氷河期世代の公務員へのあこがれ
氷河期世代は新卒採用という就職のスタート時点でつまづいた為、安定職とされる公務員に憧れを持っている人が少なくありません。氷河期世代においては、民間企業の採用が低調であったため、公務員の採用倍率が非常に高く、公務員採用試験に通らず残念な思いをした人が数多くいます。それは、氷河期世代を対象にした公務員中途採用試験の倍率が数百倍にも及ぶことが少なくないことからも氷河期世代が公務員に対し強い思いを持っていることからも分かります。就職氷河期世代を対象としている公務員試験の割には、合格者が十分な職歴を持っていたり高度な技能を持っているなど単なる民間から官への優秀な人材の流出に過ぎないのではないかという批判はありますが、一応は行政として就職氷河期世代の救済を行っているという体面は保ちたいようです。
下記の表は人事院が公表した2023年度国家公務員中途採用選考試験(就職氷河期採用)の結果です。多くの人が志望する事務職は非常に狭き門となっていることが分かります。
国家公務員就職氷河期世代採用参照:人事院ホームページ
公務員は、建前上は女性と男性は同じ待遇とされており、女性の管理職も多数存在します。産休で休むことも民間企業に比べれば比較的容易で、産休からの復帰後もスムーズにいく場合が多いようです。まだまだ男女平等とは名ばかりの民間企業に比べれば待遇として恵まれています。
安定からほど遠い職場を転々とした人にとっては、安定がほぼ保証されている公務員という職場は素晴らしいものに映ることでしょう。当然、公務員は憧れの対象となります。
安定志向?公務員は最強か?
女性の医師信仰と同様に、公務員信仰にも根強いものがあります。安定安心高収入!というイメージがあるようです。特に目立った産業がない地方の場合、公務員以外のまともな仕事がないため、公務員がすごくモテるということもあるようです。離島やへき地などものすごい田舎では職がなければ、公務員がほぼ唯一といっていいほど地元に残る手段となります。民間企業が公務員と比べて極めて低い待遇しか用意していない地域は確かに数多く存在します。こうした地域で暮らしたければ猛勉強して公務員を目指すことが得策でしょう。
待ってください!
公務員といっても色々あります。おそらく、霞が関のエリートである総合職国家公務員をイメージしていますか?市役所や県庁のような地方公務員もあります。自衛隊のような特別な世界の公務員も存在します。年収200万円にも満たないくらい待遇が悪いと評判のある非常勤公務員も最近ではあります。会計年度ごとに契約が更新されるような非正規雇用に近い公務員も存在しており、こうした公務員は最近では「官製ワーキングプア」とも呼ばれています。また、小学校中学校教員のようにブラック職場であることが広く知れ渡っているような職種も存在します。小学校や中学校の教員は建前上は「全体の奉仕者」でなければならない為、際限なくモンスターペアレントや地域住民などから要求が突き付けられてしまい、プライベートが損なわれて病んでしまい退職する人が少なくないといいます。こうした実情を反映してかどんどん小学校や中学校の教員の就職人気は低迷傾向にあります。教員免許がない社会人や、大学3年生でも教員の公務員試験を受験できるようにするなど現場の人員不足を埋める施策が取られてはいますが、人気は低迷傾向にあります。
こうした実情を知らずして、公務員だから安心というのはあまりにも安易ではありませんか?
最近では、北海道の夕張市のように財政再建団体に転落(民間でいう所の破綻)して、公務員の待遇が大幅に引き下げられた事例もあります。近年では、いくつかの地方公共団体の財政見通しが暗く、財政再建団体に転落する可能性が示唆されています。公務員だからと言って安泰ではありません。
また、行政改革によって、旧社会保険庁が解体されたり、国鉄や電電公社、郵便局が民営化された事例も記憶に新しいところです。一生安泰だと思っていたのに、時の政府の意向によって公務員の待遇が失われることもこれからは考えておかなければいけません。国鉄の場合は全員がJRに採用されたわけではないですし、郵便局では民営化後に採用された非正規雇用職員の待遇が良くないことが知られています。社会保険庁も解体の過程で不祥事が噴出しました。なにより、官から民間に移籍となることは、待遇の切り下げだけではなく、職員のプライドや士気にも関わります。
公務員の給与に関しても引き下げの余地があります。公務員の給与は民間の給与に基づいて決定されますが、基準となる民間企業として零細企業は含まれていません。もし、政府が公務員の給与を引き下げることを検討したら、基準となる民間企業に規模が小さく給与水準の低い零細企業も含めれば簡単に引き下げができてしまうことになります。民間と比べ高待遇であるという批判が高まれば政府としても、公務員の給与削減も検討しなければいけないかもしれません。
また、不祥事を起こせば民間企業ほど厳しくないにしても懲戒処分があります。場合によっては職を失うことも考えられます。コンプライアンス意識の高まりとともに、公務員とはいえどいい加減なことはできません。公務員は昔ほど気楽な職業ではなくなってきています。
もし公務員の職を失った場合、お相手は民間の企業で務まるでしょうか?民間企業の中には、一般的な公務員に対し否定的な見解を持っているところも少なくありません。融通が利かない、ビジネススキルが不足している、親方日の丸で態度が高慢であるなどです。全ての公務員が民間企業で務まらないとは思いませんが、民間企業と比べればぬるま湯の環境で仕事をしてきた公務員を積極的に採用しようとは思わないでしょう。お相手が公務員という肩書をなくしても、支えるあうことができるという自信がなければ、公務員という肩書に踊らされて結婚したことにしかならないかもしれません。
また、あまり可能性は高くありませんが、日本に好景気が再来した際には、公務員の安定性が裏目に出る可能性があります。民間の給与はどんどん上がっているのに公務員の給与はあまり上がらないということも考えられます。低位安定という状態にもなりかねません。実際に、1980年代後半頃のバブルにおいては、公務員が大手企業の待遇の良さを羨んでいたという話を聞いたことがあります。今は、民間に活力がないので公務員の待遇が羨ましく思えるかもしれませんが、逆転するときがくる可能性がないとは言えません。
ホワイト職場の公務員を選ぶ
公務員と結婚したいのなら、本当にその職場がホワイト職場か調べましょう。ホワイト職場とは、労働に見合った対価が支払われている職場のことです。労働環境が良いため、定着率も高くなります。例えば、霞が関のエリート官僚は高年収を貰っていそうですが、意外とそうではなく、労働時間も極めて長いため、時給換算では安いのです。エリートと結婚したつもりが、主人はいつも仕事で、給料が安いという場合も十分あり得るのです。お相手の職場がホワイト職場かどうか調べるには、やはりお相手に聞くしかないでしょう。年収は、統計が充実しているのである程度推測できますし、結婚相談所経由なら詳細な数値も分かるはずです。公務員は、職務に基づいた給料と就業年数が組み合わされた俸給基準で給与が決まるので、役職と就業年数が分かればある程度の確度で給与を求めることができます。
問題は労働時間です。これは、統計だけでは分かりません。時間きっちりに終われば公務員程美味しい仕事はなかなか見つからないでしょうが、実際は雑用も多く労働時間が長くなりがちです。何時から何時まで働いているのか労働時間をしっかりと確認しましょう。例えば、霞が関のエリート官僚が国会答弁の為に徹夜をしたり、雑事に追われていることは周知の事実です。事実として、民間企業の採用意欲の高さもあって、国家公務員総合職のキャリア組と言われる採用倍率は低下傾向にあります。
ひと昔前なら、国家公務員のキャリア組は莫大な退職金を受け取ることが可能で、天下り先と呼ばれる関連団体の要職を渡り歩いて退職金を手にすることも可能でしたが、コンプライアンス意識の浸透に伴い、以前ほどの旨味はなくなっていると言われています。確かに、公務員キャリア組の配偶者になれば額面上の高収入や名誉が手に入るかもしれませんが、実態は長時間労働で家庭の時間が取れず、家庭崩壊寸前という事態も考えられます。これでは、結婚した意味がお金と名誉しかなくなってしまいます。
一方、田舎の市役所は緩いところが多いです。部署にもよりますが、定時に出勤して定時に帰ることが可能な役所もまだまだあります。これで地方では平均以上の年収が貰えるとしたら、霞が関のキャリア官僚とどちらがよいのか分からなくなります。
要は、ワークライフバランスです。仕事ばかりでお金だけあっても仕方がないし、仕事と報酬のバランスが程よく取れている職場が理想だと言えます。言葉で言うことは簡単ですが、婚活をしている人がどのような生活を実現したいかに大きく影響するので、お相手の仕事のことはしっかりと聞きましょう。
また、都会には公務員以上に待遇が良い企業は数多くあり、別に公務員を目指さなくても安定した優良企業に就職することが安定性を求める場合において良い場合があります。田舎には選択肢は少ないですが、都会においては公務員は選択肢の一つにしか過ぎません。
公務員に近い待遇の職場も選択肢に入る
公務員だけにこだわるのではなく、安定した職場を選ぶなら、電力ガス水道や通信などインフラ系統の職場も給与が比較的高く、就業時間もそれほど多くありません。また、独立行政法人など準公務員のような職場も好待遇の可能性もあります。経営が安定した私立大学の職員もねらい目です。
最近では、転職や就職の口コミサイトが充実してきているので、お相手の働いている環境がどんなものか調べるために、利用してみるのも一つの手です。ただし、こうした安定職のお相手は人気が高いため、自分磨きが欠かせないことは言うまでもありません。
小学校教師の人気低下という現象
2024年現在、公務員人気は一部の職種において下火になっているようです。もちろん、まだまだ倍率の高い職種は多数存在します。
特に、過重労働が知れ渡った感のある小学校教員の応募倍率低下に歯止めが掛かっていません。小学校教員と民間企業の待遇の差が地方と比べて小さい東京など都心部では、種別によっては倍率が1倍割れ目前の時期もあります。国の根幹を支える教育のレベル低下が危惧されるところではあります。もっとも残業代が極度に制限され実態は働かせられ放題の職種をわざわざ選ぶ人はなかなかいないでしょう。モンスターペアレントの対応に時間を取られ、部活に休日を取られ、授業の準備にも時間が必要で、プライベートは極度に制限されます。
東京都公立学校採用選考試験それに対し、民間企業では新卒社員の初任給を上げる動きも活発で、働き方改革も進んでいます。公務員のメリットであった民間と比較しての待遇の良さや安定感、相対的なワークライフバランスの良さが失われています。よほどやりがいや社会奉仕の観念の強い人でないと小学校教員を目指す人はどんどん少なくなっていくでしょう。
政府は教員資格の緩和や待遇の改善など進めているようですが、小学校教員職への応募者は増えていません。人工知能の発達やICTの発達による遠隔教育の発展により、教師の役割は根本的に変わりました。教師の役割を根本的に見直さない限り、小学校教師が再び人気職種になるとは到底思えません。
国家一種(総合職)のレベル低下について
かつては国家一種と言えば、東大京大クラスの秀才たちが競って受験したものです。国家一種に合格したから希望官庁に入庁できるとは限らず、大蔵省など霞が関の中で格の高い省庁に入省できれば、ワークライフバランスはともかく安定した昇給、退職後の天下り先の確保など将来は明るいものでした。
しかし、昨今においては東大京大生の中でも最優秀層は国家一種は滑り止め程度にしか考えていない様です。アメリカにおいては、最優秀層は起業して莫大な富を築き、次は大企業、次が官庁に就職すると言われています。遅まきながら、日本もアメリカのように就職人気において官公庁の地位が低下しつつあるようです。東大や京大のエリート層が減った代わりに地方国立大や中堅私立大学の中から国家一種に合格する人が増えました。18歳時点の偏差値が人間性や社会性を表わすわけではありませんが、相対的に見てレベルが低下したことは事実のようです。
下記の資料表3に国家公務員総合職合格者の出身校が記載されています。東大京大出身者は依然として多いですが、地方国立大学や中堅私立大学も散見されるようになっています。
国家公務員総合職出身大学参照:人事院ホームページ
外資コンサルや外資IT、メガベンチャー企業に行けば、新卒であったとしても利益を上げさえすればどんどん評価され収入増や昇進が見込めます。それに対し、国家公務員はエリートとは言え、決められた枠内での昇進昇格であり給与も民間に比べれば見劣りがします。天下りという悪習も昨今のコンプライアンス意識の高まりにより難しくなっています。はっきり言えば、国家公務員になっても旨味がない、若者風に言えばコスパが悪いのです。霞が関は不夜城と称されるような働かされかたをされ、国民には税金泥棒と呼ばれ、天下りという美味しいボーナスも消滅しつつある。そんな魅力のない職業にエリートがわざわざ就くでしょうか?