婚活パーティーで「ご職業は?」と聞かれた瞬間に詰む話

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婚活パーティーで「ご職業は?」と聞かれた瞬間に詰む話

参加費6000円の賭け

婚活パーティーに参加したことがある。2回だけ。

参加費は男性6000円。女性は2000円。この価格差自体がメッセージだ。「男性は金を払え、女性は来てくれるだけでありがたい」。婚活市場における男女の需給バランスが、参加費に反映されている。

6000円。月の自由に使えるお金の中から6000円を捻出するのは簡単ではない。6000円は、半額シールの惣菜40個分。発泡酒30本分。NISAの月額積立1ヶ月分強。この6000円を婚活パーティーに投じることの合理性を、脳内電卓が問いかけてくる。「その6000円、NISAに入れたほうがリターン高くない?」。黙れ、電卓。今日は人生のパートナーを見つけに行くのだ。

会場はカフェの個室。男性10人、女性10人。20代後半から40代の年齢層。プロフィールカードが配られる。名前(ニックネーム可)、年齢、職業、趣味、相手に求める条件。これらを記入して、テーブルに置く。

記入する。年齢:45歳。ここで少し躊躇する。45歳は、この場では最年長の部類だろう。周囲を見渡すと、30代前半くらいの男性が多い。私は最年長。この時点で、すでにハンデを感じている。

趣味:読書(嘘ではないが薄い)。相手に求める条件:特になし(本音は「会ってくれるだけでありがたい」)。

そして、職業。ここで手が止まる。

「ご職業は?」の破壊力

プロフィールカードに「派遣社員」と書くか。書いた場合、カードを見た女性の反応は予測できる。目が一瞬止まる。そして次の項目に移る。移った先で何を思っているかは、表情からは読み取れないが、推測はできる。

「会社員」と書くか。マッチングアプリのときと同じ葛藤だ。嘘ではないが、正確でもない。会って話せば、いずれ実態がバレる。バレたときの信頼の失墜は、最初から正直に書くよりも大きい。

結局、「会社員(事務職)」と書いた。派遣であることは、会話の中で聞かれたら答える方針にした。聞かれなければ言わない。聞かれたら正直に言う。この「受動的正直」が、私の婚活における生存戦略だ。

パーティーが始まった。回転寿司形式。男性がテーブルを移動し、女性は固定。1人3分の会話。3分で自己紹介をし、印象を残し、次のテーブルに移る。

3分。短い。だが3分あれば、必ず聞かれる質問がある。名前のあとに来るのは、たいてい職業だ。

「お仕事は何をされているんですか?」

来た。この質問が来た。1人目の女性から、開始30秒で。

「事務の仕事をしています」。曖昧に答えた。「事務」は嘘ではない。だが「どちらにお勤めですか」と追加で聞かれたら詰む。追加質問が来ないことを祈りながら、話題を趣味に逸らした。「読書がお好きなんですね、何を読まれるんですか」。

逸らせた。セーフ。1人目は職業の深掘りなしで3分が過ぎた。

2人目。「ご職業は?」。また来た。「事務です」。「あ、事務って大変ですよね。残業多いですか?」。残業。派遣社員の残業は少ない。少ないと答えると「楽そうですね」と思われる。多いと答えると嘘になる。「まあ、普通ですかね」。曖昧に逃げた。

3人目。「お仕事は?」。「事務をやっています」。「正社員ですか?」。

来た。直球。ストレートど真ん中。避けられない。

「いえ、派遣です」。正直に答えた。

相手の表情が変わった。変わったと言っても、大げさなものではない。目の温度が0.5度下がった程度。声のトーンが微妙に変わった程度。だがこちらは、何百回もこの反応を経験しているセンサーの持ち主だ。0.5度の変化を正確に検知する。

「そうなんですね」。その「そうなんですね」のあと、会話の流れが変わった。相手の目線がプロフィールカードに戻る。年齢45歳、派遣社員。このスペックを確認するように。3分のタイマーが鳴った。「ありがとうございました」。次のテーブルへ。

10人と話して、マッチングゼロ

10人の女性と3分ずつ話した。合計30分。30分間、職業の質問を10回受けた。10回中7回は「事務です」でかわせた。3回は「正社員ですか?」と深掘りされた。3回とも正直に「派遣です」と答えた。3回とも、表情の温度が下がった。

パーティーの最後に、マッチング希望カードを提出する。気になった相手の番号を書いて提出し、お互いが番号を書いていればマッチング成立。

結果。マッチングゼロ。

ゼロ。10人と話して、誰ともマッチングしなかった。6000円と2時間を費やして、得たものはゼロ。いや、ゼロではない。「婚活パーティーでは45歳の派遣社員に勝ち目はない」という確認を得た。確認は、得たものに含めていいのかどうか。

2回目の参加

それでも2回目に参加した。1回で諦めるのは早い。たまたま今回の参加者と合わなかっただけかもしれない。次は違う結果が出るかもしれない。

2回目は、対策を変えた。職業を聞かれたら、「事務」ではなく「オフィスワーク」と答えることにした。カタカナにすると、少しだけ印象が変わる気がした。気のせいかもしれないが。

結果。マッチングゼロ。2回連続ゼロ。合計12000円を投じて、マッチングゼロ。打率ゼロ割。完封負け。

2回目の帰り道、スマートフォンでNISAの口座を確認した。12000円あれば、NISAの積立2ヶ月分以上だ。2ヶ月分の積立を、婚活パーティーに溶かした。20年後、12000円が複利で倍になっていたかもしれない。婚活パーティーのリターンはゼロ。NISAのリターンはゼロ以上。投資として見れば、NISAのほうが明らかに合理的だった。

3回目はない。もう行かない。6000円の参加費を払って「派遣です」と答えて表情の変化を検知する2時間を、これ以上繰り返す気力はない。

「ご職業は?」がフィルターとして機能する構造

婚活の場において、「ご職業は?」は単なる質問ではない。フィルターだ。

婚活パーティーに参加する女性の多くは、結婚相手に経済的な安定を求めている。これは批判ではなく、現実の描写だ。結婚生活には経済基盤が必要であり、相手の職業と年収は、その基盤を推し量る最も手軽な指標だ。

「ご職業は?」と聞くことで、相手の経済力を瞬時に判断できる。医師、弁護士、大手企業の正社員。これらは「経済的に安定している」と推定される。派遣社員、フリーター、無職。これらは「経済的に不安定」と推定される。推定されるだけで、実際の経済状態とは一致しないこともあるが、3分間の会話では推定に頼るしかない。

このフィルターに引っかかると、他にどんな魅力があっても、通過できない。面白い話ができても、優しい性格でも、見た目が悪くなくても。「派遣社員」のフィルターで弾かれる。スペックの段階で除外される。人間性を見てもらう前に、肩書きで判断される。

これはマッチングアプリと同じ構造だ。スペックが先、人間性は後。順序が逆だと、氷河期世代の非正規は常に不利だ。人間性を先に見てもらえる場があれば、結果は違うかもしれない。だがそういう場は、婚活の世界にはほとんどない。

「ご職業は?」と聞かれない世界

もし婚活の場で職業を聞かれなかったら、結果は違っただろうか。

海外の一部の婚活イベントでは、職業や年収を伏せた状態で交流するスタイルがあるらしい。最初は名前と趣味だけで話し、相性を確認してからスペックを開示する。この順序なら、人間性を先に評価してもらえる。

日本の婚活文化は、スペック先行だ。最初に年齢、職業、年収をオープンにして、条件で絞り込んでから人間性を見る。この順序では、スペックが低い人間は最初のフィルタリングで落ちる。フィルタリングに通らなければ、人間性を見てもらう機会すらない。

私の人間性が婚活市場でどの程度の価値があるかは、わからない。わからないのは、人間性を見てもらう機会がなかったからだ。機会がないから評価されない。評価されないから、自分の「人間としての魅力」がどの程度あるのか、フィードバックがない。フィードバックがないまま、「スペックが足りない」という結論だけが残る。

スペックが足りない。それは事実だ。年収は低い。雇用は不安定。年齢は高い。これらは変えようがない。変えようがない部分で判断される婚活の世界で、変えようがない人間は、席に座っているだけで負けが確定している。

だとしたら、婚活パーティーは私にとって最適な場ではなかった。6000円の参加費は、場の選択を間違えたことの授業料だったと思えば、少しは気が楽だ。少しだけだが。

職業を聞かれることへの慣れ

婚活に限らず、人生のあらゆる場面で「ご職業は?」と聞かれてきた。同窓会、飲み会、美容院、初対面の雑談。そしてそのたびに、微妙な空気の変化を経験してきた。

20年も経験すると、慣れる。慣れるというより、反応のパターンが予測できるようになる。「派遣です」と言ったあとの相手の反応が、5パターンくらいに分類できる。どのパターンが来ても対応できるように、心の準備ができている。

だが婚活の場での「ご職業は?」は、他の場面とは重みが違う。日常の雑談では、職業は会話のネタの一つにすぎない。婚活では、職業は選考基準だ。選考される場で、不利な回答をしなければならない。この緊張は、何度経験しても慣れない。

「ご職業は?」。この3文字の質問に、これほどの重さがあることを、正社員の人は知らないだろう。知らなくていい。知る必要がない人は、幸せだ。知らなければならない人間だけが、この質問の重さを噛み締めている。

このエッセイは、就職氷河期世代のひとりの個人的な記憶と感想に基づいています。婚活で職業を聞かれて困った経験がある人は、きっと少なくないはずです。

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