竹田和平の投資哲学を徹底解剖する——「日本一の個人投資家」が遺した普遍の原則

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はじめに——なぜ今、竹田和平を読み解くのか

新NISAが始まり、株式投資にこれまで以上の関心が集まっている令和の今、私はあえて2016年に亡くなった一人の投資家の名前を取り上げたいと思います。竹田和平氏(たけだ わへい、1933年-2016年)です。

竹田和平という名前を初めて聞いた方も多いかもしれません。しかし、「タマゴボーロ」というお菓子の名前を聞いたことのない日本人は、おそらくほとんどいないでしょう。あの卵をふんだんに使った、口の中でほろっと崩れるお菓子。竹田氏は、その「タマゴボーロ」を日本中に広めた竹田製菓(現・竹田本社)の創業者です。

ただし、それだけなら一人の成功した中堅お菓子メーカーの社長で終わっていたはずです。竹田氏が「日本一の個人投資家」「和製バフェット」と呼ばれるようになったのは、お菓子作りで築いた財をベースに株式投資の世界に乗り込み、一時は130社以上で大株主(10位以内)として名を連ね、保有株式の時価総額は100億円を超え、配当金だけで年間1億円以上を得ていたと言われるからです。

私が竹田氏の哲学を改めて取り上げたい理由は三つあります。

第一に、竹田氏の投資手法は驚くほどシンプルです。複雑なデリバティブも、AIによるアルゴリズム取引も、難解な経済理論も使いません。「会社四季報を読む」「財務健全で配当をしっかり出す会社を、株価が下がったときに買う」「買ったら長く持つ」。たったこれだけのことを、自分の信念と矛盾しないように愚直に貫き通したのです。シンプルだからこそ、現代の私たちにも応用可能です。

第二に、竹田氏の投資には「思想」がありました。利益最大化を盲目的に追求する投資家とは違い、「投資とは応援である」「株主になるということは旦那(だんな)になるということだ」という独自の思想を持っていました。彼は「貯徳(ちょとく)」という言葉まで自分で発明しました。徳を貯める、という意味です。この思想は、株式投資が時にギャンブル的・刹那的・自己中心的なものに堕しがちな現代において、もう一度立ち返るべき原点を示しているように思います。

第三に、竹田氏の人生そのものが「逆境からの再生」の物語であり、投資哲学の前に「生き方哲学」を学べる稀有な事例だからです。戦時中に名古屋から福井へ疎開し、「よそ者」として石を投げられた幼少期。家業の貧しいお菓子屋を継いだ17歳。三度の大暴落を目の当たりにした投資人生。山一證券の個人筆頭株主であった彼が、山一の自主廃業で大損したという衝撃的な経験。これらの逆境を、彼はどう乗り越え、どう投資哲学に昇華させたのか。これを知ることは、これから投資を始める人にも、すでに長年やってきた人にも、必ず大きな示唆を与えると私は信じています。

本記事では、竹田和平氏の投資哲学を、その人生背景・具体的な銘柄選定の手法・思想的な背景・他の投資家との比較・現代への応用まで、できる限り深く掘り下げて分析していきます。なお、本記事で扱う情報の出典はすべて、彼自身の著書、彼を取材した記者のインタビュー本、新聞・雑誌記事、関係者の証言などの一次情報・準一次情報に基づいています。詳細な参考資料は記事末尾にまとめます。

それでは始めましょう。


第一部:竹田和平とは何者だったのか

1-1. 基本プロフィール

まず、竹田氏の基本的なプロフィールから整理しておきましょう。

  • 生年月日: 1933年(昭和8年)2月4日
  • 出身地: 愛知県名古屋市西区
  • 没年月日: 2016年(平成28年)7月21日(享年83)
  • 主な肩書: 竹田製菓(現・竹田本社)創業者、個人投資家、思想家
  • 代表的な異名: 「日本一の個人投資家」「和製バフェット」「平成の花咲爺(はなさかじじい)」

竹田氏は1933年、世界恐慌の影響がまだ色濃く残る昭和初期に、名古屋の貧しいお菓子屋の息子として生まれました。祖父が大正13年(1924年)からボーロ製造業を始めており、家業を継承する形で、1952年(昭和27年)に父と共に竹田製菓株式会社を設立します。当時、竹田氏は19歳でした。

代表商品である「タマゴボーロ」(タケダのボーロ)は、卵を主原料にした、口の中でホロッと溶ける小さな球状のお菓子です。16世紀にポルトガルから日本に伝わったお菓子で、「ボーロ」はポルトガル語で「ケーキ」や「球」を意味します。竹田製菓は戦後、いち早く製造を機械化することで大量生産に成功し、最盛期には全国シェア60%を握る日本一のボーロメーカーに成長しました。

その後、1970年(昭和45年)に「わくわくセンター」という日本初の総合レジャー施設を開設、1986年(昭和61年)には愛知県犬山市にテーマパーク「お菓子の城」を、1987年には「純金歴史博物館」を開設するなど、お菓子屋の枠を超えて事業を多角化していきます。

そして1990年代後半から2000年代前半にかけて、彼は本格的に株式投資の世界に乗り出し、瞬く間に「日本一の個人投資家」へと駆け上がっていくのです。

1-2. 戦時下の少年時代——逆境が生んだ「日本一」への執念

竹田氏の哲学を理解する上で、戦時中の体験は決定的に重要です。彼自身が後年語っているように、中学生の頃は「真っ暗だった」と言います。

太平洋戦争の末期、徴兵が迫る中で「銃の弾丸が、お腹を突き破ることしか想像ができない」「逃げ出したら親戚まで迷惑がかかる」という絶望の中にいました。さらに名古屋から福井に疎開してきたことで、「よそ者がきた」と石を投げられ追い回されたり、畑からスイカが盗まれたときに濡れ衣を着せられて先生につるし上げられたり、と本当につらい少年時代を送ったそうです。

そんな彼の心の支えになったのが、何度も読み返した「太閤記」だったといいます。豊臣秀吉が草履取りから天下人にまで上り詰めた物語に勇気をもらい、特に**「誰もやっていないことをやったら日本一」**という教訓を心に刻んだ、と語っています。

ここに私は、後の竹田流投資哲学の原点を見出すことができると考えています。なぜなら、彼の投資手法は徹底して「群れない」「人と違うことをやる」「みんなが見向きもしない割安株を買う」という性質を持つからです。少年時代に身につけた「日本一になるなら、人と同じことをしていてはダメだ」という発想が、後の逆張り型の長期バリュー投資という個性を作り上げたと私は分析しています。

また、戦争で命の危険にさらされた経験は、彼の「お金は所詮エネルギー」「お金は天が貸してくれているもの」という独特の死生観・金銭観の土台になったとも見ています。命を懸けて生き残った人間にとって、お金は「手段」であって「目的」ではない、ということが骨の髄まで染みている。だからこそ、目先の値動きに一喜一憂しない、腰の据わった投資ができたのではないでしょうか。

1-3. 17歳での家業継承——「正義は勝つ」を実体験で学ぶ

竹田氏は17歳の時、祖父の代から続いていた家業の製菓業を手伝うようになります。当時はまだ手作業中心で、効率は悪く、利益は薄く、典型的な町のお菓子屋でした。

戦後すぐの1952年(昭和27年)、父と共に竹田製菓株式会社を設立します。竹田氏が19歳のときです。

ここで彼が示した革新性は、いち早く機械化に踏み切ったことでした。当時、ボーロ菓子は数社が手作りでシェアを競っていましたが、戦後の混乱期に思い切って製造機械を導入することで、人件費を削減し、品質を均一化し、大量生産を可能にしたのです。

私が興味深いと思うのは、これは投資哲学にも通じる発想だということです。竹田氏は後に「みんなが熱狂しているときには冷静になり、みんなが怯えているときに勇気を出す」という、典型的な逆張り型バリュー投資の姿勢を取りますが、戦後の混乱期に機械化に大金を投じるという判断も、まさに同じ発想です。みんなが目先のことで頭がいっぱいになっているときに、長期的な視点で大胆な投資をする——これは経営でも株式投資でも、彼の一貫した行動原理でした。

なお、竹田氏は1955年(昭和30年)に札幌で独立します。当時の竹田製菓は機械化以前で、彼は札幌の地で大きな壁にぶつかったといいます。ここでの試練が、後の「あたりまえを大事にする」「足るを知る」という人生哲学につながったと言われています。

1-4. 三つの事業多角化——お菓子の城、純金家宝、ボウリング場

竹田氏は単なるお菓子屋で終わらず、事業を巧みに多角化していきます。

第一の多角化: 1970年(昭和45年)、日本で初めての総合レジャーセンター「わくわくセンター」を開設。

第二の多角化: 1986年(昭和61年)、愛知県犬山市にテーマパーク「お菓子の城」を開設。これは「お菓子の魅力を体験できる場所」という発想で、当時としては斬新でした。

第三の多角化: 1987年(昭和62年)、家興しのため「純金歴史人物館」(後の純金歴史博物館)を開設。竹田氏は「百尊家宝」というコンセプトで、日本の歴史を彩った百人の偉人の純金製ミニチュアを制作し、これを家宝として後世に残す事業を始めました。1988年には、香川県の金刀比羅宮で何らかのスピリチュアルな体験をしたことを契機に、金刀比羅宮に純金4kgを使った恵比寿像を奉納したというエピソードも残っています。

ボウリング場経営: 愛知県西春日井郡豊山町と岐阜県大垣市でボウリング場も経営していました。これは後に大きな教訓となります。1970年代の日本ではボウリングが空前のブームで、ボウリング場経営は「儲かるビジネス」の代名詞でした。竹田氏もこれに乗ったわけです。

しかしブームは去り、ボウリング場は閉鎖の憂き目に遭います。これが竹田氏にとって**「三度の大暴落」のうちの一つ**として記憶されることになるのです。

1-5. 三度の大暴落体験

竹田氏は生涯で三度、大きな暴落の惨状を目の当たりにしたといいます。これは『日本一の大投資家が語る大貧民ゲームの勝ち抜け方』(水澤潤著)の取材で本人が語っている話です。

  • 一度目: 戦後の土地暴落
  • 二度目: ボーリング場の流行が過ぎ去った後
  • 三度目: 株式市場のバブル以降の不況

水澤潤氏が本のなかで指摘しているのは、「相場を知っていたからこそ、いつまでも右肩上がりの相場はなく、いつまでも右肩下がりの相場もないという冷酷な事実を、事実として受け入れることができたのだろう」ということです。

この点について、私は非常に重要な分析を加えたいと思います。

多くの個人投資家は、リーマンショックなどの一度の大きな暴落を経験すると、そのトラウマで二度と株を買えなくなったり、逆に「絶対にもう一度暴落が来る」と決めつけて、上昇相場でも買えなくなったりします。あるいは、好況のときには「今回は違う」と信じ込んで暴落のリスクを軽視します。

竹田氏が違うのは、ブームと崩壊のサイクルを「事業家として」生身で経験しているという点です。土地、ボウリング場、株式という、業種も時代も異なる三つのバブルとその崩壊を見てきたからこそ、「これは特定の業種や時代の問題ではなく、人間の集団心理の宿命なのだ」という普遍的な認識に到達したのではないでしょうか。

「みんなが熱狂しているバブルの最中に冷静でいられる人間はどれだけいるでしょうか? バブルの最中に身の丈にあった投資を行い、返せる範囲内の投資を守った人がどれだけいるでしょうか」と水澤氏は書いています。この問いに、竹田氏は実体験で答えを出した数少ない一人だったわけです。

1-6. 山一證券破綻という痛恨の経験

竹田氏の投資人生を語る上で、絶対に避けて通れないのが1997年(平成9年)の山一證券自主廃業です。

この時、竹田氏はなんと山一證券の個人筆頭株主だったといわれています。山一證券は当時、日本の四大証券会社の一角を占める巨大金融機関でしたが、簿外債務の発覚により自主廃業に追い込まれ、株価は紙くずになりました。

これは、竹田氏個人にとって極めて大きな金銭的損失だったはずです。しかし彼はこの経験から、後の投資哲学の中核となる、ある重要な学びを得ました。それは——

「大企業に対して個人投資家は無力である」

という冷徹な認識です。

私はこの点を、竹田氏の投資哲学の決定的な転換点として位置づけています。山一證券のような巨大企業では、いくら個人で大株主になっても、経営の中身を把握することも、リスクを察知することもできません。経営陣の腐敗や粉飾が発覚するのは、いつも事態が手遅れになってからです。

そこで竹田氏は方針を転換します。それからは逆に中小企業の大株主として、一時は130社以上で10位以内の大株主に名を連ねるようになるのです。中小企業であれば、経営者の顔が見え、財務諸表もシンプルで、ビジネスモデルが理解しやすい。大株主として影響力を持つこともできる。要するに「自分が分かる範囲で勝負する」という哲学に転換したわけです。

これは、ウォーレン・バフェットが提唱する**「能力の輪(Circle of Competence)」**の概念と完全に一致します。バフェットは「自分が理解できるビジネスにだけ投資せよ」と言いますが、竹田氏は山一證券の苦い経験を通じて、同じ結論に独自に到達したのです。


第二部:投資哲学の核心——「シンプルさ」の力

ここから本格的に、竹田氏の投資哲学そのものに踏み込んでいきます。

2-1. 「あまりにもまっとうすぎて見落とす」——シンプルさの罠

竹田和平氏の投資哲学を一言で表すなら、**「あまりにも当たり前すぎて、誰も真剣にやらない方法」**です。

水澤潤氏の著書『花のタネは真夏に播くな』の表紙には、こんな言葉が掲げられています。「あまりにもまっとうすぎて多くの投資家が見向きもしない方法で、竹田氏は日本一の大旦那となったのだ」と。

具体的に、竹田氏が大切にしていた原則は何だったのでしょうか。同書から要点を抽出すると、以下のようになります。

  1. 「値上がりを期待して株を買ってはいけない」
  2. 「情報源はひとつで充分。会社四季報を熟読せよ」
  3. 「投資とは結局、経営者の資質を見極めること」

この三つです。たったの三つ。

「これだけ?」と思う方が大半でしょう。しかし、ここに恐ろしいまでの本質が詰まっています。

たとえば「値上がりを期待して株を買ってはいけない」という言葉。投資を始める人の99%は、「この株は上がりそうだから買う」と考えます。これは竹田氏に言わせれば、投資ではなく「投機」です。竹田氏が買うのは、「この会社を応援したいから」「配当でちゃんと利益が取れるから」「割安だから」という理由であり、値上がり「期待」ではないのです。

「情報源はひとつで充分」という言葉。現代の私たちはネット、SNS、YouTube、テレビ、有料ニュースレターと、情報の洪水の中で投資判断を下そうとします。しかし竹田氏は「伝統のある四季報スタッフが集めた情報を信頼することだけで十分で、情報が多すぎると迷うだけでいいことはない」と言い切りました。これは情報過多時代への、最も鋭い処方箋ではないでしょうか。

「投資とは経営者の資質を見極めること」。これは数字には現れない、最も難しい部分です。しかし竹田氏自身が長年経営者であったからこそ、経営者を見る目があった。彼は四季報を読んで気になった会社があれば、可能な限り自分で経営者に会いに行き、その人物の器を見極めていたといいます。

私の見立てでは、竹田流の真の凄みは、**「シンプルなルールを徹底して、最後まで守り抜いた」**ところにあります。多くの投資家は最初はシンプルな原則を持っていても、相場が動くたびに「今回は例外」「この銘柄は特別」と言い訳を作って、原則を破ります。竹田氏は破らなかった。その違いが、結果の違いになって表れたのです。

2-2. 「値上がりを期待して株を買ってはいけない」——竹田流の根本転換

この言葉は、現代の投資文化への強烈なアンチテーゼです。

普通の人が株を買う理由は、突き詰めれば「値上がり益(キャピタルゲイン)を得るため」です。1000円で買って1500円で売れば50%の儲け。これが株式投資の王道だ、と多くの人が思っています。

しかし竹田氏は違いました。彼が株を買う第一の理由は、配当を得ることでした。配当利回りが高く、しかも安定して配当を出し続けてくれる会社の株を、できるだけ安いときに買う。そうすれば、株価がどう動こうと、毎年確実に配当が振り込まれ続ける。値上がりすればそれは「おまけ」だと。

この発想転換が、なぜ重要なのか。

第一に、精神的に安定するからです。値上がりを期待して買うと、毎日株価をチェックして一喜一憂することになります。少し下がれば慌てて売り、少し上がれば「もっと上がるかも」と欲を出す。これが大半の個人投資家の失敗パターンです。しかし配当目当てで買えば、株価の上下は関係なくなります。毎年の配当だけ気にすればいい。

第二に、長期保有が自然にできるからです。配当目当てなら、株価が下がってもむしろ「もっと買い増せるチャンス」と捉えられる。下がった株を平均取得単価が下がるまで買い続け、配当をもらい続け、最終的には大きな含み益を得る——これが竹田流の典型パターンです。

第三に、会社の業績に集中できるからです。値上がり期待だと、市場の人気や材料に振り回されます。しかし配当目当てなら、見るべきは会社の利益と財務状況だけ。極めてシンプルな判断軸ができあがります。

2-3. 「情報源はひとつで充分」——四季報一本やりの理由

竹田氏が一貫して言い続けたのが、「情報源は会社四季報だけ」ということです。これも極めて独特な姿勢です。

『あなたの資産を20倍に増やす50の方法』というブログ・サイトで紹介されている彼の言葉に、こうあります。

「情報源は会社四季報だけなんです。四季報が間違えたら、ぼくも間違えると。そういう覚悟さえ持っていればいいんですよ」

ここには、いくつもの重要な含意があります。

一つは、情報源を絞ることの覚悟です。世の中には無数の情報源があり、それぞれが「うちのデータが一番正確だ」と主張します。それを全部見ようとしたら、人生の時間が足りなくなります。だから、一つの信頼できる情報源を決めて、それを徹底的に使い倒す。これが竹田流のメソッドです。

二つ目は、四季報を選んだ理由です。会社四季報は東洋経済新報社が1936年から発行している、日本のすべての上場企業を網羅した投資情報誌です。各企業に専門の記者がつき、独自の業績予想を出し、財務情報や株主情報を載せています。竹田氏は「伝統のある四季報スタッフが集めた情報を信頼することだけで十分」と語っていました。発行から80年以上の歴史と、東洋経済新報社の取材力。これを信頼する、というのは合理的な判断です。

三つ目は、「間違えても自分の責任」という潔さです。「四季報が間違えたら、ぼくも間違える」。これは責任転嫁ではなく、覚悟の表明です。情報を絞るということは、その情報が間違っていたら自分も間違うリスクを引き受けるということ。この覚悟があるからこそ、迷いなく行動できるのです。

現代のSNS投資家とは対照的です。SNSでは無数の「専門家」が異なる予想を出し、それを横断的に見ていると、結局何が正しいのか分からなくなります。判断が遅れ、迷いが生じ、機会を逃します。竹田氏の「一本やり主義」は、現代の私たちにこそ刺さるメッセージではないでしょうか。

2-4. 「投資とは経営者の資質を見極めること」——数字の向こう側

竹田氏の三つ目の原則が、「投資とは結局、経営者の資質を見極めること」です。

これは、財務数字を超えた、最も難しい部分です。

竹田氏が経営者を見るときの具体的な基準を、彼の名言から拾い出してみましょう。

「経営者がお役所感覚だったり、天下り感覚だったりするような会社には、絶対に投資してはダメ」

これは非常に印象的な言葉です。「お役所感覚」「天下り感覚」とは何か。それは、「失敗しないこと」を最優先する姿勢、自分のリスクで決断しない姿勢、責任を取らずに権限だけ持とうとする姿勢のことです。

竹田氏が好むのは、創業者経営者やオーナー経営者でした。なぜなら、自分の財産が会社にかかっているから、必死で経営する。サラリーマン経営者では、どうしても「任期中、無難に過ごす」発想になりがちです。

また、別の名言にこうあります。

「会社が問題を起こして株価が下がったら株を手放すのも選択のひとつですが、相場の流れで下落するなど、市場の需給関係で下がったときはむしろ買い時。企業の価値に変化はないんですから、高い確率で株価は戻る」

ここで重要なのは、「会社固有の問題」と「市場全体の問題」を区別するという発想です。経営者が信頼できなくなった、不祥事があった、ビジネスモデルが破綻した——これは売り。しかし、世界経済の混乱で全体が下がっているだけなら、これはむしろチャンス。経営者を信頼できているからこそ、市場の混乱で売られた株を冷静に買い増せるのです。

2-5. 借金経営への徹底した警戒

竹田氏のもう一つの強烈な信条が、**「借金の多い会社には投資しない」**ということです。

「私はずっと何十年も会社の経営を見てきましたが、つぶれる会社もごまかす会社もみんな借金の多い会社です。逆に財務が健全でつぶれたところは見たことがありません」

この言葉には、長年自分で会社を経営してきた人間の重みがあります。

私が見るに、これは単なる定量的な財務分析ではなく、人間心理の洞察を含んでいます。借金が多い経営者は、追い詰められると粉飾に手を染めやすい。ごまかして時間を稼ごうとする。一方、財務が健全な経営者は、ピンチでも腹を据えて対処できる。だから、財務健全性は単なる安全マージンではなく、経営者の精神状態を健全に保つ装置でもあるのです。

竹田氏が後述する「株主資本比率」を重視するのも、この延長線上にあります。借金で膨らんだバランスシートは、好況時には派手に見えますが、不況時には会社を窒息させます。竹田氏は、好況の時の派手さよりも、不況の時の生存力を重視したわけです。

これは投資哲学であると同時に、経営哲学でもあります。竹田氏自身が、竹田製菓を借金経営でなく自己資本中心で運営してきたからこそ、戦後の混乱期もボウリング場ブーム崩壊も、バブル崩壊も生き延びることができたのでしょう。


第三部:具体的な銘柄選定——竹田流スクリーニング

ここからは、竹田氏が実際にどのような数値基準で銘柄を選んでいたかを、できる限り具体的に見ていきます。

3-1. 五つの選定基準

水澤潤氏が竹田氏に長時間インタビューしてまとめた『花のタネは真夏に播くな』の中で、竹田氏の銘柄選定基準は、以下のように整理されています。

  1. 一株利益(EPS)が出ていて、その多くを配当に回している
  2. 株主資本比率(自己資本比率)が高い
  3. 過去のPER・PBRに比べて割安
  4. 過去の高値からどれだけ下落しているか(下落率)
  5. 過去の売上高伸び率

これらを満たす銘柄を、会社四季報の中から地道に探し出していくのです。一つ一つ、見ていきましょう。

3-2. 一株利益と配当性向——「内部留保への異議」

竹田氏が銘柄選びでまず見るのは、**一株利益(EPS)**でした。1株あたりいくらの純利益を稼いでいるか。これが基本中の基本です。

そして、その**利益のうちどれだけを配当に回しているか(配当性向)**を重視しました。これは興味深い視点です。

日本企業の伝統的な経営観では、「配当はほどほどにして、内部留保を厚くしておくことが安定経営につながる」と考えられてきました。バブル崩壊後はとくに、内部留保を積み上げて手元現金を貯めることが「賢明な経営」とされる風潮があります。

しかし竹田氏は、この発想に異議を唱えました。配当を抑えて内部留保を厚くするのは、株主を軽視している証拠だと考えたのです。

なぜか。会社は誰のものか。法的には株主のものです。だから、稼いだ利益のうち事業の再投資に必要な分を除いた残りは、株主に還元するのが筋。それを「会社の中に貯め込む」のは、経営者が株主を信頼していない、あるいは経営者が会社のお金を自分のもののように扱っている証左だ——これが竹田氏の論理でした。

しかも、内部留保が増えすぎると、無駄な投資をしたり、本業以外の不要な多角化をしたりする傾向があります。「お金は使い道がはっきりしていれば天がちゃんとくれる。なんのために儲けるか、ほんとのポイントはそこ」という竹田氏の言葉は、企業経営にも当てはまるのです。

私はこの点について、現代日本にこそ刺さる指摘だと思います。日本企業は世界的に見て内部留保が異常に厚く、配当性向が低い。これが「PBR1倍割れ」を生み、東証から株主還元の改善要請が出る事態を招いています。竹田氏は20年以上前から、この問題を見抜いていたわけです。

3-3. 株主資本比率——「財務の強さ」の指標

二つ目の基準が**株主資本比率(現在の言い方では自己資本比率)**です。

株主資本比率とは、

株主資本比率 = 株主資本 ÷ 総資産 × 100(%)

で計算され、会社の総資産のうち、返済不要の株主資本(自己資本)がどれだけの割合を占めているかを示す指標です。

たとえば、総資産100億円の会社で、株主資本が60億円なら、株主資本比率は60%。残り40億円は借金などの負債で賄われていることになります。

この比率が高いほど、財務が健全ということになります。一般に、

  • 40%以上:健全
  • 50%以上:かなり健全
  • 60-70%以上:極めて健全

と言われます。

竹田氏は、株主資本比率の高い会社を好みました。なぜか。先ほど述べたように、彼は「つぶれる会社もごまかす会社もみんな借金が多い」という経験則を持っていたからです。

具体的な目安として、竹田氏は60%以上、できれば70%以上を好んだと言われています。これは相当に厳しい基準で、多くの大企業はこれを満たしません。だからこそ彼の保有銘柄は、財務が極めて健全な中小型株に偏る傾向がありました。

3-4. 過去のPER・PBRとの比較——「割安」の見極め方

三つ目の基準が**PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)**です。

  • PER = 株価 ÷ 一株あたり純利益
  • PBR = 株価 ÷ 一株あたり純資産

PERが低いほど、利益に対して株価が割安。PBRが低いほど、純資産に対して株価が割安、ということになります。

竹田氏のユニークな点は、「絶対的な数値で割安かどうか」だけでなく、「過去のPER・PBRと比較して」割安かどうかを見たという点です。

たとえば、ある会社のPERが過去5年間平均で20倍だったのに、今は10倍になっている。これは「過去比で割安」です。逆に、ある会社のPERが過去5年で6倍くらいだったのに、今は15倍になっている。これは「過去比で割高」です。

なぜ過去比で見るか。それは、業種によって「妥当なPER水準」が違うからです。成長性の高い業種は構造的にPERが高く、成熟業種は構造的にPERが低い。だから絶対値だけ見ても、本当の意味での割安・割高は分かりません。その会社の「いつもの水準」と比べて今がどうかを見るのが、より精緻な割安判断なのです。

これは現代の投資理論でいう「過去のバリュエーション・レンジ」という概念と完全に一致します。竹田氏は理論からではなく、長年の観察から、同じ結論に到達していました。

3-5. 過去の高値からの下落率——「下落を恐れず買う」

四つ目の基準が、過去の高値からどれだけ下落しているかです。

これは竹田氏の逆張り精神を最も端的に表す基準です。

普通の投資家は、株価が下落している会社を避けます。「何か悪い材料があるのではないか」「もっと下がるかもしれない」と考えるからです。

しかし竹田氏は逆。過去の高値から大きく下落している銘柄こそ、買いのチャンスと捉えました。前提条件として、

  • 財務が健全(株主資本比率が高い)
  • 配当をしっかり出している
  • 業績が悪化していない
  • 会社固有の問題でなく、市場全体の流れで下がっている

これらの条件を満たしているなら、株価の下落は「他の投資家が見向きもしていない」という意味であり、買い時だと考えたわけです。

これも先ほど引用した名言と通じます。

「会社が問題を起こして株価が下がったら株を手放すのも選択のひとつですが、相場の流れで下落するなど、市場の需給関係で下がったときはむしろ買い時」

つまり、下落の原因が「会社の中身」にあるのか、「市場の感情」にあるのかを見極めることが大事なのです。

3-6. 売上高伸び率——「成長の確かさ」

五つ目の基準が、過去の売上高伸び率です。

ここで注目すべきは、「将来の予想成長率」ではなく、過去の実績としての伸び率を見ている点です。

将来予想は当たらないことが多いのが現実です。証券アナリストの予想ですら、外れることは日常茶飯事です。しかし「過去どれだけ伸びてきたか」は客観的な事実であり、しかも将来の成長を考える上での最良の手がかりでもあります。

過去5年、10年と着実に売上を伸ばしてきた会社は、何らかの競争優位を持っている可能性が高い。逆に、過去ずっと横ばいか減少傾向の会社は、業界の構造的な問題を抱えていることが多い。

竹田氏は、

  • 派手な急成長は要らない
  • でも、じわじわとでも伸びている

という会社を好みました。安定成長企業、と言ってもいいでしょう。

3-7. 五つの基準の統合——竹田流スクリーニングの全体像

以上、五つの基準を見てきました。これを統合すると、竹田氏が買う銘柄の典型像が浮かび上がります。

「過去から着実に売上を伸ばしてきていて、財務が極めて健全で、利益の多くを配当に回している会社。そして、現在の株価が過去のPER・PBRと比べて、また過去の高値と比べて、割安になっている銘柄」

これが竹田流バリュー投資の核心です。

私がここで指摘したいのは、この五つの基準はすべて「過去の実績」と「現在の数値」だけで完結している、ということです。「将来予想」が入っていないのです。

これは極めて重要なポイントです。将来予想は外れます。アナリストの予想も外れます。AIによる予測も外れます。しかし、過去の実績と現在の財務状況は事実です。事実だけで判断する——これが竹田流の極意です。

「未来は読めない。だから過去から学び、現在を直視する」。これが彼の投資哲学の根本姿勢なのです。


第四部:会社四季報という「武器」の使い方

竹田氏の投資手法を語る上で、絶対に欠かせないのが会社四季報です。ここでは、なぜ四季報なのか、どう使ったのかを掘り下げます。

4-1. 会社四季報とは何か

会社四季報は、東洋経済新報社が1936年(昭和11年)から年4回(春・夏・秋・新春号)発行している、日本のすべての上場企業を網羅した投資情報誌です。

各社の四季報1ページに、

  • 会社の事業内容
  • 業績推移と予想
  • 株主構成
  • 財務情報(株主資本比率、有利子負債など)
  • 配当推移と予想
  • キャッシュフロー
  • 記者によるコメント
  • 株価チャート

など、投資判断に必要な情報が凝縮されています。1冊で約3800社、ページ数は2000ページを超え、まさに「日本企業のカタログ」です。

竹田氏は、この四季報を毎号、隅から隅まで読んでいたといいます。投資家として有名になってからは、四季報のスタッフから「竹田さんは四季報を一番読み込んでくれている個人投資家かもしれない」と言われていたとか。

4-2. 「四季報だけ」を貫いた理由

竹田氏が「情報源は四季報だけで十分」と言い切った理由は、いくつかあります。

理由1:信頼性 四季報は東洋経済新報社の専門記者が、各企業に独自に取材して作成しています。会社発表をそのまま載せるのではなく、記者の独自業績予想も載せている点が、他の情報源にない強みです。会社が前期と同額の配当計画を発表していても、業績動向や配当政策を勘案し「増配」や「減配」の可能性があると記者が判断すれば、独自に配当予想を出してきます。この**「外部の目から見た予想」**が、四季報の最大の価値です。

理由2:網羅性 日本のすべての上場企業(現在約3800社)が載っています。これだけ網羅的な情報源は他にありません。

理由3:定期性 年4回発行されるので、定点観測に最適。各銘柄の業績推移を、四半期ごとに継続的に追える。

理由4:シンプルさ 一社1ページにまとまっているので、短時間で多くの会社を比較できる。

理由5:判断のブレを防ぐ 情報源が一つに絞られていれば、複数の情報源で矛盾した情報に振り回されることがありません。

私がとくに重要だと思うのは、五つ目の「判断のブレを防ぐ」です。現代の私たちは、ネット、SNS、ブログ、YouTube、有料メルマガと、情報の洪水の中で投資判断をしようとします。しかし情報が多すぎると、

  • どれを信じればいいか分からなくなる
  • 判断に時間がかかりすぎる
  • 自分の意見ではなく他人の意見で動くようになる
  • ノイズに振り回されて長期視点を失う

といった弊害が出ます。竹田氏が「四季報一本やり」を貫いたのは、こうした情報洪水時代のリスクを、本能的に察知していたからではないかと私は分析しています。

4-3. 竹田流の四季報の読み方

具体的に、竹田氏はどう四季報を読んでいたのか。複数の取材記事から推測すると、おおよそ次のような流れだったと思われます。

ステップ1:通読 新しい四季報が出たら、まず全体を通読する。すべての銘柄を一通り見る。

ステップ2:気になった銘柄をマーク 読みながら、配当利回りが高そう、株主資本比率が高そう、過去最高値から大きく下落していそう、というポイントが目に留まった銘柄に印をつける。

ステップ3:絞り込み マークした銘柄について、より詳しく財務指標を確認。先述の五つの基準でスクリーニング。

ステップ4:経営者調査 絞り込まれた銘柄については、可能なら経営者に会いに行く、あるいは経営者の発言や著書を調べる。

ステップ5:購入 納得できたら買う。一度買ったら長く持つ。

このプロセスを、年4回の四季報発刊に合わせて愚直に繰り返したわけです。

水澤潤氏の取材によれば、竹田氏は四季報CD-ROMもよく使っていたといいます。CD-ROM版の四季報は、データをエクセルなどに取り込んでスクリーニングできるので、紙の四季報よりも条件絞り込みが効率的にできます。水澤氏自身、竹田氏に倣って四季報CD-ROMを使ったスクリーニング法を開発し、自著の中で読者にも公開しています。


第五部:旦那道——竹田哲学の思想的根幹

ここまでは、投資の技術的な部分を見てきました。ここからは、竹田哲学のもっと深い、思想的な部分に踏み込んでいきます。

5-1. 「旦那(だんな)」とは何か

竹田氏の投資哲学を貫くキーワードの一つが、**「旦那道(だんなどう)」**です。「旦那的投資哲学」というのが、水澤氏の本のサブタイトルにもなっています。

「旦那」とは、現代では「夫」を指す言葉として使われますが、本来はもっと広い意味を持つ言葉です。江戸時代の商家における主人、施しをする人、芸者やお茶屋で大金を使って粋に振る舞う人——いろいろな意味があります。

竹田氏が言う「旦那」は、おおむね**「世の中に貢献し、人を喜ばせ、立派に振る舞う器の大きい人」**という意味合いです。私利私欲で動くのではなく、世のため人のために動く人。それが「旦那」なのです。

そして、株主になるということは、「世の中の旦那になる」ということだ、と竹田氏は考えました。

5-2. 「株を買えるのは幸せなこと」——投資への根本的な姿勢

竹田氏は『花のタネは真夏に播くな』の中で、こう語っています(同書からの再構成)。

「株式を買えるということは幸せなことです。旦那になれるということですし、ひいては日本という国の信用秩序の維持に一肌脱ぐということだからです。株を買うということは、みんなに喜んでもらえるということなのです」

これは現代の投資家の感覚とは全く異なります。多くの人は「自分の利益のために株を買う」と考えます。しかし竹田氏は「株を買うことは、世の中に貢献すること」と考えました。

なぜか。

会社は株主から集めた資本で事業を営みます。株主がお金を出さなければ、会社は存在できません。だから、ある会社の株を買うことは、

  • その会社にお金を提供すること
  • その会社が事業を続けることを応援すること
  • その会社で働く従業員の雇用を守ること
  • その会社が提供する商品・サービスを市場に届けること
  • その会社が納める税金で国を支えること

これらすべてを、自分の意思で支援するということなのです。

「資本主義を守り市場経済を守ることは、断じて政府の仕事ではない。私たち個人投資家の責務なのだ」

竹田氏のこの言葉は、極めて重要です。資本主義は誰が守るのか。政府ではなく、私たち個人投資家こそが守るべき主体だ、というのです。

私はこの思想に、現代の私たちが見落としがちな大事な視点を見ます。投資を「お金儲けの手段」としてだけ見るのか、それとも「社会を支える行為」として見るのか。前者なら短期的な利益追求になり、後者なら自然と長期的・建設的な投資になる。竹田氏が長期投資家として成功し続けた背景には、この思想的な土台があったのです。

5-3. 「頑張っている経営者を投資で応援する」

竹田氏の有名な言葉に、こんなものがあります。

「頑張っている会社の、頑張っている経営者を、投資によって応援すること。それが投資の神髄」

これも、彼の投資哲学を貫く根本的な姿勢を表しています。

「応援したい」と思える会社の株を買う。これは情緒的な響きがありますが、実は極めて合理的な戦略でもあります。

第一に、「応援したい」と思える会社というのは、たいてい社会に必要とされているサービスや製品を提供している会社です。社会に必要とされる会社は、長期的には淘汰されにくく、安定して成長する可能性が高い。

第二に、「応援したい」と思える経営者というのは、たいてい誠実で、長期的視点を持ち、従業員や顧客を大事にしている経営者です。そういう経営者の会社は、不祥事を起こしにくく、危機に強い。

第三に、「応援したい」気持ちで買った株は、簡単には売れない。値下がりしても「もっと応援しよう」と買い増せるし、値上がりしても「まだまだ応援したい」と持ち続けられる。これが長期投資につながる。

つまり、「応援したい」という情緒的な判断は、長期投資・優良企業への集中投資という、合理的な投資戦略と完全に一致するのです。

5-4. 「お金は所詮ゼロサム、喜びは増殖する」

竹田氏の独特な金銭観を表す言葉に、こんなものがあります。

「お金は所詮ゼロサムだけど、喜びは増殖する。与える側も喜び、受け取る側も喜ぶのですから」

これは深い洞察です。

経済学的に見れば、お金は確かにある種のゼロサムです。誰かが1万円儲ければ、その1万円は他の誰かから出ています(企業の利益という形ではマクロでプラスサムですが、市場での売買は基本的にゼロサム)。

しかし、「喜び」「価値」「徳」は違います。喜びは増殖する。私があなたに何かを与えて、あなたが喜ぶ。その時、私もあなたが喜ぶ姿を見て嬉しくなる。喜びは1+1=2ではなく、3にも4にもなる。

竹田氏はこの感覚を、投資にも適用しました。応援したい会社に投資して、その会社が伸びれば、

  • 会社が喜ぶ
  • 従業員が喜ぶ
  • 顧客が喜ぶ
  • 株主である自分も喜ぶ
  • そして配当という形で経済的にも報われる

「みんなが喜ぶ投資」が、結果として一番儲かる投資だ、というのが竹田氏の哲学なのです。

5-5. 貯徳(ちょとく)——竹田が発明した概念

竹田氏が自分で発明した、彼の哲学を象徴する言葉が**「貯徳(ちょとく)」**です。

「お金はしょせんゼロサムだけど、喜びは増殖するのです。与える側も喜び、受ける側も喜ぶのですから。これは僕の発明した言葉ですが、『貯徳』するべきなんです。愛を与えれば愛が返ってくるのです」

「貯金」は誰でも知っています。お金を貯めること。

しかし、竹田氏が提唱したのは「貯徳」。徳を貯める、ということです。

具体的には、

  • 人に親切にする
  • 「ありがとう」を伝える
  • 困っている人を助ける
  • 会社を応援する(投資する)
  • 社会のために行動する

こうした行為を積み重ねていくと、目に見えない形で「徳」が貯まっていく。そして、貯まった徳は、必ずどこかで自分に返ってくる。これが竹田氏の信念でした。

『人とお金に好かれる「貯徳」体質になる!』(講談社)というタイトルの本も出しています。「貯徳体質」になれば、人にもお金にも好かれる人生が拓ける、というメッセージです。

私はこれを単なる精神論として片付けたくありません。なぜなら、「貯徳」の発想は、実は極めて合理的な「長期的人間関係資本の蓄積」だからです。

短期的にお金を稼ごうとすれば、人を出し抜いたり、嘘をついたり、騙したりすることもできます。しかし、それを繰り返せば、信頼を失い、長期的には人もお金も離れていきます。一方、貯徳を心がければ、短期的には損をすることもありますが、長期的には信頼が積み上がり、人もお金も自然と集まってきます。

投資も同じです。短期的な利益のために、応援する気もない会社を売買すれば、儲かることもあるでしょう。しかし、それは消耗戦です。応援したい会社に長く投資し、配当を受け、信頼関係を築いていく方が、長期的にははるかに豊かになれる。竹田氏の人生はその実証でした。

5-6. 「ありがとう」3000回——日々の実践

竹田氏の哲学を語る上で、絶対に外せないのが、「ありがとう」3000回の実践です。

竹田氏は毎日、「ありがとう」を3000回唱えていたと言われます。3000回。これがどれほどの数か。一日24時間のうち、寝ている時間と仕事の時間を除いて、ずっと「ありがとう」を言い続けるくらいの数です。

しかも、慣れれば車の運転中に一呼吸で60回唱えられるようになり、それが習慣となって、毎日続けると年間100万回を超えるそうです。

なぜ「ありがとう」なのか。

「ありがとうは幸せ咲かす最高の言葉です。だから人生の幸せはありがとうを言ふ言われるの数量で決まると思います」

これは精神論のように聞こえますが、実は極めて実用的なアプローチでもあります。

心理学的効果: 「ありがとう」を口にすると、脳は自分が感謝している状況を認識します。感謝の感情は、不安や恐怖の感情と同居できません。だから「ありがとう」を唱え続ければ、自然と不安が減り、心が穏やかになります。これは投資判断において決定的に重要です。冷静さこそが、長期投資家の最大の武器だからです。

経営的効果: 竹田製菓では、工場内に子どもの「ありがとう」と録音された声を24時間流し続けているといいます。商品が出荷されるまでに約100万回の「ありがとう」を聞かせる。これは「ありがとうボーロ」というブランディングにもつながっています。

「ありがとうは、ノンリスク・ハイリターン」

竹田氏のこの言葉は、経営者の視点として非常に的を射ています。世の中が不況になると、企業は人件費や広告費や材料費を削って生き残ろうとします。しかし「ありがとう」は元手ゼロで言えます。経費はかかりません。しかも、「ありがとう」を言い合うことで、社内の雰囲気は良くなり、社員はやる気を出し、顧客との関係も改善し、結果として業績にも好影響を及ぼす。

これは投資にも応用できます。投資先の経営者や従業員に対して、「応援しています、ありがとう」という気持ちを持つだけで、自分の投資への向き合い方が変わります。短期的な株価の動きに振り回されることなく、長期的な企業の成長を温かく見守れるようになる。これも、貯徳投資の一形態と言えるでしょう。


第六部:和製バフェット——竹田とウォーレン・バフェットの共通点と相違点

竹田氏は「和製バフェット」とよく呼ばれました。これは敬意を込めた呼び名ですが、実は両者の哲学には驚くべき共通点と、無視できない相違点があります。これを整理しておきましょう。

6-1. 共通点1:長期保有

両者の最大の共通点は、長期保有を徹底することです。

バフェットは「私の好きな保有期間は永遠である」と言っています。一度買った株は、よほどのことがない限り売らない。

竹田氏も同じです。一度買った株は基本的にずっと持ち続け、配当をもらい続ける。値上がりしても安易に売らない。

長期保有が機能する理由は、

  • 取引コスト(手数料、税金)が抑えられる
  • 複利効果が最大化される
  • 一時的な株価変動に振り回されない
  • 企業の長期的な成長を享受できる

ということです。

6-2. 共通点2:割安株への投資

両者とも、割安なときに買うという原則を守りました。

バフェットの師であるベンジャミン・グレアムは「安全余裕度(Margin of Safety)」という概念を提唱しました。本来の価値(内在価値)よりも明らかに安く買うことで、判断ミスのリスクをカバーする、という発想です。

竹田氏のPER・PBR重視、過去の高値からの下落率重視も、まさにこの安全余裕度の発想と一致します。

6-3. 共通点3:財務健全性の重視

両者とも、借金の少ない、財務が健全な会社を好みました。

バフェットは「借金のない会社を好む」と公言しています。理由は、不況時に潰れにくいから。

竹田氏も「つぶれる会社はみんな借金が多い」と言い、株主資本比率の高い会社を選びました。

6-4. 共通点4:「分かるビジネス」への投資

バフェットは「自分が理解できるビジネスにだけ投資せよ」と言います。これが有名な「能力の輪」の概念です。

竹田氏は、山一證券の苦い経験を経て、自分が理解できる中小型株に集中するようになりました。経営者に会いに行き、ビジネスモデルを自分の目で確かめる、というスタイルです。

6-5. 共通点5:群衆心理からの距離

両者とも、群衆と逆の行動を取ることで成功しました。

バフェットの有名な言葉:

他人が貪欲なときに恐れ、他人が恐れているときに貪欲になれ

竹田氏の言葉:

「みんなが熱狂しているときに冷静でいられるか」

考え方は完全に一致しています。

6-6. 相違点1:富の源泉

ここからは相違点です。

バフェットは、投資そのものから巨万の富を築きました。バークシャー・ハサウェイという保険会社を母体にして、その資金を運用することで世界一の投資家になりました。

一方、竹田氏は、まず事業(竹田製菓)で財を築き、そこから投資を始めました。投資はあくまで「事業で得た資金の運用」という位置づけでした。

この違いは、両者のスタンスの違いに表れています。バフェットは「投資のプロ」として企業を分析しますが、竹田氏は「経営者として」企業を見ます。経営者の苦労、財務の意味、人材の重要性などを、肌で知っている。これが竹田氏のユニークな強みだったと私は考えます。

6-7. 相違点2:投資先の規模

バフェットは、コカ・コーラ、アメリカン・エキスプレス、アップルなど、世界的な巨大企業に投資することが多いです。

竹田氏は、日本の中小型株を中心に投資しました。一時は130社以上の大株主だったというのは、まさに中小型株中心の戦略の結果です。

これは、両者の投資環境の違いを反映しています。アメリカ市場は規模が大きいので、巨大企業でも個人の投資チャンスがある。日本市場は相対的に小さく、中小型株の方が個人投資家には有利、という判断があったのでしょう。

6-8. 相違点3:精神性・思想性

バフェットも哲学的な発言は多いですが、基本的には**「投資で勝つ」という目的志向**が強い印象です。

一方、竹田氏は「投資を通じて社会に貢献する」「貯徳する」という、精神性・思想性が極めて強い投資家でした。投資はあくまで「旦那道」の実践の一部であり、目的ではなく手段だったのです。

この違いは、両者の最晩年の活動にも表れています。バフェットは投資家として最後まで現役で、保有株のパフォーマンスを上げ続けることに注力しています。竹田氏は晩年、保有銘柄を絞り込み、その分、貯徳問答講・まろわ講・智徳志士の会といった社会教育活動に注力しました。

6-9. 二人に共通する黄金ルール

マネーボイス掲載の山田健彦氏の論考でも指摘されているように、竹田氏とバフェット氏に共通する「黄金ルール」をまとめると、以下のようになります。

  1. 長期投資を貫く
  2. 割安なときに買う
  3. 財務健全な会社を選ぶ
  4. 自分が理解できる会社にだけ投資する
  5. 群衆と逆の行動を取る勇気を持つ
  6. 経営者の資質を見極める

これは、過去半世紀にわたって、洋の東西で同時に発見されてきた「真理」だと言えるでしょう。


第七部:晩年の戦略変更——なぜ中小型株から大型株へシフトしたのか

竹田氏の投資人生で、もう一つ見逃せないのが晩年の戦略変更です。

7-1. 130社から20社、そして6-7銘柄へ

竹田氏は最盛期、130社以上で大株主に名を連ねていました。しかし2014年8月の時点では、保有銘柄数を約20社にまで絞っていました。さらに最終的には6、7銘柄の大型株に集中する方針だと発言していました。

なぜこのような戦略変更をしたのか。Bloomberg2014年9月16日の記事「竹田和平氏保有株絞る、ROE重視で大型-経営も恩返し大切」によれば、理由は二つだと本人が語っています。

理由1:加齢による多数の小型株運用の難しさ 130社の小型株を管理するのは、相当な労力です。年4回の四季報をチェックし、定期的に経営者と会い、業績の変化を追う——これは現役バリバリの時には可能でも、80歳を超えてくると体力的にも認知的にも限界が見えてきます。

理由2:2011年度の金融・証券税制の改正 2011年(平成23年)の税制改正で、株式投資にかかる税金の優遇措置が縮小されました。これにより、多数の小型株を運用するメリットが相対的に下がりました。

7-2. ROE重視への進化

Bloombergの記事のタイトルにあるように、晩年の竹田氏はROE(自己資本利益率)を重視するようになりました。

ROEとは、

ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100(%)

で計算され、株主が出したお金(自己資本)を使って、どれだけ効率的に利益を生んでいるかを示す指標です。

最盛期の竹田氏は、株主資本比率(財務健全性)を最重視していました。しかし晩年は、ROE(資本効率)を重視するようになりました。これは興味深い変化です。

私の分析では、これは**「攻めの投資」への転換**を意味します。

財務健全性重視は「守り」の投資です。財務が健全な会社は潰れにくいので、安全です。しかし、自己資本を貯め込みすぎてROEが低い会社は、株主の資本を有効活用できていないとも言えます。

晩年の竹田氏は、「ただ財務が健全」というだけでなく、「財務が健全かつ、その資本を有効活用して利益を生んでいる」会社、つまり質の高い大企業にフォーカスするようになったのです。

これは、世界の投資哲学の進化とも整合します。1980年代以降、アメリカの大手投資家たちは「Quality(質)」を重視するようになってきました。財務健全性に加えて、ROEや営業利益率の高さ、参入障壁の強さなど、企業の「質」を多面的に評価する。

竹田氏は晩年、独自に同じ結論に到達していたわけです。

7-3. 「経営も恩返しが大切」——晩年の心境

Bloombergのタイトルにある「経営も恩返し大切」という言葉も興味深いです。

晩年の竹田氏は、自分が築き上げた財産を、社会にどう還元するかを真剣に考えるようになっていました。投資のリターンを最大化するというより、「お世話になった世の中に恩返しをする」というスタンスです。

これは2006年から始めた「ありがとう百万遍の和」「貯徳問答講」「まろわ問答講」、そして晩年最も力を入れた「智徳志士の会」といった社会教育活動にもつながります。日本の未来を担う人材を育てることが、自分の最後の仕事だ、と考えていたのです。

7-4. 戦略変更から学べること

竹田氏の戦略変更から、私たちは何を学べるでしょうか。

第一に、自分の状況の変化に応じて、戦略を柔軟に変えるべきだということ。若いときと年を取ってからでは、最適な戦略は違います。資金量が増えれば、扱える銘柄数は減ります。税制が変われば、それに合わせて対応する必要があります。

第二に、「シンプルさへの回帰」。130社から6-7銘柄への絞り込みは、まさにこれです。年を取れば取るほど、本当に重要なものに集中するべきだ、という哲理です。これは投資だけでなく、人生そのものにも通じます。

第三に、自分の哲学の核心は変えないこと。竹田氏は中小型株から大型株にシフトしましたが、「割安なものを買う」「財務健全なものを買う」「長期保有する」という核心は最後まで変えませんでした。柔軟に変えるべきは戦術であり、戦略の核心ではないのです。


第八部:竹田和平の名言を読み解く

ここでは、竹田氏が遺した数々の名言を、文脈を踏まえて深く読み解いていきます。

8-1. 投資の本質を突く名言

「株であれ何であれ、自分で判断して自分の責任において買うべきです。株は自己反省であり、日々、勉強」

これは投資の根本姿勢を表す言葉です。

「自分で判断して自分の責任において買う」——当たり前のようで、これができていない投資家がほとんどです。誰か(YouTuber、SNSの有名人、評論家、知人)の推奨で買って、損をすると「だまされた」と言う。これでは成長しません。

竹田氏が言いたいのは、「最終的な判断は必ず自分でする。だから、損しても誰のせいでもない。すべては自分の学びだ」ということです。

「株は自己反省であり、日々、勉強」。この言葉は、株式投資が単なる金儲けではなく、自己成長の手段であることを示しています。失敗すれば反省し、改善する。成功してもおごらず、学び続ける。これが竹田流の姿勢でした。

「株に絶対はないし、株価が思惑に反して上下するのは当然のこと。だから誰でも必ず失敗する。問題はそこから先で、失敗から何を学べるか。失敗して、損した結果が全てを教えてくれる」

この名言は、現代の投資家にとって極めて重要です。

「株に絶対はない」——これは投資の絶対真理です。どんなに完璧に分析しても、外れることはあります。

「だから誰でも必ず失敗する」——竹田氏のような「日本一の投資家」でさえ、失敗を経験しているのです。山一證券での損失はその最たる例。

「問題はそこから先で、失敗から何を学べるか」——失敗そのものは避けられない。重要なのは、その失敗を活かせるかどうかなのです。

「失敗して、損した結果が全てを教えてくれる」——これは含蓄が深い。本やセミナーで学んだことは、しょせん他人の経験です。本当の学びは、自分が損をした経験からしか来ません。だから損は授業料、と考えるべきなのです。

「経営者がお役所感覚だったり、天下り感覚だったりするような会社には、絶対に投資してはダメ」

これも前述しましたが、改めて重要な名言です。

「お役所感覚」「天下り感覚」——これは具体的に何を指すのか。

  • 失敗を恐れて挑戦しない
  • 既得権益を守ることを最優先する
  • 自分のリスクで決断しない
  • 出世競争に勝つことばかり考える
  • 株主や顧客より、組織内政治を優先する
  • 任期中の無事を最重要視する

こういう経営者の会社は、たとえ業績が一時的に良くても、長期的には必ず衰退します。逆に、自分のリスクで挑戦し、株主や顧客のために必死で経営する経営者の会社は、たとえ業績が一時的に悪くても、長期的には必ず復活します。

これは現代の日本企業を見ても、嫌というほど実証されています。

8-2. お金の本質に関する名言

「お金は単なるエネルギーなんだから、エネルギーの使い道がはっきりしていれば、天はちゃんとお金をくれるよ。なんのために儲けるか。ほんとのポイントはそこ」

これは竹田氏の独特な金銭観を象徴する言葉です。

お金を「エネルギー」と捉える。これは仏教やニューエイジ思想に通じる発想です。お金は実体のあるモノではなく、流れる「エネルギー」だ。流れがあれば、自然と集まってくる。流れを止めて溜め込もうとすると、かえって離れていく。

なんのために儲けるか」——これが核心です。

ただ単に「お金がほしい」「金持ちになりたい」というだけでは、お金は集まってこない、と竹田氏は言います。「このお金を使って、何をしたいのか。何を世の中に提供したいのか」が明確であれば、お金は自然と集まってくる。

これは「Why」から始めよ、という現代の経営理論(サイモン・シネック)とも通じます。「何のために」が明確な企業や個人は、必然的に強くなる。これを30年以上前から実践していた竹田氏は、思想家としてもかなり先進的だったと言えるでしょう。

「お金なんてある程度貯まったら、それ以上は一人で使い切ることなんてできません。人のために使うしかなくなるんです」

これは、晩年の竹田氏の境地を表す言葉です。

お金を稼ぐ初期段階では、自分のため、家族のために使います。生活水準が上がり、家を買い、車を買い、子どもを教育する。

しかし、ある程度を超えると、もう自分一人(または家族)のためには使い切れなくなります。豪邸を10軒持っても住めないし、高級車を100台持っても乗れない。となれば、お金は「人のために使うしかなくなる」のです。

晩年の竹田氏は、自身の財産を「智徳志士の会」のような次世代育成活動に投じていました。これは「お金は所詮、社会から預かったもの。社会に返すのが筋」という哲学の実践です。

これは、富裕層が一定の段階で慈善活動に乗り出す世界共通の現象を、シンプルに言語化したものとも言えます。アンドリュー・カーネギーが「金持ちのまま死ぬのは恥」と言ったのと同じ精神です。

8-3. 人生哲学に関する名言

「天が見るよ」

これは、竹田氏が祖母から教えられた言葉だそうです。

「『天が見るよ』とよく教えてくれた祖母の言葉は生涯の宝となりました。良い子でいる時、天は母のように優しく、悪い子になると天は父のように恐く、そして天からは決して逃げられない」

シンプルですが、これほど強い倫理規範はないでしょう。

天が見ている」という意識を持つと、誰も見ていなくても悪いことをしなくなります。逆に、誰にも知られなくても良いことをしようと思えます。

これは投資にも応用できます。インサイダー取引、不正な情報操作、誇大広告——これらは「天が見ている」と思えば、できなくなる。だからこそ竹田氏は、生涯クリーンな投資家であり続けました。

「変化の波には積極的に乗ってみる。そうすると、新しい世界が見えてくる」

これは竹田氏の柔軟性を示す言葉です。

「割安・財務健全な株を買う」という核心は変えなかった竹田氏ですが、戦術は時代に合わせて柔軟に変えました。先述したように、晩年は中小型株から大型株へ、株主資本比率重視からROE重視へとシフトしました。

「変わるべきではないもの」と「変わるべきもの」を見極める知恵。これは長期投資家にとって決定的に重要です。

「先頭でないと感じられない風の匂いがあるのと同じように、周回遅れでないと見えない景色もあります」

これは、私が竹田氏の名言の中で最も好きなものの一つです。

世の中は、「最先端」を尊重する傾向があります。AIだ、Web3だ、量子コンピュータだと、最先端のテーマには資金が集まり、注目が集まります。

しかし竹田氏は逆を行きました。「周回遅れでないと見えない景色もある」のです。

具体的には、地味な中小型株、誰も注目していない業種、何年も停滞している会社——こういうところに、本当のお宝が眠っている。最先端のテーマ株は、すでに買われすぎていて割安ではない。一方、誰も見向きもしない業種には、まだ気付かれていない優良企業が眠っている。

この発想は、「他人と同じことをしていては勝てない」という、彼の少年時代からの信念の延長線上にあります。

「明日というのは、『どうなる』じゃないんですよ。明日は我々が『創る』んです」

これは、経営者・実業家としての竹田氏の言葉です。

明日は予測するものではない。明日は自分で創るもの。これは投資にも応用できます。

「明日株価がどうなるか」を予測しようとする投資家は失敗します。なぜなら、株価は予測不能だから。しかし、「明日、自分はどう行動するか」は自分で決められます。割安な優良株を買う、配当をもらう、長期保有する、貯徳する——これらはすべて自分の意志で決められる行動です。

予測の世界から、行動の世界へ。これが竹田流のもう一つの極意だと、私は考えます。

8-4. 経営者・投資家としての名言

「人と比べず、競わず、競争相手のいないところをゆっくり走った方がいい」

これは、現代の競争至上主義へのアンチテーゼです。

競争相手のいないところ」とは何か。これは経営学でいう「ブルーオーシャン戦略」と完全に一致します。みんなが競争している市場(レッドオーシャン)ではなく、まだ誰も気付いていない、競争のない市場(ブルーオーシャン)を見つけ、そこでゆっくり仕事をする。

竹田氏自身、ボーロ菓子の機械化、レジャーセンターの先駆け、お菓子のテーマパーク、純金歴史博物館——どれも「競争相手の少ないところ」を狙ってきた経営者です。

投資にも応用できます。みんなが買っている人気株(レッドオーシャン)ではなく、誰も見向きもしない地味な優良株(ブルーオーシャン)を買う。これが竹田流のバリュー投資です。

「本当の商売上手は、まず相手に儲けさせ、お客さんに喜んでもらい…と遠回りを厭(いと)いません」

これは経営の本質を突く言葉です。

短期的な利益を追求する商売人は、お客から搾り取ろうとします。しかし、それでは長期的にお客は離れます。

長期的に成功する商売人は、まずお客に喜んでもらうことを優先します。お客が喜べば、リピートしてくれる。口コミで広がる。信頼が積み重なる。結果として、長期的には大きな利益になる。

「遠回り」を厭わない——これが本当の商売の極意。

これは投資にも応用できます。「短期的に儲けよう」とすると、デイトレードや短期売買に走ります。しかし、「応援したい会社にじっくり投資する」という遠回りをすれば、長期的にはずっと大きな成果が得られる。

8-5. 失敗と再起に関する名言

「市場で生きている人が市場に見放されたら、自分を変えるしか方法はない」

これは、経営者にとっても投資家にとっても、極めて重要な姿勢です。

市場とは何か。それは、お客の集合体、株主の集合体、社会の集合体です。市場が「もうあなたの製品はいらない」「もうあなたの会社の株はいらない」と言ったとき、どうすべきか。

「市場が悪い」「お客が分かっていない」と恨むのは間違い。自分を変えるしかないのです。

これは「他責思考」から「自責思考」への転換を促す名言です。竹田氏自身、ボウリング場ブームが終わったとき、土地が暴落したとき、山一證券が破綻したとき、すべて「自分が変わるべきだ」と捉え、戦略を変えてきました。これが彼の長寿の秘訣でした。

「自分を否定しようとする人が現れたら、そんなとき、これはきっと何か自分を発奮させるための意味があるんだろうと、僕は考えるようにしています」

これは、人生における困難の捉え方を示す名言です。

人生にはいろんな人が現れます。中には、自分を否定したり、批判したり、攻撃したりする人もいます。普通なら腹が立ち、落ち込みます。

しかし竹田氏は逆。「これは自分を発奮させるための意味がある」と捉えるのです。

この姿勢があれば、すべての困難が成長の糧になります。投資でも経営でも、人生でも、これほど強い心の持ち方はないでしょう。


第九部:他の日本人投資家との比較——竹田哲学の独自性

竹田和平氏の哲学を、他の著名な日本人投資家と比較することで、その独自性がより明確になります。

9-1. 澤上篤人氏との類似——「企業を応援する投資」

竹田氏の哲学に最も近い日本人投資家の一人が、**澤上篤人(さわかみ あつと)**氏です。澤上氏はさわかみ投信の創業者で、「長期投資」の伝道者として知られます。

両者の共通点は、

  • 長期投資を重視
  • 企業を応援するという姿勢
  • 短期的な値動きに惑わされない
  • 配当を含めたトータルリターンを重視

特に「企業を応援する」という姿勢は、両者に共通する根本思想です。投資を単なるお金儲けではなく、社会への貢献として捉える。これが日本的な長期投資の特色とも言えるでしょう。

ただし、澤上氏はファンドマネージャーとして他人の資金を運用する立場で、竹田氏は自己資金で投資する個人投資家、という違いはあります。それでも、両者に流れる哲学は驚くほど似ています。

9-2. 清原達郎氏との接点——「割安小型株」「四季報の徹底活用」

近年、『わが投資術 市場は誰に微笑むか』という著書で大きな話題を呼んだ**清原達郎(きよはら たつろう)**氏も、竹田哲学との接点が多い投資家です。

清原氏はタワー投資顧問の運用責任者として、2005年に長者番付トップに立ったことで知られます。彼の投資手法も、

  • 割安な小型株への集中投資
  • 四季報の徹底活用
  • 自分が分かる範囲での投資

など、竹田流と多くを共有しています。

両者の違いは、清原氏が機関投資家(プロのファンドマネージャー)であり、ヘッジファンド的な手法も使うのに対し、竹田氏は個人投資家としてシンプルな手法を貫いた点でしょう。

しかし、根本のところで「割安で財務健全な小型株を選び抜く」という発想は完全に共通しています。日本の優れた投資家たちが、独立に同じ結論に到達しているのは、それが普遍的真理であることの証左です。

9-3. 藤野英人氏への影響——「ありがとう」の継承

レオス・キャピタルワークスの**藤野英人(ふじの ひでと)**氏は、「ひふみ投信」で知られる現役のファンドマネージャーです。藤野氏もまた、竹田氏の影響を受けた一人です。

特に「ありがとう」の精神について、藤野氏が竹田氏に通じる発言をしていることはよく知られています。投資先企業への感謝、運用を任せてくれる顧客への感謝、市場という存在への感謝——藤野氏の発信には、明らかに竹田哲学の継承が感じられます。

これは、世代を超えて思想が引き継がれている好例です。竹田氏が亡くなってからも、彼の精神は日本の投資文化の中に脈々と生き続けているのです。

9-4. 邱永漢氏との対比——「お金儲け」と「お金の哲学」

お金儲けの神様」と呼ばれた**邱永漢(きゅう えいかん)**氏とも、興味深い対比ができます。

邱氏も日本を代表する投資家の一人でしたが、彼の哲学は「いかに上手にお金を稼ぐか」というプラグマティックな色合いが強かったと言えます。著書のタイトルも『お金持ちになれる人 なれない人』など、お金そのものにフォーカスしたものが多いです。

一方、竹田氏は「お金を通じて何を成し遂げるか」「いかに徳を積むか」という、より思想的・倫理的な色合いが強い。「貯徳」「ありがとう」「旦那道」——これらは邱永漢哲学には現れないキーワードです。

両者は同じ「成功した投資家」というカテゴリーに入りますが、思想的なベクトルは大きく異なります。日本の投資文化が「プラグマティズム」と「精神主義」の両方を含む豊かさを持っているのは、こうした多様な巨人たちのおかげなのです。

9-5. 是川銀蔵氏との比較——「相場師」と「旦那」

戦後の日本を代表する個人投資家として、**是川銀蔵(これかわ ぎんぞう)**氏の名前は外せません。「最後の相場師」と呼ばれた人物です。

是川氏は1980年代に住友金属鉱山の株で大儲けし、長者番付1位になったこともある伝説の投資家です。

竹田氏と是川氏は、同じ「個人投資家として大成功した」という点では共通しますが、スタイルは正反対です。

  • 是川氏:「相場師」。マクロ経済を読み、大胆に張る。短期から中期の値動きで儲ける。
  • 竹田氏:「旦那」。財務分析を地道にし、応援したい会社に長期投資する。配当でも値上がりでも儲ける。

是川氏の手法は、卓越した相場観と度胸が必要で、誰にでも真似できるものではありません。一方、竹田氏の手法は、四季報を読み、シンプルな基準で銘柄を選び、長期保有する——これなら誰でも真似できます。

誰でも真似できる方法で日本一になった」というのが、竹田流の凄みなのです。


第十部:現代の個人投資家への教訓——竹田哲学を新NISA時代にどう活かすか

ここからは、令和の時代を生きる私たち個人投資家が、竹田哲学から具体的に何を学び、どう活かせるかを考えていきます。

10-1. 新NISAと竹田哲学の親和性

2024年から始まった新NISA(少額投資非課税制度)は、まさに竹田哲学を実践するのに最適な制度だと私は考えています。

新NISAの特徴は、

  • 非課税保有限度額1800万円
  • 年間投資枠360万円(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円)
  • 売却すると枠が翌年復活する
  • 非課税保有期間が無期限

この制度は、短期売買には向きません(枠を復活させるのに1年かかる)。むしろ長期保有・複利運用に最適化された制度です。

竹田流のように、「割安な優良株を買って長期保有し、配当をもらい続ける」というスタイルは、新NISAの設計思想と完全に一致します。配当も売却益も非課税なので、税金を気にせず長期投資できるのです。

10-2. 「四季報を読む」という原点回帰

ネット時代の投資家は、ともすればスマートフォンのアプリだけで投資判断をしてしまいます。リアルタイムの株価チャート、ニュース速報、SNSの口コミ——これらに振り回されると、長期視点を失います。

竹田氏に倣って、年4回、新しい会社四季報を手に取って通読する——これだけで、投資との向き合い方が変わると私は思います。

紙の四季報を買う必要はありません。電子版でも、四季報オンラインでもいいでしょう。重要なのは、**「立ち止まって、じっくり読む」**という習慣を作ることです。

3800社の中から、自分の興味のある業種、財務健全そうな会社、配当をしっかり出している会社をピックアップしていく。これだけで、SNS情報に依存しない、自分自身の投資判断軸が育っていきます。

10-3. 配当重視投資の現代的意義

竹田氏が重視した「配当」は、現代日本でますます重要性を増しています。

理由は、

  • 日本企業の株主還元意識が高まっている
  • 東証がPBR1倍割れ企業に改善を要請
  • 累進配当(減配しない宣言)を打ち出す企業が増加
  • 配当性向の引き上げが進行中

つまり、今の日本市場は「配当重視投資」をするのに歴史的に絶好の環境なのです。

具体的には、

  • 予想配当利回り3%以上
  • 自己資本比率50%以上
  • 過去10年で減配なし
  • PER15倍以下
  • PBR1.5倍以下

このような銘柄を、新NISAの成長投資枠で長期保有する。これは竹田流の現代版として、極めて有効な戦略だと私は考えます。

10-4. 「応援したい会社」を持つことの重要性

現代の投資は、ともすれば「数字だけ」「指標だけ」になりがちです。インデックス投資の隆盛もあり、個別企業への愛着を持たない投資家が増えています。

しかし竹田氏が強調したように、「応援したい会社を持つ」ことは、長期投資の精神的な支えになります。

具体的には、

  • 自分が使っている製品の会社
  • 社会に必要な事業をしている会社
  • 経営者の生き方に共感できる会社
  • 地元の優良企業

こういう会社を見つけて、自分の「ポートフォリオの中核」に置く。すると、市場が暴落しても、慌てて売らずに済みます。「私はこの会社を応援している。だから手放さない」——この姿勢が、長期投資を支えるのです。

10-5. 「ありがとう」の実践——市場との健全な関係

「ありがとうを3000回」というのは現代人には少し非現実的かもしれません。しかし、その精神は応用できます。

具体的には、

  • 投資先企業に「ありがとう」と思う(配当をくれて、商品を提供してくれて)
  • 市場に「ありがとう」と思う(投資の機会を提供してくれて)
  • 自分自身に「ありがとう」と思う(投資する勇気を持てて)
  • 損したときも「ありがとう」と思う(学びをくれた)

これだけでも、投資との向き合い方が変わります。感謝の気持ちで投資する人は、欲望や恐怖に振り回されにくくなる。これは精神論ではなく、実際的なリスク管理の手法なのです。

10-6. 「自分の能力の輪」を知る

竹田氏が山一證券の失敗から学んだ「自分が理解できる範囲で勝負する」という原則は、現代の投資家にこそ必要です。

具体的には、

  • 自分が理解できる業種に絞る
  • 自分が使ったことのある製品・サービスの会社を選ぶ
  • 仕組みが複雑すぎる金融商品は避ける
  • 「みんなが買っているから」だけでは買わない

これだけで、大きな失敗の8割は防げると私は考えます。竹田氏のように、自分の「能力の輪」を明確にし、その中でじっくり投資する——これが新NISA時代の賢い個人投資家の姿勢です。

10-7. 失敗から学ぶ——「損は授業料」

竹田氏は山一證券で大損したことを、隠さず公にしました。「失敗は誰でもする。問題はそこから何を学ぶか」という姿勢です。

現代の私たちも、必ず損をします。これは確実です。問題は、その時にどう振る舞うかです。

  • 損したことを誰かのせいにする → 成長しない
  • 損したことから学び、戦略を改善する → 成長する

竹田氏は後者を選びました。山一證券の失敗から「大企業より中小企業」「分かるビジネス」という原則を確立し、その後の成功につなげました。私たちも、損したらまず**「これは何を教えてくれているのか」**と自問する習慣を持ちたいものです。


第十一部:私の独自分析——竹田哲学の三層構造

ここで、私自身の独自の分析として、竹田哲学を三層構造として整理してみたいと思います。

11-1. 第一層:技術的な投資手法

最も表面的な層は、技術的な投資手法です。

  • 会社四季報の活用
  • 株主資本比率・PER・PBRなどの財務指標
  • 配当利回りの重視
  • 割安株への投資
  • 長期保有

この層は、本やインタビューで学べる「How to」の部分です。誰でも真似することができます。多くの投資家が、この技術的な層だけを真似して「竹田流投資」を実践しようとします。

しかし、技術的な層だけを真似ても、本当の意味で竹田氏のような成功は得られません。なぜなら、技術の下にあるもっと重要な層があるからです。

11-2. 第二層:心理的な投資姿勢

技術的な層の下には、心理的な投資姿勢があります。

  • 群衆と逆の行動を取る勇気
  • 値動きに振り回されない冷静さ
  • 失敗から学ぶ謙虚さ
  • 自分で判断する責任感
  • 自分の能力の輪を知る賢明さ

この層は、技術よりはるかに難しい部分です。なぜなら、これは「学ぶ」というより「鍛える」「身につける」ものだからです。

竹田氏がこの心理的な層を身につけられたのは、戦時中の苦難、家業継承の苦労、ボウリング場ブームの崩壊、山一證券の失敗——こうした長年の経験を通じてだったと考えられます。

私たちも、この層を鍛えるには、自分自身の経験を積むしかありません。本やセミナーで学べるのはきっかけだけ。本当の身に着けるには、実際に投資して、痛い目に遭って、そこから立ち直る——その過程が必要なのです。

11-3. 第三層:思想的・哲学的な土台

そして最も深い層が、思想的・哲学的な土台です。

  • 投資は世の中への貢献
  • 旦那道——器の大きい人として生きる
  • 貯徳——徳を貯める
  • ありがとう——感謝の心
  • お金は所詮エネルギー
  • 喜びは増殖する
  • 天が見ている

この最も深い層こそが、竹田哲学の真髄です。

そして、この層は最も真似が難しい。なぜなら、これは投資の技術というより、人としての生き方だからです。

竹田氏がこの思想的な土台を持っていたからこそ、

  • バブルに踊らされなかった
  • 暴落時に冷静でいられた
  • 失敗を糧にできた
  • 長期投資を貫けた
  • 晩年は社会還元に注力できた

この層なくして、技術や心理だけ真似しても、結局は短期的な利益追求に走り、長続きしません。

11-4. 三層を統合する——竹田哲学の全体像

竹田哲学を理解するには、三層を統合して捉える必要があります。

思想(第三層)が心理(第二層)を支え、心理が技術(第一層)を導く

逆に言えば、技術だけ真似ても、心理が伴わなければうまくいかない。心理を鍛えても、思想がなければ持続しない。

竹田氏の成功は、三層がすべて整っていたからこそだと私は考えます。そして、私たち一般の投資家が竹田流を学ぶときも、技術だけでなく、心理と思想までを意識的に学ぶ必要があるのです。


第十二部:竹田哲学の限界と現代的な批判的検証

竹田氏を礼賛するだけでは、フェアな分析にはなりません。ここでは、彼の哲学の限界や、現代的に見直すべき点についても触れておきます。

12-1. 時代背景の追い風

竹田氏が最も大きく稼いだのは、1990年代後半から2000年代前半、いわゆる「失われた10年/20年」の終盤から、その後の回復期にかけてです。

水澤潤氏の本にも書かれているように、「日本株がいちばん安かったここ数年に、一気に日本一の個人投資家になった」のです。

つまり、彼は**「歴史的な底値圏で買えた」**という時代の追い風を受けています。割安な優良中小型株が、文字通り「投げ売り」されていた時代です。

私が指摘したいのは、同じ手法を「2024年の高値圏」で実践しても、同じ結果は得られないということです。

竹田流バリュー投資は、

  • 市場が大きく下落しているとき
  • 多くの優良企業が割安に放置されているとき
  • 配当利回りが歴史的に高くなっているとき

こういう局面で、最も力を発揮します。

逆に、市場全体が割高な時期(現在のような)では、「割安な優良株を買う」というシンプルな原則を貫いても、なかなか買える銘柄が見つかりません。

これは竹田哲学の限界というより、バリュー投資全般の宿命です。バリュー投資は「割安な時に買う」のが大原則なので、割安な時期が来るまで「待つ」しかありません。竹田氏自身、若い頃は事業に専念し、株式投資は1990年代後半まで本格化させなかった、というのが事実です。

現代の私たちも、「**いつでも買える」のではなく、「買える時期を待つ」**という忍耐が必要だ、というのが竹田哲学から学ぶべき重要な教訓です。

12-2. 個別株集中投資のリスク

竹田氏は、最盛期には130社以上の個別株を保有していました。これは現代的な「分散投資」の発想からすれば異例の多さです。一方、最終的には6-7銘柄に集中させる方針でした。

このどちらも、現代のポートフォリオ理論からすると最適とは言えない部分があります。

  • 130社は管理しきれない
  • 6-7銘柄では銘柄固有リスクが大きい

現代の理論では、20-30銘柄程度の分散が最適とされています。

ただし、私が補足したいのは、竹田氏は**「分散」を信じていなかったわけではない**ということです。彼の130社は、業種・規模・地域などで自然と分散していました。そして晩年の6-7銘柄は、すべて財務が極めて健全で、互いに業種が異なる大型株でした。

つまり、表面的な銘柄数ではなく、実質的なリスク分散は意識していたわけです。

それでも、「インデックス投資」のようなマーケット全体への分散と比べれば、個別株集中型の竹田流は、相対的にリスクが高いのは事実です。

現代の個人投資家が竹田流を実践するなら、

  • インデックス投資をコア(中核)に置き
  • 個別株は応援したい会社に絞ってサテライト(衛星)として保有

という「コアサテライト戦略」を組むのが、より現実的でしょう。

12-3. スピリチュアル要素への賛否

竹田氏の哲学には、「金刀比羅宮でのスピリチュアル体験」「ありがとうの波動を商品に伝える」「天が見ている」など、現代の科学的合理主義からすると、やや受け入れがたい要素が含まれます。

これをどう評価するか。

私の立場は、**「スピリチュアルな部分を表面的に真似する必要はないが、その奥にある合理性は学ぶべき」**というものです。

たとえば「ありがとうの波動」というのは、科学的には実証されていません。しかし、

  • 「ありがとう」と言い続けることで、自分の心が穏やかになる
  • 社内に「ありがとう」が飛び交うことで、組織の雰囲気が良くなる
  • 顧客への感謝が伝わることで、信頼関係が築かれる

——こうした効果は、心理学的・経営学的に十分根拠があります。

竹田氏のスピリチュアルな表現は、彼の独自の言語化であって、その本質は極めて合理的な心理操作・組織運営の技法だと私は捉えています。

12-4. 日本市場依存の問題

竹田氏は、ほぼ100%日本企業に投資していました。これは戦後昭和の世代としては自然なことですが、現代的には国際分散投資の観点から見直すべき部分です。

日本経済は人口減少・高齢化という構造的な逆風に直面しています。日本企業だけに集中投資することは、それなりのリスクを伴います。

現代の個人投資家は、竹田流の哲学(長期・割安・健全)を、日本だけでなく全世界の優良企業に適用することが望ましいでしょう。アメリカ株、欧州株、新興国株——それぞれに「割安な優良企業」が存在します。

12-5. 配当重視の現代的見直し

竹田氏は配当を非常に重視しました。これは1990年代から2000年代の日本市場において、特に有効な戦略でした。

しかし、現代では「配当より自社株買いの方が株主還元として効率的」という考え方も主流になっています。配当は二重課税(法人税と所得税)になりますが、自社株買いはそうではないからです。

竹田氏が活躍した時代と、現代では、株主還元のあり方が変わっています。配当だけでなく、**「総還元利回り(配当+自社株買い)」**で見ることが、現代的な進化と言えるでしょう。


第十三部:竹田哲学を実践する——具体的なアクションプラン

ここまで竹田哲学を多角的に分析してきました。最後に、これを実際にどう実践するか、具体的なアクションプランを提案します。

13-1. ステップ1:思想を学ぶ

まず、竹田氏の著書を1〜2冊読むことから始めましょう。おすすめは、

  • 『人とお金に好かれる「貯徳」体質になる!』(講談社) — 竹田氏自身の言葉で哲学が語られている
  • 『花のタネは真夏に播くな』(水澤潤、文春文庫) — 水澤氏の取材を通じて、投資手法が分かりやすく整理されている

これらを読み、竹田哲学の三層構造(技術・心理・思想)を頭に入れます。

13-2. ステップ2:四季報を手に取る

会社四季報の最新号を購入します。紙でもオンラインでも構いません。

最初は通読する必要はありません。自分の興味のある業種、地元の企業、自分が使っている製品の会社など、身近なところから読んでいきます。

慣れてきたら、自分なりのスクリーニング基準を作ります。たとえば、

  • 自己資本比率50%以上
  • 配当利回り3%以上
  • 過去10年連続配当
  • PER15倍以下
  • PBR1.5倍以下

こうした条件に当てはまる銘柄を、四季報の中から探していきます。

13-3. ステップ3:「応援したい会社」を3-5社選ぶ

スクリーニングで絞り込まれた候補の中から、「応援したい」と心から思える会社を3-5社選びます。

選ぶ基準は、

  • 自分が使っている製品・サービスの会社
  • 経営者の生き方に共感できる会社
  • 社会に貢献している実感がある会社
  • 地元の優良企業

数字だけでなく、感情も大事にすることが、竹田流の特徴です。

13-4. ステップ4:新NISAで長期保有する

選んだ会社を、新NISAの成長投資枠で買います。

買うタイミングは、焦らないことが大事です。竹田氏の言うように「値上がりを期待して買う」のではなく、配当をもらうために買うのですから、株価が下がっているときに買うのが理想です。

買ったら、基本的に売らない。最低5年、できれば10年、20年と持ち続けます。

13-5. ステップ5:「ありがとう」と「貯徳」の実践

投資を始めたら、

  • 投資先企業に感謝する
  • 配当をもらえることに感謝する
  • 自分が投資できる状況に感謝する
  • 損したときも学びに感謝する

そして、得られた利益の一部を社会に還元することを考えます。

寄付でも、ボランティアでも、家族や友人への贈与でもいい。何らかの形で「貯徳」を実践することで、お金は「自分のため」だけでなく「世のため」にも流れていきます。

竹田氏が晩年に注力したように、お金は所詮ゼロサムですが、徳と喜びは増殖します。これが本当の「豊かさ」なのです。

13-6. ステップ6:四半期に1回、定点観測する

会社四季報は年4回発行されます。新しい号が出るたびに、保有銘柄の業績や見通しを確認します。

ただし、毎日株価をチェックする必要はありません。むしろ、それをやめることが竹田流です。年4回、四季報で確認すれば十分。それ以外の時間は、自分の本業や家族や趣味に使うべきです。

13-7. ステップ7:継続する——20年、30年と

竹田流の真髄は、**「継続する」**ことです。

5年、10年、20年と続けることで、複利の力が働き、配当が積み上がり、応援した会社が成長し、自分の資産も自然と増えていく。

短期で結果を求めない。焦らない。比較しない。淡々と続ける。

これが、竹田氏が遺してくれた、最大の教えだと私は考えています。


第十四部:竹田和平のレガシー——彼が遺したもの

竹田和平氏は2016年7月21日、83歳で亡くなりました。「和製バフェット」と呼ばれた日本一の個人投資家、そして「平成の花咲爺」とも呼ばれた思想家。

彼が遺したものは、単なる富ではありません。それは——

14-1. 投資哲学のレガシー

彼が示した投資哲学は、世代を超えて受け継がれています。

  • 「シンプルさの力」
  • 「割安・健全・長期保有」
  • 「四季報の徹底活用」
  • 「経営者を見る目」
  • 「応援する投資」

これらは、新NISA時代の今こそ、より多くの人に伝えるべき知恵です。

14-2. 思想のレガシー

「貯徳」「旦那道」「ありがとう」——彼が遺した言葉は、投資の枠を超えて、人生哲学として今も多くの人に影響を与えています。

晩年に主宰した「智徳志士の会」は、彼の死後も活動を続けています。日本の未来を担う人材を育てるという、彼の最後の願いが、人から人へと受け継がれています。

14-3. 製品のレガシー

タマゴボーロは、今も日本中の子どもたちに食べられています。子どもが初めて口にするお菓子の一つとして、世代を超えて親しまれています。竹田氏が機械化に踏み切らなければ、この国民的お菓子は存在しなかったかもしれません。

14-4. お菓子の城のレガシー

愛知県犬山市の「お菓子の城」は、今も観光地として人気を博しています。お菓子作り体験ができる、子どもたちにとっての夢の城。これも竹田氏のレガシーです。

14-5. そして、私たち一人ひとりへのレガシー

最後に、最も大事なレガシーは、私たち一人ひとりが受け取れる教えです。

  • 群衆と逆の道を行く勇気
  • 当たり前のことを当たり前にやり続ける愚直さ
  • 失敗を糧にする謙虚さ
  • 世のため人のために働くという志
  • そして、すべてに「ありがとう」と言える心

これらは、投資の世界だけでなく、人生のあらゆる場面で、私たちを導いてくれる宝物です。


第十五部:結論——竹田和平哲学の永遠性

長い旅でした。ここまで読んでくださった方には心から感謝します。

竹田和平氏の投資哲学を改めて振り返ってみると、その本質は驚くほどシンプルです。

「割安な、財務健全な、応援したい会社を、自分でしっかり判断して買い、長く持ち、配当をもらいながら、世の中の旦那として生きる。すべてのことに『ありがとう』と感謝しながら」

これだけです。

しかし、このシンプルさを貫くことが、いかに難しいか。市場の喧騒、情報の洪水、群衆の熱狂と恐怖の中で、自分の軸を保ち続けることが、いかに困難か。

竹田氏は、それを生涯にわたって貫きました。だからこそ、彼は「日本一」になれたのです。

そして、彼が遺した最も大きな教えは、結局のところ——

「投資とは、人生そのものである」

ということだと、私は考えています。

人生において、慌てず、焦らず、群衆に流されず、自分の信じる道を歩み、人に感謝し、世のために尽くす——そういう生き方ができる人は、投資でも自然と成功する。

逆に、人生において、慌て、焦り、群衆に流され、感謝を忘れ、自分のことばかり考える人は、投資でもうまくいかない。

投資技術を磨くことも大事ですが、それ以上に、自分自身を磨くことが、長期投資家としての成功の鍵なのです。

竹田和平氏は、私たちに「投資の技術」だけでなく、「生き方そのもの」を遺してくれました。

その教えを胸に、私たちも、自分なりの「令和の旦那道」を歩んでいきたいものです。


第十六部:補足——竹田和平に関する豆知識とエピソード

最後に、竹田氏に関するいくつかの興味深いエピソードを補足しておきます。

16-1. 中部日本放送(CBC)の大株主

竹田氏は、地元名古屋の中部日本放送(CBC)の大株主としても知られていました。地元のメディア企業を支援することも、彼の旦那道の一環だったと言えるでしょう。

16-2. 純金恵比寿像の奉納

1988年、香川県の金刀比羅宮で何らかのスピリチュアルな体験をした竹田氏は、純金4kgを使った恵比寿像を奉納しました。これは現在でも金刀比羅宮で見ることができます。

16-3. 100万回の「ありがとう」と工場

竹田本社の製造工場内では、商品が出荷されるまでに約100万回の「ありがとう」と録音された子どもの声を聞かせるという独自の取り組みを行っています。これは「ありがとうボーロ」というブランディングにもつながっています。

16-4. 暴走族への説教エピソード

水澤潤氏の本の中に、竹田氏が地元の暴走族に時給1000円を払って集めて説教したというエピソードがあります。若者を見捨てず、自分の経験を伝えようとした竹田氏の人柄を表す逸話です。

16-5. 誕生祝金メダル

平成12年(2000年)から、少子化対策のため、生まれてくる赤ちゃんを励ます「誕生祝金メダル」のプレゼントを始めました。お金を稼ぐだけでなく、「次の世代のために何ができるか」を真剣に考え続けた人だったのです。

16-6. 個人秘書・真田英里さん

竹田氏の最後の個人秘書は真田英里さんという女性で、『花のタネは真夏に播くな』文庫版の解説を執筆しています。竹田氏の晩年の活動を支えた重要な人物です。

16-7. 一周忌の催し

2017年7月23日、愛知県犬山市で「和製バフェット」竹田和平氏をしのぶ一周忌の催しが開かれ、300人が参列しました。日本経済新聞でも報道された大規模なものでした。


参考資料

竹田和平氏の著書(主なもの)

  1. 竹田和平『人とお金に好かれる「貯徳」体質になる!』 講談社 ISBN: 4-06-215398-X
  2. 竹田和平『人生沈むから浮かぶんだ!』 ISBN: 4-86063-339-3
  3. 竹田和平『けっきょく、お金は幻です。』 ISBN: 4-7631-9921-8
  4. 竹田和平『いま伝えたい生きることの真実』 ISBN: 4-903755-02-9
  5. 竹田和平『人生を拓く「百尊」の教え』 講談社 ISBN: 4-06-212922-1
  6. 竹田和平『投資の極意は「感謝のこころ」』 PHP研究所 ISBN: 4-569-70681-9
  7. 竹田和平『1日5分で運が良くなる魔法の授業―日本の投資家が初めて語る成功法則』 ISBN: 4-8284-1174-7
  8. 竹田和平『日本一の個人投資家が教える お金と福に好かれる「原則」』 サンマーク文庫(『けっきょく、お金は幻です。』改題加筆版)

竹田和平氏について書かれた書籍

  1. 水澤潤『花のタネは真夏に播くな〜日本一の大投資家・竹田和平が語る旦那的投資哲学〜』 文春文庫 ISBN: 4-16-775601-3 (解説:真田英里・竹田和平最後の個人秘書)
  2. 水澤潤『日本一の大投資家が語る大貧民ゲームの勝ち抜け方―上場会社・約70社の大株主・竹田和平さんの旦那的投資哲学』 ISBN: 4-426-75107-1
  3. 田中勝博『竹田和平の強運学―日本一の投資家が明かす成功への7つの黄金則』 東洋経済新報社 ISBN: 4-492-73180-6
  4. 『バフェットと竹田和平 富を築く大富豪の教え―投資の賢人たちの金言に学ぶ』 ISBN: 4-537-25664-8

新聞・雑誌・ウェブ媒体の記事

  1. 「『タマゴボーロ』育ての親、竹田和平さん死去」 朝日新聞(2016年7月21日)
  2. 「竹田和平さん死去 『タマゴボーロ』ヒット」 中日新聞(2016年7月21日)
  3. 「『日本一の個人投資家』竹田和平氏死去 バリュー投資を徹底」 日本経済新聞(2016年7月22日)
  4. 「竹田和平氏死去 『和製バフェット』投資手法に注目度高く」 日本経済新聞(2016年7月22日)
  5. 「『タマゴボーロ』竹田和平氏死去 『和製バフェット』の異名も」 J-CASTニュース(2016年7月22日)
  6. 「『和製バフェット』竹田和平氏しのび300人 犬山で一周忌の催し」 日本経済新聞電子版(2017年7月23日)
  7. 「竹田和平氏保有株絞る、ROE重視で大型-経営も恩返し大切」 Bloomberg(2014年9月16日)
  8. 山田健彦「『投資の神様』竹田和平とバフェットに共通する資産運用の黄金ルール」 マネーボイス
  9. 「”資産100億円”有名投資家の手法を紹介! 竹田和平氏はいかにして成功したか」 ORICON NEWS

ウェブサイト・データベース

  1. 竹田和平 – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/竹田和平)
  2. 竹田本社 – Wikipedia (https://ja.wikipedia.org/wiki/竹田本社)
  3. 竹田本社株式会社 公式サイト (https://creek.jp.net/gold/about_takeda.html)
  4. バフェット・コード — 竹田和平さん保有銘柄一覧 (https://www.buffett-code.com/shareholder/)
  5. 会社四季報 公式 — 東洋経済新報社 (https://str.toyokeizai.net/)

関連する投資哲学書(竹田氏と関連が深い)

  1. 清原達郎『わが投資術 市場は誰に微笑むか』 講談社
  2. 澤上篤人氏の各種著書(さわかみ投信創業者)
  3. ベンジャミン・グレアム『賢明なる投資家』(バリュー投資の古典)
  4. ロバート・G・ハグストローム『ウォーレン・バフェットの投資哲学』
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