AIに仕事を奪われる前に、AIを使う側に回れるのかという問題

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AIに仕事を奪われる前に、AIを使う側に回れるのかという問題

「事務職はAIに代替される」というニュース

ネットニュースで見た。「今後10年でなくなる仕事ランキング」。一般事務、データ入力、経理補助、受付。私がこの20年間やってきた仕事のほとんどが、リストに入っていた。

AIが書類を作る。AIがデータを入力する。AIがメールに返信する。AIが経費を処理する。AIがスケジュールを管理する。これらの業務は、AIが人間よりも速く、正確に、安く、24時間休まずにこなせる。AIにとって、残業代も有給休暇も社会保険料も不要だ。

このニュースを見た夜、例のスマートフォンで検索した。深夜2時。「事務職 AI 代替 いつ」。検索結果には「5年以内に大きな変化が始まる」「10年以内に事務職の30〜50%が自動化される」という予測が並んでいた。

5年。10年。45歳の私にとって、5年後は50歳、10年後は55歳。定年まであと15〜20年。この期間の途中で、自分の仕事がなくなるかもしれない。「なくなるかもしれない」ではなく「なくなる可能性が高い」。この可能性を直視するのは、かなりの精神力を要する。

AIは「敵」なのか「道具」なのか

AIを「敵」と見るか「道具」と見るかで、対応が180度変わる。

敵と見れば、「AIから仕事を守る」ことが目標になる。AIにはできない仕事を見つけて、そこに逃げ込む。人間にしかできない仕事——対面のコミュニケーション、感情的なケア、創造的な判断——にシフトする。

道具と見れば、「AIを使って仕事を効率化する」ことが目標になる。AIができることはAIに任せ、自分はAIにはできない部分を担う。AIと人間の「協業」だ。AIを使いこなせる人間は、AIに仕事を奪われるのではなく、AIの力で自分の仕事の価値を上げる。

後者のほうが建設的だ。だが「AIを使いこなす」ためには、AIの基本的な仕組みを理解し、AIツールの操作方法を覚え、業務にどう適用するかを考える能力が必要。この能力を、45歳の派遣事務員がどうやって身につけるのか。

ChatGPTを使ってみた

「使ってみないとわからない」。この信条に従って、ChatGPTを使ってみた。無料版。アカウントを作って、チャット画面に文字を打ち込む。

最初に打ち込んだのは「就職氷河期世代が今からできることを教えてください」。数秒後、AIが丁寧な文章で回答してくれた。資格取得、健康管理、NISAの活用、公的支援制度の利用。このエッセイシリーズで書いてきたことと、ほぼ同じ内容だった。

驚いた。AIが、私のエッセイと同じレベルの回答を、数秒で生成した。私が何時間もかけて書いたことを、AIは数秒で出してくる。この速度差は、怖い。「私の書いている文章も、AIに置き換えられるのではないか」という恐怖。

だが同時に、「これは使える」とも思った。AIに下書きを作らせて、自分が編集する。AIにリサーチさせて、自分が判断する。AIにアイデアを出させて、自分が選ぶ。道具として使えば、仕事の効率が上がる。効率が上がれば、同じ時間でより多くのアウトプットが出せる。出せれば、自分の価値が上がる。

理屈ではわかる。だが実践するには、AIツールの使い方を学び、業務フローに組み込み、上司や派遣先に提案し、了承を得る必要がある。このプロセスの一つひとつが、ハードルだ。

事務職が「AIと共存する」ための現実的な道

AIに代替されにくい事務スキルとは何か。考えてみた。

スキル1は「人間関係の調整」。AIはメールを書けるが、微妙なニュアンスの調整はできない。「Aさんはこういう言い方をすると怒る」「Bさんにはこのタイミングで報告する」。人間関係のセンシティブな部分は、その職場で長年働いてきた人間にしかわからない。これはAIに代替されにくいスキルだ。

スキル2は「イレギュラー対応」。定型業務はAIが得意だが、イレギュラー(例外処理、クレーム対応、突発的なトラブル)は人間が対応する必要がある。イレギュラーに対処するには、経験と判断力が必要。20年の事務経験で培ったイレギュラー対応力は、AIにはない。

スキル3は「AIを使いこなす力」自体。AIツールを使って業務を効率化できる人材は、まだ少ない。「AIを使える事務員」は、「AIを使えない事務員」よりも希少価値がある。希少価値がある人材は、代替されにくい。つまり、AIを学ぶこと自体が、AIに代替されないための戦略になる。

スキル4は「複数の業務を横断的にこなす力」。AIは特定のタスクには強いが、「経理もやりつつ、総務もやりつつ、来客対応もする」のような横断的な業務は苦手だ。小規模な会社では、一人が複数の業務を兼務することが多い。この「何でもやる」能力は、AIよりも人間のほうが得意だ。

「AIを使う側」に回るための具体的ステップ

AIを敵ではなく道具として使うための、具体的なステップを考えた。

ステップ1は「ChatGPTを日常的に使う」こと。まずは無料版で構わない。メールの下書きを作らせる。文章の校正をさせる。調べ物をさせる。議事録の要約をさせる。日常業務の中で「AIに任せられること」を一つずつ見つけていく。

ステップ2は「Excelの関数やマクロをAIに書いてもらう」こと。「こういう計算をしたいが、Excelの関数がわからない」とChatGPTに聞けば、適切な関数を教えてくれる。VBAマクロも書いてくれる。Excelスキルが一気に上がる。

ステップ3は「AIの限界を知る」こと。AIは万能ではない。誤った情報を「もっともらしく」出力することがある。機密情報を入力してはいけない(情報漏洩のリスクがある)。AIの回答を鵜呑みにせず、必ず人間がチェックする。このチェック能力こそが、人間の価値だ。

ステップ4は「AIを使った成果を上司にアピールする」こと。「AIを使ってこの業務の処理時間を半分にしました」とアピールできれば、「AIを使える人材」として評価される。評価されれば、契約更新や時給アップにつながる可能性がある。

ステップ5は「AI関連の基礎知識を学ぶ」こと。AIの仕組み(機械学習、大規模言語モデルなど)の基礎を、入門書やYouTubeで学ぶ。深く理解する必要はない。「AIが何をできて、何をできないか」を大まかに把握できればいい。この把握があれば、AIツールを適切に選び、適切に使える。

AIに対する氷河期世代の複雑な感情

AIに対して、氷河期世代は複雑な感情を持っている。

一方では「怖い」。自分の仕事がなくなるかもしれない。20年間積み上げてきたスキルが無価値になるかもしれない。この恐怖は、就職氷河期で仕事を失った経験と重なる。また同じことが起きるのか。

他方では「期待」もある。AIが面倒な定型作業をやってくれれば、自分はもっとクリエイティブな仕事に集中できるかもしれない。AIの力を借りれば、一人でも高い生産性を発揮できるかもしれない。非正規で低収入の自分が、AIを武器にして「使えない正社員」よりも成果を出せるかもしれない。

そして「諦め」もある。「どうせ自分にはAIを使いこなせない」「今さら新しいことを学ぶのは無理」「AIに代替されるなら、されるに任せるしかない」。この諦めは、就職氷河期で何度も経験した「何をやっても状況は変わらない」という無力感と同じ根っこだ。

怖い、期待、諦め。この三つの感情が混在している。混在したまま、AIの波は来る。波が来るのを眺めているだけでは飲まれる。波に乗るか、波から逃げるか、波の中で泳ぐか。どの選択をするかは、個人の判断だ。

AIが奪うのは「仕事」ではなく「タスク」

冷静に考えると、AIが奪うのは「仕事」全体ではなく、仕事の中の「タスク」だ。事務の仕事には、データ入力、メール作成、書類整理、来客対応、電話応対、会議の準備など、複数のタスクが含まれている。このうち、データ入力やメール作成はAIに代替されやすいが、来客対応や電話応対は代替されにくい。

つまり、事務の「仕事」がまるごとなくなるのではなく、仕事の中の一部のタスクがAIに移る。移ったぶん、人間は別のタスク(AIにはできないタスク)に集中する。仕事の「中身」が変わるのであって、仕事自体が消えるわけではない(少なくとも当面は)。

この視点を持てれば、恐怖は少し和らぐ。「仕事がなくなる」ではなく「仕事の中身が変わる」。変化への対応は、氷河期世代にとってはお手のものだ。20年間、職場が変わるたびに新しい環境に適応してきた。新しいシステム、新しい業務フロー、新しい人間関係。適応力は鍛えられている。AIという新しい要素にも、適応できるはずだ。

適応できるかどうかは、やってみないとわからない。やってみる前から「無理だ」と決めつけるのは、就活で100社落ちる前に諦めるのと同じだ。100社落ちても101社目に受かるかもしれない。AIも、最初はうまく使えなくても、10回、20回と使ううちに慣れるかもしれない。

まずは触ってみる。ChatGPTに何か聞いてみる。スマートフォンでもできる。無料で始められる。始めることのコストはゼロだ。ゼロのコストで、AIとの共存の第一歩を踏み出せる。

AIに仕事を奪われるかもしれない未来。その未来に備えて、今日AIを触ってみる。触った結果がどうなるかはわからない。わからないが、触らないよりは触ったほうがましだ。ゼロよりまし。このフレーズを、AIの時代にも持ち込む。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。AIの時代に不安を感じている人は、きっと少なくないはずです。

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