資スタイルを探している
  • 地味だが堅実」という言葉に魅力を感じる

そんな方であれば、内藤征吾という存在は、大きなヒントになるはずです。

彼は語りません。しかし、彼のポートフォリオが、最も雄弁に語っています。

長く、地味に、堅実に、続けよ。

これが、内藤式投資哲学の、すべてです。


13. 参考資料

13-1. 一次情報源

  • 金融庁 EDINET: 上場企業の有価証券報告書、大量保有報告書の公式開示プラットフォーム
    • https://disclosure2.edinet-fsa.go.jp/
  • 東京証券取引所 適時開示情報閲覧サービス(TDnet): 上場企業の適時開示情報
    • https://www.release.tdnet.info/
  • 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」(2023年3月31日)
    • 各銘柄企業のIR資料に同様の対応に関する記述あり

13-2. データベース・情報源

  • IRBANK 内藤征吾の役員経歴・大株主情報
    • https://irbank.net/内藤征吾
    • https://irbank.net/holder/内藤征吾
  • バフェット・コード「内藤征吾さんが保有する銘柄一覧と評価額」
    • https://www.buffett-code.com/shareholder/e55e807518d1ef1710c7dc47585b64f9
  • 株探(かぶたん)「内藤征吾が保有する株式一覧・時価総額」
    • https://kabutan.jp/holder/lists/?holdername=内藤征吾
  • バリュートレンド「内藤 征吾 大株主 保有情報」
    • https://e-actionlearning.jp/holders/内藤 征吾
  • Strainer「内藤 征吾さんの保有企業一覧」
    • https://strainer.jp/shareholders/内藤 征吾

13-3. 報道・メディア記事

  • 週刊ポスト 2021年1月15・22日号「個人投資家、保有企業数で見る『多株主』ランキング その経歴を紹介」
    • マネーポストWEB転載: https://www.moneypost.jp/742862
    • 内藤征吾氏が保有企業数22社で第1位を獲得した初期報道
  • プレミアム優待倶楽部「日本の個人・法人大株主ランキング!」
    • https://portal.premium-yutaiclub.jp/vote/lab/429-2/
  • 投資詐欺緊急ホットライン「個人投資家『内藤征吾』の詳細情報」(2025年9月)
    • https://kabu-sagi.com/post-40927/
  • ダイヤモンドZAi「ディーエムエス(9782)、4期連続の『増配』を発表し、配当利回り11.9%に!」(2025年3月)
    • https://diamond.jp/zai/articles/-/1047636
  • 就職氷河期世代ニートのサバイバル「個人投資家が複数企業の大株主となっている例」(2022年)
    • https://valuekabu2013.net/個人投資家が複数企業の大株主となっている例/

13-4. 個別銘柄情報(IRBANK等から)

  • 9782 ディーエムエス: 時価総額・配当データ
  • 3375 ZOA: 財務指標・配当履歴
  • 7509 アイエーグループ: PBR・配当データ
  • 3645 メディカルネット: 保有比率履歴
  • 1718 美樹工業: 大株主登場履歴
  • 9674 花月園観光: 保有比率4.92%の長期維持
  • 4644 イマジニア: ゲーム関連バリュー株
  • 8917 ファースト住建: 住宅分譲バリュー株
  • その他、内藤氏保有銘柄各社の有価証券報告書、適時開示資料

13-5. SNS・個人投資家による言及

  • インヴェスドクター(@Invesdoctor)X投稿
    • https://x.com/Invesdoctor/status/1350795428359405570(2021年1月)
    • https://x.com/Invesdoctor/status/1747952250012786899

13-6. 関連書籍・古典

  • 清原達郎『わが投資術』(講談社、2024年)
  • ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』(パンローリング)
  • ピーター・リンチ『ピーター・リンチの株の教科書』(ダイヤモンド社)
  • ジョエル・グリーンブラット『株デビューする前に読む!「魔法の公式」が教えるすごい銘柄の選び方』(ダイヤモンド社)

13-7. 注意事項

  • 本記事に記載の財務指標、保有銘柄、保有比率は、執筆時点で確認できた一次情報および各種データベースに基づくものです。最新情報については、必ず各企業のIR情報、有価証券報告書を直接確認してください。
  • 内藤征吾氏ご本人の投資哲学について、本記事における記述はすべて、公開情報(有価証券報告書、報道記事等)からの推察・分析に基づくものであり、内藤氏ご本人の公式見解を代弁するものではありません。
  • 本記事は投資判断を促すものではなく、また特定の金融商品の取引を勧誘するものでもありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。
  • 株価および各種指標は変動します。記載の数値は執筆時点のものであり、現時点とは異なる可能性があります。

本記事に登場する一切の情報・固有名詞・指標・分析は、執筆時点で公開されていた一次情報および各種データベース、報道記事に依拠しています。特定の投資判断を推奨するものではありません。投資には元本割れのリスクがあります。最終的な投資判断はご自身の責任において行ってください。

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