ダルトン・インベストメンツ徹底解剖――四半世紀、日本株と向き合い続ける「老舗エンゲージメント」の流儀

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本稿は、日本市場で活動する主要アクティビスト各社を一社ずつ詳細に解説するシリーズの第6回です。今回は、1999年の設立以来、20年以上にわたって日本株への投資とエンゲージメントを続けてきた米運用会社「ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments, LLC)」と、その英国上場ファンド「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)」について、成り立ち、運用構造、投資哲学、日本における主要な投資案件、投資銘柄、そして投資方針を、公開情報をもとに包括的に整理します。なお本稿は特定の有価証券・金融商品の取得や売却を勧誘するものではなく、運用資産額・保有比率等は時点により変動します。投資判断はご自身の責任で行ってください。


  1. 0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かるダルトン
  2. 1. 会社概要――基本データ
  3. 2. 創業者ジェームズ・ローゼンワルドと、3人の共同創業者
    1. 2-1. ジェームズ・ローゼンワルド――ソロスの下で腕を磨いたアジア投資の権威
    2. 2-2. アジア通貨危機が生んだ「3人の出会い」
  4. 3. ファンドの構造と投資哲学
    1. 3-1. 「オーナー経営者(owner-operator)」へのこだわり
    2. 3-2. ディストレスト債から日本株まで――多様な戦略
    3. 3-3. 「エンゲージメント・スペシャリスト」としての使命
    4. 3-4. 日本での先進性――時期尚早だったアクティビズム
  5. 4. ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)――個人も買える「上場アクティビスト」
    1. 4-1. ロンドン証券取引所に上場する「投資会社」
    2. 4-2. 標的は「サラリーマン企業」
    3. 4-3. 日本の個人投資家も買える
    4. 4-4. SBIダルトン投信――さらなる個人への開放
  6. 5. 日本における主要キャンペーン・投資先
    1. 5-1. フジ・メディア・ホールディングス(2025年)――12人の独自取締役候補
    2. 5-2. 栄研化学(2025年)――4分の1近くを握る
    3. 5-3. 荏原実業(2025年)――自社株買いと社外取締役の充実を要求
    4. 5-4. ホギメディカル・江崎グリコ・東北新社ほか
  7. 6. 投資銘柄一覧(整理)
    1. 関連ファンド・運用形態
  8. 7. 投資方針の総括――ダルトンは何を狙っているのか
    1. 7-1. ターゲットの選定基準
    2. 7-2. 求めるものの本質
    3. 7-3. 「長期の対話」という方針
  9. 8. 評価とリスク――筆者の見立て
    1. 8-1. 強み
    2. 8-2. 弱みと批判
    3. 8-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか
  10. 9. 参考資料

0. エグゼクティブ・サマリー――30秒で分かるダルトン

ダルトン・インベストメンツを一言で表すなら、「日本のアクティビズムの『生き字引』とも言える、四半世紀の歴史を持つバリュー投資の老舗」です。設立は1999年、共同創業者はジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世氏ら3人。本拠地は米カリフォルニア州サンタモニカで、運用資産は約57億ドル(2025年9月末、おおむね8,000億円超)規模です。

ダルトンの特徴は、エリオットやオアシスのような派手な「劇場型」とは対照的に、地道で長期的なエンゲージメント(対話)を中心とする点です。同社は自らを「エンゲージメント・スペシャリスト」と称し、創業者自身が東京に事務所を構えたのは設立翌年の2000年。それだけ早くから日本株に深くコミットしてきました。投資哲学の核心は「オーナー経営者(owner-operator)」を好むこと――つまり、経営陣と株主の利害が一致している企業を選ぶことにあります。

そして近年、ダルトンの名を一般に広めたのが、共同創業者ローゼンワルド氏が2020年に英国で立ち上げた「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)」です。これはロンドン証券取引所に上場する投資会社で、日本の小型・中型株に特化し、自社株買いや増配による資本効率の改善を求めて積極的に株主提案を行います。2025年には、不祥事で揺れたフジ・メディア・ホールディングスに対し、SBIホールディングス会長の北尾吉孝氏を含む独自の取締役候補12人を株主提案するなど、大型案件でも存在感を発揮しました。本稿では、この「老舗」の実像を多面的に描き出していきます。


1. 会社概要――基本データ

まず、ダルトンの基本的なプロフィールを整理します。

  • 正式名称:ダルトン・インベストメンツ(Dalton Investments, LLC)。
  • 形態:非公開(プライベート)の投資顧問会社。創業メンバーや運用担当者自身が出資している(owner-operated)。
  • 設立:1999年。
  • 共同創業者:ジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世(James B. Rosenwald III)、スティーブン・D・パースキー(Steve Persky)、ギフォード・コムズ(Gifford Combs)。
  • 本社:米国カリフォルニア州サンタモニカ。
  • 拠点:サンタモニカ(本社)のほか、ロサンゼルス、ラスベガス、ニューヨーク、香港、東京(ダルトン・アドバイザリー株式会社)、ムンバイ、シドニーなど。
  • 運用資産(AUM):約57億ドル(2025年9月末時点)。2019年時点では約34億ドル、別の集計では約32億ドルとされ、近年拡大しています。
  • 主要戦略:日本株ロング・オンリー、日本株ロング・ショート、グローバル・ヘッジド・エクイティ、汎アジア株、インド株、グローバル・ディストレスト債、新興国債券など。
  • 特徴:アジア株への深い専門性を持つバリュー投資。日本株戦略は1996年(ローゼンワルド氏の前身ファンド時代)から運用され、長期にわたりベンチマークを上回る実績を持つとされる。

ダルトンの大きな特徴は、創業メンバーや運用担当者自身がファンドに多額の資金を出資している点です。これにより、運用者と投資家(顧客)の利益が一致しやすい構造になっています。後述する「オーナー経営者を好む」という投資哲学を、自らの組織でも実践しているわけです。


2. 創業者ジェームズ・ローゼンワルドと、3人の共同創業者

ダルトンを理解するには、その中心人物であるジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世氏と、彼とともに会社を立ち上げた仲間たちを知る必要があります。

2-1. ジェームズ・ローゼンワルド――ソロスの下で腕を磨いたアジア投資の権威

ジェームズ・B・ローゼンワルドⅢ世氏(通称ジェイミー・ローゼンワルド)は、米ニューヨーク市の生まれです。ニューヨーク大学で経営学修士号(MBA)を、ヴァッサー大学で文学士号(AB)を取得しました。余談ですが、彼はデザイナーで陶芸家のジル・ローゼンワルド氏の兄であり、女優のカイラ・セジウィック氏の従兄にあたるという、芸術一家の出でもあります。

ローゼンワルド氏の投資家としてのキャリアは際立っています。アジアへの投資経験は40年以上にも及び、「アジア株投資の権威」と称されます。注目すべきは、彼が伝説的な投資家ジョージ・ソロス氏のソロス・グループの外部運用者(エクスターナル・マネージャー)として、韓国市場などへの投資で腕を磨いたことです。1992年には、同じくソロスの資金を運用していたニコラス・ロディティ氏とともに、ローゼンワルド・ロディティ・アンド・カンパニー(現ロヴィダ・アセット・マネジメント)を共同設立・共同運用しました。ローゼンワルド氏はまた、ニューヨーク大学スターン経営大学院で客員教授として教鞭をとる、理論と実践を兼ね備えた人物でもあります。

ローゼンワルド氏は日本市場に対して一貫して強気です。2023年には「今後3〜5年で日経平均は史上最高値を回復し、5万円まで上昇する」と予測しました。長年日本企業のガバナンス改善に取り組んできた彼にとって、近年の日本株上昇と東証改革は、自らの投資哲学が報われる「待ち望んだ局面」なのでしょう。

2-2. アジア通貨危機が生んだ「3人の出会い」

ダルトンは、1999年にローゼンワルド氏、スティーブン・パースキー氏、ギフォード・コムズ氏の3人によって設立されました。彼らに共通していたのは、アジアでの投資ビジネスの経験と、「いまこそアジアに集中投資すべきだ」という確信でした。

3人が手を組んだ背景には、1997〜1998年のアジア通貨危機があります。危機後の混乱で、アジアの優良資産が極端に割安になっていた――この「post-crisis turmoil(危機後の混乱)」こそが、バリュー投資家にとって絶好の機会だと3人は見たのです。きっかけは、1998年10月、ローゼンワルド氏が米国の年金口座向けに日本株のロング・オンリー・ポートフォリオを運用していたときに遡ります。彼はコムズ氏に資金を託してアジア株ファンドの運用を任せ、さらに同年11月、ニューヨーク証券取引所上場企業からアジアのディストレスト債ポートフォリオの運用を依頼された際、アジアとディストレスト投資の豊富な経験を持つパースキー氏を引き入れました。こうして3人の専門性(日本株、アジア株、ディストレスト債)が結集し、ダルトンが誕生したのです。

ギフォード・コムズ氏はグローバル・ヘッジド・エクイティ部門のマネージング・ディレクターで、ケンブリッジ大学で経済学・政治学の修士号を、ハーバード大学で文学士号を優秀な成績で取得した人物です。スティーブン・パースキー氏はディストレスト投資の専門家です。多様な専門性を持つプロフェッショナルの結集こそが、ダルトンの強みの源泉です。


3. ファンドの構造と投資哲学

3-1. 「オーナー経営者(owner-operator)」へのこだわり

ダルトンの投資哲学を最も特徴づけるのが、「オーナー経営者(owner-operator)」を好むという点です。これは、経営陣自身が自社の株式を多く保有し、株主と利害が一致している企業を選好するという考え方です。経営陣が株主でもあれば、彼らは自然と株主価値の向上に努めるはずだ――この「利害の一致(alignment of interest)」こそが、ダルトンの銘柄選定の根幹にあります。

ダルトンは、規律あるバリュー投資のプロセスに従い、「本源的価値(intrinsic value)に対して大幅に割安で取引されている、良いビジネス」を見つけ出します。そして、その経営陣が株主と利害を共有しているかを重視するのです。

3-2. ディストレスト債から日本株まで――多様な戦略

ダルトンの運用戦略は多岐にわたります。グローバルなディストレスト債、グローバル・ヘッジド・エクイティ、日本株ロング・オンリー、日本株ロング・ショート、新興国債券――。創業者3人の専門性を反映し、株式から債券まで幅広い資産クラスをカバーします。なかでも日本株戦略は、ローゼンワルド氏が前身ファンド時代の1996年から手掛けてきた中核戦略で、長期にわたりベンチマークを年率約6%(手数料控除前)上回る実績を持つとされます。

3-3. 「エンゲージメント・スペシャリスト」としての使命

ダルトンは自らを「エンゲージメント・スペシャリスト」と位置づけ、「株主民主主義の発展と健全な資本市場の形成に貢献すること」を使命に掲げています。これは、単に割安株を買って値上がりを待つだけでなく、投資先企業との対話を通じて、その経営とガバナンスの改善を促すという姿勢です。

ただし、後述するNAVFと、ダルトン本体の通常の日本株戦略とでは、エンゲージメントのスタイルが異なります。ダルトン本体の通常戦略では、投資先と「より緩やかで穏やかな(gradual or gentle)」対話を行うのに対し、NAVFは小型の「サラリーマン企業」に対してより積極的(aggressive)に関与します。対象企業の性格に応じて、対話の強度を使い分けているのです。

3-4. 日本での先進性――時期尚早だったアクティビズム

ダルトンが東京に事務所を構えたのは、会社設立翌年の2000年でした。設立間もない時期から日本株に本格的にコミットしていたことがわかります。さらに2003年には日本のMBO(経営陣による買収)に焦点を当てたファンドを立ち上げ、2004年には製薬会社の帝国臓器製薬(現あすか製薬ホールディングス)にMBOを提案するなど、当時としては「時期尚早」とも言える先進的な活動を行っていました。日本に「アクティビズム」という言葉すら根付いていなかった時代から、ダルトンは日本企業との対話を続けてきたのです。この20年以上にわたる蓄積こそが、ダルトンを「老舗」「生き字引」たらしめています。


4. ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)――個人も買える「上場アクティビスト」

ダルトンを語るうえで、近年最も重要なのが、共同創業者ローゼンワルド氏が2020年に立ち上げた「ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF)」です。これは、ダルトンの日本株アクティビズムを、新しい器に盛り込んだ画期的な仕組みです。

4-1. ロンドン証券取引所に上場する「投資会社」

NAVFは、2020年1月にIPO(新規株式公開)を実施し、2020年2月21日にロンドン証券取引所のメイン・マーケットに上場した、英国籍の投資信託(クローズドエンド型投資会社)です。上場時には1億300万ポンド(当初目標は2億ポンド、最低1億ポンド)を調達し、1株100ペンスでスタートしました。ティッカー(証券コード)は「NAVF」です。

このNAVFの投資助言(運用アドバイス)を担うのが、ローゼンワルド氏が率いるケイマン諸島拠点の「ライジング・サン・マネジメント(Rising Sun Management)」です。そして、ライジング・サンに投資調査サービスを提供するのが、東京にあるダルトンの拠点(ダルトン・アドバイザリー株式会社)です。つまり、NAVFはダルトンの日本株調査の知見をフル活用して運用される仕組みになっています。ダルトン本体もNAVFに最大5,000万ポンドの自己資金を投じることを約束し、「コーナーストーン投資家(中核出資者)」として支えています。NAVFとダルトンは複数の企業に共同で投資しています。

4-2. 標的は「サラリーマン企業」

NAVFが投資対象とするのは、流動性の低い小型・中型の日本企業、特に「サラリーマン企業(salary man companies)」と呼ばれるタイプです。これは、経営陣が自社株をほとんど保有していない(=経営陣と株主の利害が一致していない)企業を指します。

ここに、ダルトンの哲学との興味深いねじれがあります。ダルトン本体は「オーナー経営者(経営陣と株主の利害が一致した企業)」を好むのに対し、NAVFはむしろその逆の「サラリーマン企業」を狙うのです。なぜか。それは、こうした企業こそ、経営陣に株主価値向上のインセンティブが乏しく、現金や資産を溜め込んで株価が割安に放置されている可能性が高いからです。利害が一致していないなら、アクティビストが外から積極的に関与して、利害を一致させればよい――NAVFは、ダルトン本体が「利害が一致していないから」として従来は投資対象としてこなかったこうした企業に、あえて積極的に関与して変革を促し、価値を引き出すために設計されたファンドなのです。NAVFは日本の中堅企業20社程度に集中投資し、自社株買いや増配による資本効率の改善を求めます。

4-3. 日本の個人投資家も買える

NAVFのもう一つの特徴は、日本の個人投資家でも購入できる点です。ロンドン証券取引所に上場しているため、日本の個人投資家はSBI証券やマネックス証券などの外国株取引口座を通じて、1株単位で売買できます(2025年10月時点で株価は約106ペンス、日本円でおよそ200円)。NISA(少額投資非課税制度)の外国上場株枠の対象にもなり、配当再投資プラン(DRIP)を使えば複利効果も狙えます。「アクティビストファンドに個人が間接的に投資できる」という意味で、極めてユニークな存在です。

4-4. SBIダルトン投信――さらなる個人への開放

2025年には、ダルトンはSBIアセットマネジメントと組んで、「SBI ダルトン日本アジア・アクティビストファンド」という個人向けの公募投資信託も登場させました。NAVFが英国上場株という形だったのに対し、こちらは日本の証券会社で買える通常の投資信託です。ダルトンのアクティビスト戦略を、より多くの日本の個人投資家に開放する試みと言えます。


5. 日本における主要キャンペーン・投資先

ここからは、ダルトン/NAVFが日本で関与してきた主要な企業を見ていきます。NAVFは大量保有報告書を頻繁に提出する、極めて活発なアクティビストです。

5-1. フジ・メディア・ホールディングス(2025年)――12人の独自取締役候補

2025年、ダルトン/NAVFが最も世間の注目を集めたのが、フジ・メディア・ホールディングスへの関与です。フジ・メディアHDは、元アナウンサーへの性暴力問題で経営が揺らぎ、広告主が離れて業績が悪化していました。同じく旧村上ファンド系も筆頭株主として関与した、この「混乱の渦中にある企業」に、ダルトンも切り込んだのです。

NAVFは2024年12月12日付で大量保有報告書(5%ルール報告書)を新規提出しました。その保有目的は明快でした。「発行会社の財務的健全性及び市場での地位が株価に反映されていないと考えており、全ての株主のために株式価値を高めるための方法を話し合うことを目的とし、経営陣に対して対話を要求する場合がある」というものです。ダルトンやNAVFなど3社が連名で報告書を提出し、2025年1月時点の保有比率は7.19%でした。ローゼンワルド氏は「株価が過小評価されており魅力的な投資機会と考えて、長期的に保有する」と語りました。

そして注目すべきは、2025年6月25日のフジ・メディアHDの定時株主総会に向けて、ダルトンが会社提案とは異なる独自の取締役候補12人を株主提案したことです。この候補者リストには、なんとSBIホールディングス会長兼社長の北尾吉孝氏が含まれていました。著名な経営者を取締役候補に擁立し、混乱した企業のガバナンス再建を主導しようとするこの動きは、大きな話題を呼びました。

5-2. 栄研化学(2025年)――4分の1近くを握る

臨床検査薬大手の栄研化学は、ダルトン/NAVFが特に大きな比率を握る投資先です。2025年2月時点で、NAVF(8.30%)、NAVFセレクトLLC(2.18%)、ダルトン・インベストメンツの3者が共同で、栄研化学株の24.69%を保有していました。発行済株式の4分の1近くを握るこの比率は、ダルトンが栄研化学の経営に対して極めて強い影響力を持つことを意味します。保有目的には「重要提案行為等を行うため」と明記されており、本格的なエンゲージメントの対象であることがうかがえます。

5-3. 荏原実業(2025年)――自社株買いと社外取締役の充実を要求

NAVFは2025年、上下水道関連の機器商社である荏原実業にも株主提案を行いました。NAVFはダルトンなどと共同で荏原実業株の9.63%を保有し、2025年3月27日の株主総会で、①最大64億円の自社株買い、②取締役への譲渡制限付き株式報酬制度の充実、③取締役の過半を社外取締役とする定款変更――の3点を求めました。これに対し荏原実業は反対を表明しました。自社株買いによる株主還元、株式報酬による経営陣と株主の利害一致、社外取締役による独立性強化――これらはダルトンの投資哲学を典型的に反映した要求です。

5-4. ホギメディカル・江崎グリコ・東北新社ほか

このほか、NAVFは数多くの日本の中堅企業に投資してきました。過去最大の保有銘柄は、医療用不織布製品大手のホギメディカルでした。また、菓子大手の江崎グリコへの関与も知られています。NAVFの保有銘柄は、医薬・医療、機械、化学、食品など、PBRが低く資産を溜め込んだ中堅企業が中心です。前稿で触れたとおり、このNAVFは近年のアクティビスト投資残高ランキングで2025年に大きく順位を上げたことが報じられており、その活動はますます活発になっています。

なお、ダルトンは英国の老舗投資信託「アライアンス・トラスト」から、日本株の運用を任される(2023年)など、その日本株運用能力は国際的にも高く評価されています。これはNAVFとは別の、15〜20銘柄に集中投資するダルトンの旗艦日本株戦略のカスタマイズ版です。


6. 投資銘柄一覧(整理)

ダルトン/NAVFがこれまでに関与・投資してきた主な銘柄を整理します。なお、これは「これまでに関与が報じられた主な銘柄」であり、現時点の保有を示すものではありません。保有比率は時点により変動します。

  • フジ・メディア・ホールディングス(2025年、共同で7%超保有、独自の取締役候補12人〔SBI北尾氏含む〕を株主提案)
  • 栄研化学(2025年、共同で24.69%保有、重要提案行為の対象)
  • 荏原実業(2025年、共同で9.63%保有、自社株買い・社外取締役過半・株式報酬を要求)
  • ホギメディカル(NAVFの過去最大の保有銘柄)
  • 江崎グリコ(菓子大手)
  • 帝国臓器製薬(現あすか製薬ホールディングス)(2004年、MBOを提案)
  • そのほかNAVFは医薬・医療、機械、化学、食品など、PBRの低い日本の中堅企業約20社に集中投資

関連ファンド・運用形態

  • ニッポン・アクティブ・バリュー・ファンド(NAVF):ロンドン証券取引所上場。日本の小型・中型「サラリーマン企業」に集中投資。個人も購入可能。
  • NAVFセレクトLLC:NAVF関連の共同保有ビークル。
  • SBI ダルトン日本アジア・アクティビストファンド:SBIアセットマネジメントと組んだ個人向け公募投資信託(2025年)。
  • アライアンス・トラスト向け日本株戦略:英老舗投資信託から運用受託(2023年〜、15〜20銘柄に集中)。
  • ダルトン本体の日本株戦略:1996年から運用、約40銘柄、より穏やかなエンゲージメント。

7. 投資方針の総括――ダルトンは何を狙っているのか

7-1. ターゲットの選定基準

ダルトンのターゲットは、ファンドによって性格が異なります。ダルトン本体の通常戦略では、「本源的価値に対して大幅に割安で、かつ経営陣が株主と利害を共有している(オーナー経営者の)良いビジネス」を選好します。一方、NAVFは、その逆の「経営陣が自社株をほとんど持たないサラリーマン企業」で、現金や資産を溜め込んで株価が割安に放置されている小型・中型株を狙います。共通するのは、「本源的価値に対する割安さ(マージン・オブ・セーフティ=安全余裕)」を重視するバリュー投資の規律です。

7-2. 求めるものの本質

ダルトン/NAVFが企業に求めるものは、突き詰めれば「資本効率の改善」と「経営陣と株主の利害の一致」です。荏原実業への要求(自社株買い、株式報酬制度の充実、社外取締役の過半化)が、それを端的に示しています。溜め込んだ資本を自社株買いや増配で株主に還元させ、株式報酬を通じて経営陣を株主と同じ船に乗せ、独立した社外取締役で経営を監督させる――これらはすべて、「経営陣が株主価値の向上に真剣に取り組む仕組み」を作るための要求です。「株主民主主義の発展と健全な資本市場の形成」という同社の使命は、こうした地道な取り組みの積み重ねによって追求されています。

7-3. 「長期の対話」という方針

ダルトンの投資方針を最も特徴づけるのは、その「長期性」と「対話重視」です。設立翌年の2000年に東京事務所を開設し、20年以上にわたって日本企業と対話を重ねてきた蓄積は、他の海外アクティビストにはない強みです。創業者自身がファンドに出資し、投資家との利益を一致させている点も、「長期的に企業とともに価値を高める」という姿勢の表れです。NAVFという上場ファンドや個人向け投信を通じて、アクティビズムの裾野を広げている点も、同社の特徴と言えます。


8. 評価とリスク――筆者の見立て

8-1. 強み

ダルトンの最大の強みは、「日本株への20年以上の蓄積」と「バリュー投資の規律」、そして「多様な運用形態」です。日本に「アクティビズム」という言葉すらなかった2000年代初頭から日本企業と対話を続けてきた経験は、日本市場と企業文化への深い理解を生んでいます。ローゼンワルド氏のアジア投資40年以上のキャリアと、ソロスの下で磨いた相場観も大きな資産です。さらに、ダルトン本体・NAVF・SBI投信・アライアンス・トラスト向け戦略と、対象や投資家層に応じて多様な器を使い分ける柔軟性も、同社の強みです。

8-2. 弱みと批判

一方で、ダルトンにも留意すべき点があります。第一に、その手法は地道で時間がかかります。劇場型のオアシスや、論理で押し切る3Dと比べると、ダルトンの「緩やかな対話」は成果が見えにくく、即効性に欠けると映ることもあります。第二に、NAVFが狙う「サラリーマン企業」は流動性の低い小型株が中心であり、大量に売買すると株価が動きやすいという流動性リスクがあります。第三に、フジ・メディアHDの事例のように、複数のアクティビスト(旧村上系など)が同じ企業に群がる場合、ダルトンの提案がどこまで独自性を持って通るかは、他の株主との力関係次第という面があります。

8-3. 投資家・企業はどう向き合うべきか

筆者の見立てでは、ダルトンは「日本のアクティビズムの歴史そのものを体現する、信頼性の高い老舗」です。派手さはありませんが、20年以上にわたって一貫した哲学(バリュー投資と利害の一致)を貫いてきた実績は、企業にとっても投資家にとっても、ある種の「安心感」につながります。荏原実業への要求が示すように、彼らが求めるのは資本効率の改善と利害の一致という、企業価値向上の王道です。経営陣が自社株をほとんど持たず、現金を溜め込んでいる中堅企業は、NAVFの格好の標的となりうることを認識すべきでしょう。

個人投資家にとって特筆すべきは、ダルトンが「個人もアクティビズムに参加できる」道を開いた点です。NAVF(ロンドン上場、SBI・マネックスの外国株口座で購入可能)やSBIダルトン投信を通じて、個人投資家もダルトンの日本株アクティビズムの成果を間接的に享受できます。前稿のマネックス・アクティビスト・ファンドと並んで、アクティビズムの裾野を広げる存在として注目に値します。彼らの「経営陣と株主の利害が一致しているか」という視点は、長期投資の銘柄選びにおいて、極めて重要な観点を提供してくれます。


9. 参考資料

本稿は、以下の公開情報・報道・公式資料をもとに構成しています(主なもの。数値・保有比率等は執筆時点で確認できた範囲のものであり、時点により変動します)。

公式・一次情報

  • Dalton Investments 公式サイト(daltoninvestments.com/戦略・日本株ページ)
  • Nippon Active Value Fund 公式サイト(nipponactivevaluefund.com/投資助言会社ページ)
  • 各社の適時開示・大量保有報告書(フジ・メディアHD、栄研化学、荏原実業等)
  • Alliance Witan(旧アライアンス・トラスト)公式リリース(ダルトンの日本株運用受託)

新聞・通信社・経済誌

  • 日本経済新聞(ダルトンによるフジ・メディアHD株買い増し・取締役12人の株主提案、荏原実業の株主提案への反対ほか)
  • M&A Online(NAVFのフジ・メディアHD大量保有報告書)
  • QUICK Money World(栄研化学の保有比率変更報告書)
  • Citywire Investment Trust Insider(NAVFのIPO、アライアンス・トラストのダルトン起用)

専門メディア・その他

  • マネックス証券「アクティビストタイムズ」(NAVFの投資戦略・株主提案の解説)
  • The Hedge Fund Journal(ダルトン創業の経緯)
  • Yahoo Finance/Insider Monkey(ダルトンのAUM・運用戦略・実績)
  • 101 LIFE(NAVF・SBIダルトン投信の仕組み解説)
  • 株探(NAVFの大量保有報告書一覧)

百科事典等(一次情報の確認は上記公式・報道で実施)

  • Wikipedia「James B. Rosenwald」

 

本稿は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載内容には執筆時点で確認できた情報を用いていますが、その正確性・完全性を保証するものではありません。

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