2023年3月末。この日は、日本の資本市場の歴史における転換点として、記録されるべき日です。
この日、東京証券取引所は、プライム・スタンダード市場の全上場企業に対して、「資本コストや株価を意識した経営の実現」を要請しました。特にPBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業には、資本効率の改善と株主との対話強化を強く求める、というものです。
**日本語では「PBR1倍割れ改革」**と呼ばれるこの東証の要請は、日本の資本主義そのものを、根本から変える構造改革です。
私は、日本株を10年以上見てきましたが、東証改革の意味を、本当に理解するのに、実は数年かかりました。「PBR1倍割れは、単なる株価が安いだけの問題ではない」――この事実を、私は16社のアクティビストを調べる過程で、体系的に理解しました。
そして、アクティビストの動きを追いかけることで、私はある明確な確信を得ました。
「PBR1倍割れ改革は、明確に、得をする人と、損をする人を分ける」。
得をする人は誰か。損をする人は誰か。この構造を理解できれば、日本株投資家として、この歴史的な改革の恩恵を最大化できるわけです。
そこで、この記事のテーマ、ズバリこれです。
「PBR1倍割れ改革で得をする人、損をする人」
東証改革の本当の意味は何か。なぜ、これほど大規模な改革が、日本で起きているのか。得をする4つのグループ、損をする3つのグループとは何か。そして、私たち個人投資家は、この改革でどう立ち回れば、最大の恩恵を受けられるか。
この記事は、東証改革を巡る**「勝ち組」と「負け組」の分析であり、同時に「勝ち組にどう入るか」の実践論**です。日本株投資家として、この改革の波に乗るか乗らないかで、10年後のリターンは大きく変わります。ぜひ最後までお付き合いください。
そもそも、PBR1倍割れ改革とは何か
まず、基礎知識から。東証のPBR1倍割れ改革とは何かを、明確に整理します。
2023年3月末、東証の要請
2023年3月末、東証は「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」という文書を公表しました。この要請の主要な内容は以下の通り。
- プライム・スタンダード市場の全上場企業が対象(約3,300社)
- 自社の資本コストや資本収益性を的確に把握
- PBR1倍割れなどが継続する場合、具体的な計画を開示・実行
- 株主・投資家との対話を強化
(出典:東京証券取引所公式文書、2023年3月末)
「PBR1倍割れは、恥ずかしい状態だ」――東証は、これまで暗黙のうちに許容してきたPBR1倍割れを、**「解消すべき異常事態」**として、明確に位置づけました。
PBR1倍割れの意味の再確認
PBR(株価純資産倍率) = 株価 ÷ 1株あたり純資産(BPS)
- PBR1倍:株価 = 会社の解散価値
- PBR1倍未満:株価 < 会社の解散価値
- PBR1倍超:株価 > 会社の解散価値
PBR1倍未満は、「会社を解散して、資産を売り払って株主に分配した方が、株を持っているより得」という異常事態を意味します。**「会社が存続する価値がない」**と、市場が判断している状態です。
なぜ日本にPBR1倍割れが多いのか
日本のプライム市場の上場企業のうち、PBR1倍割れの企業は約40%(2023年時点、みずほ証券等)にのぼりました。米国のS&P500ではわずか数%、欧州でも限定的――日本市場のPBR1倍割れは、世界的に異常な状態でした。
構造的な理由:
- バブル崩壊後、日本企業は内部留保を積み上げ、自己資本比率を過度に高めた
- 政策保有株、遊休資産、不動産を溜め込み、資本効率を悪化させた
- 株主還元を抑制し、成長投資も控えた「守りの経営」を続けた
- 投資家との対話を軽視し、資本コストの意識が希薄だった
**結果、日本企業の多くは「資本効率の低い、割安な状態」**に陥りました。東証改革は、この30年間の負の遺産を、根本から是正する試みなんです。
東証改革の「本当の意味」
しかし、東証には強制力がありません。「PBR1倍割れを改善しろ」と要請しても、企業が口先の計画を出して実行しないケースが多いわけです。
では、なぜ東証はこの要請を出したのか。私の見立てはこうです。
「アクティビストと機関投資家の力を借りて、日本企業のガバナンスを強制的に変える」――これが、東証の隠れた真の狙いです。
東証:「PBR1倍割れを改善しろ」 企業:「頑張ります(口先)」 アクティビスト:「頑張るとは具体的にどう頑張るのか。増配しろ、自社株買いしろ、事業を売却しろ、政策保有株を処分しろ」 企業:「対応せざるを得ない」
この「制度的な追い風」を、アクティビストは受けています。東証の要請が、アクティビストの主張に「正当性」を与えるんです。**「東証が言ってることを、私たちが手伝っているだけです」**というポジションを、アクティビストは巧妙に取れます。
Bloombergの解説(2024年):
「日本では政府当局や東京証券取引所などの機関が上場企業に対し、バランスシートや株主還元をより意識した経営の実現を求める中、アクティビストの活動が当たり前になりつつある」
(出典:Bloomberg、2024年4月)
東証、金融庁、経済産業省、アクティビスト――これらが「日本企業のガバナンス改革」という同じ方向を向いて、実質的に協働しているわけです。
「得をする人」の4カテゴリー
さて、いよいよ本題です。PBR1倍割れ改革で「得をする人」は、大きく4つのグループに分けられる、というのが私の分析です。
得をする人①:アクティビスト投資家
最も明確に得をするのが、アクティビスト投資家です。
なぜ得をするか:
- 東証改革が、アクティビストの主張に「正当性」を提供
- PBR1倍割れの企業リスト = アクティビストのターゲットリスト
- 企業が抵抗しても、「東証の要請」を盾に取れる
- 株主提案の可決率が上がる(機関投資家の支持が集まりやすくなる)
実際の成果:
- エリオット×DNP:3,000億円自社株買い
- エリオット×SBG:2兆5,000億円自社株買い
- 旧村上ファンド系×コスモ:岩谷産業に1,053億円で売却
- シルチェスター×京都銀行:総還元性向49%→57%
- オアシス×フジテック:創業家会長解任
これらの成功は、東証改革の追い風なくしては、実現しなかった――アクティビストが東証改革の最大の受益者なのは、疑いようがありません。
得をする人②:割安バリュー株投資家(個人投資家含む)
PBR1倍割れの割安バリュー株に投資してきた投資家も、東証改革の大きな受益者です。
なぜ得をするか:
- 東証改革により、PBR1倍割れ企業が「解消すべき状態」と位置づけられた
- 企業側が自主的に、または圧力で株主還元を強化
- PBR1倍割れが解消される過程で、株価が大きく上昇
具体例:
- 大日本印刷:エリオット参入前は割安、その後PBR1倍超を目指すと会社が発表、株価急騰
- 地銀業界全体:シルチェスターの提案後、業界全体で還元強化、株価上昇
- 総合商社:バフェット効果 + アクティビスト効果で、全業界的に株価上昇
- 不動産デベロッパー:エリオット参入後、業界全体の評価見直し
「バリュー株投資家は、東証改革によって、報われた」――これが、10年の日本株観察の実感です。
私自身、PBR1倍割れの割安バリュー株を、東証改革以前から保有していた銘柄で、大きな含み益を得ています。「割安を仕込んでおけば、いずれ報われる」――この投資哲学が、東証改革によって、明確に検証されたわけです。
得をする人③:株主還元強化に迅速に応じた企業経営陣
東証改革を「機会」と捉え、迅速に対応した企業の経営陣も、意外な受益者です。
なぜ得をするか:
- PBR1倍割れを解消することで、株価が上昇
- 株価上昇により、経営陣の評価が高まる
- 株主から支持を得て、経営権を維持できる
- 役員報酬に連動する株式報酬の価値が上がる
具体例:
- DNPの経営陣:エリオットの圧力を受けて、迅速に3,000億円自社株買いを発表、その後会社としては引き続き経営を主導
- 三菱商事の経営陣:エリオットの住友商事参入を受けて、迅速に5,000億円自社株買いを発表
- 京都銀行の経営陣:シルチェスター提案を受けて、総還元性向を大幅に引き上げ
「株主還元強化 = 経営陣の負け」ではなく、「株主還元強化 = 経営陣が生き残るための戦略」――これが、東証改革下の新しい経営の姿です。
「素直に東証の要請に応じる経営陣ほど、評価が高まる」――逆説的ですが、これが現実です。
得をする人④:株主総会での議決権を持つ機関投資家
GPIF、生保、投信などの機関投資家も、東証改革の受益者です。
なぜ得をするか:
- 投資先企業の株価が上昇(運用リターン向上)
- 議決権行使を通じて、より積極的にガバナンス改革に関与できる
- アクティビストの提案に賛成することで、自らの受益者への責任を果たせる
特にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、日本株投資でPBR1倍割れ企業を大量保有しており、東証改革による株価上昇の最大の受益者の一つです。
タイヨウ・パシフィック・パートナーズが2014年にGPIFの運用委託先に選定されたのは、まさに**「アクティビストと機関投資家の協働」**の象徴的な事例です。
「損をする人」の3カテゴリー
一方、PBR1倍割れ改革で「損をする人」は、大きく3つのグループに分けられます。
損をする人①:改革を怠り、抵抗する経営陣
東証改革に抵抗し、PBR1倍割れを放置する経営陣は、明確に損をします。
なぜ損をするか:
- 株価が低迷し続け、経営陣の評価が下がる
- アクティビストの標的になり、株主提案で追い詰められる
- 株主総会で議決権行使助言会社(ISS、グラスルイス)からの支持を失う
- 最悪の場合、経営陣が解任される(フジテックの内山会長、フジHDの日枝名誉会長のように)
具体例:
- フジテックの内山高一会長:オアシスの探偵型調査で追い詰められ、事実上解任
- フジHDの日枝久名誉会長:40年独占体制が終焉、退任
- 東芝の永山治議長:エフィッシモの株主提案で再任否決
「改革を怠る経営陣は、必ず退場させられる」――東証改革下の残酷な現実です。
損をする人②:政策保有株の温存を望む企業
**政策保有株の温存を望む企業(および、その政策保有株の相手企業)**も、損をします。
なぜ損をするか:
- 政策保有株の削減が、東証改革の重要テーマの一つ
- 政策保有株を持つ企業は、アクティビストの標的になりやすい
- 政策保有株を売却されると、株価下落圧力になる
- 株式の安定性が失われ、経営権が不安定になる
具体例:
- 多くの地銀:シルチェスターに「政策保有株からの受取配当金の100%還元」を要求される
- 旧財閥系企業:エリオットに含み益の顕在化を要求される
- 相互持ち合いの企業間:一方が売却すると、他方も売却しなければならない連鎖
「政策保有株の温存は、もはや不可能」――日本企業の伝統的な「株式持ち合い」文化は、終わりつつあります。
損をする人③:独占的経営体制の維持を望む創業家
創業家や特定人物による長期独占的経営体制を維持したい企業も、損をします。
なぜ損をするか:
- 独占的経営体制は、アクティビストの格好の標的
- 創業家の不適切な取引が、探偵型調査で暴かれる
- 株主総会で議決権行使助言会社からの支持を失う
- 後継者問題などが露呈しやすい
具体例:
- フジテックの内山家:40年支配が終焉
- フジHDの日枝氏:40年独占体制が終焉
- 小林製薬の創業家:株主総会で一般株主過半数が創業家CEOの再任に反対
- AVI×エスケー化研の藤井家:消耗戦
「創業家支配は、もはやリスク要因」――日本の伝統的な「同族経営」も、改革の波に晒されています。
「日本のBS改革」がもたらす「隠れ資産の顕在化」トレンド
そして、私が最も強調したいのが、東証改革がもたらす「日本のBS改革」と、それに伴う「隠れ資産の顕在化」トレンドです。
PL重視からBS重視への転換
日本企業の伝統的な経営指標は、PL(損益計算書)中心でした。売上高、営業利益、当期純利益――これらの数字が、経営の主要な評価軸でした。
しかし、東証改革は、この重心を根本的に変えつつあります。PBR、ROE、ROIC、資本コスト――これらのBS(貸借対照表)関連の指標が、経営の主要な評価軸になっているんです。
「日本企業は、PLは強いが、BSが弱い」――この構造的な問題を、東証改革は突いています。
「日本の埋蔵金」の発掘プロセス
日本企業のBSには、30年間積み上げられた「埋蔵金」が眠っています。
- 政策保有株の含み益:総額数十兆円規模
- 賃貸不動産の含み益:住友不動産だけで3兆9,000億円
- 子会社・関連会社の未活用資産
- 過剰な現金・預金
- 持分法適用会社の隠れた価値(DeNAの任天堂株など)
東証改革は、これらの「埋蔵金」を、体系的に「顕在化」させるプロセスです。アクティビストは、この埋蔵金の発掘者として機能しています。
私の見立て:日本市場全体で、今後10年間で、数十兆〜100兆円規模の「隠れ資産」が顕在化し、株主に還元される――これが、東証改革がもたらす、日本経済の巨大な富の移転です。
具体的な事例:6つの象徴的な出来事
「隠れ資産顕在化」トレンドの、6つの象徴的な事例を、私なりに整理します。
事例①:フジHDの日枝氏退任と不動産事業の外部資本導入
40年の独占体制が終わり、サンケイビル(お台場の不動産事業)への外部資本導入が決定。日本のメディア業界の「土地の富」が顕在化しつつあります。
事例②:東芝の非公開化
エフィッシモの株主総会勝利を経て、JIP主導のTOBで東芝が非公開化。日本の名門電機メーカーが、非上場化を経て抜本的改革へ。
事例③:豊田自動織機のTOB価格引き上げ
エリオットの圧力で、当初16,300円から18,800円へ15%引き上げ。トヨタグループの「親子上場問題」に、明確な打撃。
事例④:地銀業界の還元強化
シルチェスターの増配方程式を発端に、地銀業界全体で株主還元が強化。日本の地方金融の「政策保有株の富」が顕在化。
事例⑤:コスモの岩谷産業への売却
旧村上ファンド系の圧力で、岩谷産業がコスモ株1,053億円で取得。日本のエネルギー業界の再編の端緒。
事例⑥:ローランドの復活劇
タイヨウとのMBOで非上場化し、6年後に再上場、株価は倍増以上。日本の中堅メーカーの潜在能力の顕在化。
**これら6つの事例は、いずれも「東証改革が生んだ、日本のBS改革」**の象徴です。
個人投資家が「得をする側」に立つための実践論
さて、ここからが最も実践的な部分です。個人投資家として、東証改革の「得をする側」に立つためには、どうすればいいか。私の実践論を、率直に共有します。
実践論①:PBR1倍割れ × キャッシュリッチのスクリーニング
最も基本的で、最も効果的な戦略が、PBR1倍割れ × キャッシュリッチのスクリーニングです。
スクリーニング条件:
- PBR1倍未満
- キャッシュポジションが時価総額の30%以上(現金・預金・投資有価証券の合計)
- 同業他社と比較して、明らかに割安
- 時価総額100億円〜1兆円(アクティビストが動きやすい規模)
**このスクリーニングで抽出された銘柄は、東証改革の「潜在的な受益者」**です。アクティビストが動く前に、先回りして仕込む――これが、私が実践している基本戦略です。
実践論②:シルチェスターの選別論理を応用
**シルチェスターの「還元性向50%基準」**を、そのまま個人投資家のスクリーニング条件として使えます。
具体的な使い方:
- 同業他社の総還元性向を比較
- 50%を超える企業は、既に還元強化済み(アクティビストの標的にはなりにくい)
- 50%未満、特に30%未満の企業は、還元強化余地大(東証改革の追い風で、株価上昇の可能性)
この選別論理は、単純ですが、極めて強力です。
実践論③:アクティビスト絡み銘柄のウォッチ
既にアクティビストが動いている銘柄を、継続的にウォッチします。
具体的方法:
- EDINETで16社のアクティビストの動向を毎朝チェック
- 新規大量保有報告書があった銘柄をリストアップ
- 投資判断は、前回までの記事で解説した「見分け方」に従う
「アクティビストが動いた瞬間、株価は反応する」――このタイミングを逃さないことが、リターン最大化の鍵です。
実践論④:MAF・NAVFで間接投資
個別銘柄の選定に自信がなければ、公募投資信託で間接投資する方法もあります。
- マネックス・アクティビスト・ファンド(MAF、通称「まふ」):100円から積立可能、NISA成長投資枠対象
- Nippon Active Value Fund(NAVF):ロンドン証券取引所上場、SBI証券・マネックス証券の外国株口座で購入可能
- SBIダルトン日本アジア・アクティビストファンド:国内公募投信(2025年設定)
MAFは3年で約2.5倍のリターン(マネックス証券公開データ、2025年11月時点)、TOPIX比+17%超と好成績。プロが厳選したアクティビスト・ポートフォリオに、月1万円から乗れるというのは、極めて魅力的です。
実践論⑤:「時間軸別のポートフォリオ配分」
東証改革は、10〜20年単位で進行する長期的な変化です。この長期トレンドに乗るために、時間軸別にポートフォリオを配分することを推奨します。
- 短期資金(10%):エリオット、旧村上ファンド系の案件を追随、1年以内に売却
- 中期資金(30%):オアシス、3D、シルチェスターの案件、1〜3年で判断
- 長期資金(40%):東証改革の受益銘柄(PBR1倍割れ×キャッシュリッチ×隠れ資産)、3〜5年で判断
- 超長期資金(20%):MAF、NAVF、タイヨウ関連銘柄、5〜10年で保有
「短期の急騰と、長期の企業価値向上の両方を、バランスよく取り込む」――これが、東証改革時代の理想的なポートフォリオです。
実践論⑥:東証改革の進捗を継続ウォッチ
東証改革の進捗を、継続的にモニタリングすることも重要です。
- 東証の公式アナウンス:新しい要請、企業の対応状況の集計
- 金融庁のアクション:スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コードの改訂
- 経済産業省の指針:「同意なき買収」指針など
- アクティビスト業界全体の動向:大和総研の四半期レポート
「制度的な追い風」の変化を、常に把握することで、投資戦略を微調整できます。
「損をする側」から「得をする側」に立ち位置を変える
もし、あなたが今、東証改革で「損をする側」にいるなら――「得をする側」に立ち位置を変えることができます。
あなたが「経営者」なら
もしあなたが上場企業の経営者、または経営陣に近い立場なら:
- 東証改革を「機会」と捉えて、迅速に対応する
- 株主還元強化、政策保有株削減、資本効率改善を積極的に推進
- アクティビストとの対話を、拒絶ではなく建設的に行う
- 株主との対話を強化し、経営の透明性を高める
「素直に東証の要請に応じる経営陣ほど、生き残る」――これが、東証改革下の新しい現実です。
あなたが「創業家」なら
もしあなたが創業家、または創業家に近い立場なら:
- 独占的経営体制を、自主的に見直す
- 社外取締役の増員、独立性の確保
- 後継者問題を、明確に対処
- 株主総会での説明責任を強化
「独占的経営を放棄する」ことは、痛みを伴います。しかし、「アクティビストに解任されるリスク」を回避し、**「創業家の遺産を、より長期的に守る」**ためには、必要な選択です。
あなたが「株主軽視の企業に投資している個人投資家」なら
もしあなたが、東証改革に抵抗する企業の株を持っているなら:
- その企業に、株主として意見を発信する
- 株主総会に出席し、質問する
- 議決権行使助言会社の推奨に従って、賢明に投票する
- もしその企業が改革を怠り続けるなら、ポートフォリオから外すことも検討
「損をする側の企業から、得をする側の企業へ、ポートフォリオを組み替える」――これが、個人投資家として、東証改革の恩恵を最大化するための、明確な選択です。
まとめ:東証改革は「日本の30年の変革」の始まり
長い記事にお付き合いいただき、ありがとうございました。最後に要点をまとめます。
- 東証改革(2023年3月末):プライム・スタンダード市場の全上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」の要請。特にPBR1倍割れ企業に対する具体的計画の開示・実行を求める。
- 背景:日本のプライム市場の約40%がPBR1倍割れという異常事態。バブル崩壊後の30年間で溜め込まれた「守りの経営」の負の遺産。
- 東証改革の隠れた真の狙い:アクティビストと機関投資家の力を借りて、日本企業のガバナンスを強制的に変える。制度的な追い風。
- 得をする人4カテゴリー:①アクティビスト投資家、②割安バリュー株投資家(個人含む)、③株主還元強化に応じた企業経営陣、④機関投資家(GPIF等)
- 損をする人3カテゴリー:①改革を怠り抵抗する経営陣、②政策保有株の温存を望む企業、③独占的経営体制の維持を望む創業家
- 6つの象徴的事例:フジHD日枝氏退任、東芝非公開化、豊田織機TOB引き上げ、地銀還元強化、コスモ岩谷売却、ローランド復活劇
- 個人投資家の実践論:①PBR1倍割れ×キャッシュリッチのスクリーニング、②シルチェスターの選別論理応用、③アクティビスト絡み銘柄ウォッチ、④MAF/NAVFで間接投資、⑤時間軸別ポートフォリオ配分、⑥東証改革の進捗継続ウォッチ
- 立ち位置の変え方:経営者は迅速な対応、創業家は独占体制の見直し、個人投資家はポートフォリオの組み替え
私が、東証改革を追い続けて、最後に至った実感を書きます。
PBR1倍割れ改革は、日本の30年の変革の始まり――これが、私の率直な確信です。
バブル崩壊後の失われた30年間、日本企業は「守りの経営」に走り、株主還元を怠り、政策保有株を溜め込み、内部留保を積み上げ、創業家支配を温存してきました。この30年間の負の遺産こそが、いま、アクティビストの標的となっています。
東証改革は、この負の遺産を、体系的に、外部から改革するプロセスです。そして、この改革は、明確に「得をする人」と「損をする人」を分けるわけです。
個人投資家として、この改革の「得をする側」に立つためには、明確な戦略が必要です。PBR1倍割れ×キャッシュリッチのスクリーニング、シルチェスター的な選別論理、アクティビスト絡み銘柄のウォッチ、MAF/NAVFでの間接投資――これらを組み合わせることで、日本の30年の変革の恩恵を、最大限に享受できるわけです。
「PBR1倍割れ改革で得をする人、損をする人」――この構造を理解し、行動することで、日本株投資家として、10年後、20年後のリターンは、明確に変わるはずです。
日本市場は、いま、歴史的な転換点にあります。この転換点に立ち会えること自体が、日本株投資家としての最大の幸運です。東証改革の波に乗り、日本の資本主義の変化のプロセスに参加し、その恩恵を享受する――これが、私が本記事を通じて、皆さんに伝えたいメッセージです。
日本株投資が、これほど面白く、これほど知的に豊かな営みになる時代は、日本の歴史上、極めて稀有です。この時代を、日本株投資家として、思い切り楽しんでいきましょう。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券・金融商品の取得・売却を勧誘するものではありません。投資判断はご自身の責任において行ってください。記載の運用資産・保有比率・株価等は執筆時点の公開情報に基づくものであり、時点により変動します。個別銘柄の売買予測や将来のリターンについては、あくまで筆者個人の見立てであり、実現を保証するものではありません。
(参考:本記事で言及した主なデータの出典)
公式・一次情報
- 東京証券取引所「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」(2023年3月末)
- 金融庁 スチュワードシップ・コード、コーポレートガバナンス・コード
- 経済産業省「同意なき買収」指針(2023年8月)
- 金融庁EDINET(大量保有報告書、変更報告書)
- 各社適時開示、有価証券報告書
新聞・通信社・経済誌
- 日本経済新聞、東洋経済オンライン、日経ビジネス、ダイヤモンド編集部
- Bloomberg「エリオットの住商株取得、日本の変化浮き彫り」(2024年4月)、豊田織機TOB関連(2026年2月)
- Reuters、Financial Times
専門メディア・その他
- 大和総研「アクティビスト投資家の近時動向」(2026年4月)、「アクティビスト投資家動向」(2025年2月)
- 公益財団法人 日本証券経済研究所「2025年6月株主総会の振り返りとアクティビスト投資家動向」
- 東証マネ部!「アクティビストの活発化が日本企業に与える影響」
- BUSINESS LAWYERS「CGコード策定から6年、『東芝の株主提案可決』に見るガバナンス改革の現在地」
- みずほ証券アクティビスト解説
- マネックス証券「アクティビストファンド」解説
- 各アクティビスト公式サイト・特設キャンペーンサイト
書籍
- 中神康議『三位一体の経営』(ダイヤモンド社)
- 中神康議『投資される経営 売買される経営』(日本経済新聞出版社)
- 菊地正俊『アクティビストの衝撃』(中央経済社)
